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025 父上とディアナの模擬戦

「さすがですわね。まさか、ディアナの暗器を苦笑一つで弾かれるとは……。『アクロイドの猛虎』の名は伊達ではありませんわね」

「え?」


 シンディーにはさっきの攻防が見えたの!?


 ていうか、『アクロイドの猛虎』って何!?


 めちゃくちゃかっこいいんだけど!


「では、やるか。ここに銀貨が一枚ある。こいつを弾いて、地面に落ちた時が模擬戦開始の合図だ。これでいいか?」

「かしこまりました」


 父上の説明にコクリと頷くディアナ。


「じゃあ、いくぞ?」


 キーンッと涼やかな音を立てて父上に空高く弾かれる銀貨。


 しかし、重力のくびきからは逃れることはできず、回転しながらだんだんと落ちてくる。


 ついに、二人の模擬戦が始まる――――!


 音を立てることなく砂の上に落ちる銀貨。


 その瞬間、父上とディアナの姿がブレて見えた――――!?


「は!?」


 遅れて聞こえてくるのは、カカカカンッという素早い金属音。


 そして、ディアナへと迫る父上の姿だ。


 しかし、その歩みはゆっくりとしたものだった。


 まるで散歩するかのようにゆっくりと歩く父上。


 だが、その手に持った大剣を小刻みに動かしているのがわかった。


 一方のディアナは、両手を素早く振っていた。


 ディアナの手には何も握られていなかったので、最初は何をしているのかわからなかった。


 しかし、先ほど聞いたディアナの暗器という言葉。


 もしかして、ディアナはさっきからずっと暗器を投げているのか?


 僕の言葉を肯定するように、カカカカンッという鋭い音と共に父上の大剣から火花が散っているのが見えた。


「あ……」


 僕には駄々をこねるようにぶんぶん腕を振っているディアナと、ディアナにゆっくりと歩いて行く父上にしか見えない。


 でも、二人とも僕には知覚できないほど高度な戦闘をしている?


 その時、カンッと父上の大剣に弾かれた物が僕の近くの地面に刺さった。


「うわぁ……」


 それはまるでちょっと大きな針のような鋭い金属片だった。艶消しがされているのか、煤けたように真っ黒だ。棒手裏剣という言葉が脳裏に浮かんでくる。


 これが、ディアナの投げている暗器の正体。


 そして、父上が弾いている物の正体。


 もう何度響いたかもわからないほど聞いたカカカカンッという音。


 この音の回数だけディアナは暗器を投げ、父上はそれを弾いている。


 もう訳がわからない。人間にこんな高速戦闘が可能なのか?


 いや、元はと言えば、ここは『レインボー・ファンタジー』のゲーム世界だ。


 ということは、ゲームのようにレベルがあり、レベルが上がると身体能力が上がるのだろうか?


 だって、そう考えないと二人の戦闘は説明がつかない。


「これは……」


 冒険より先にレベル上げを検討した方がよさそうだね。


 そして、父上とディアナの模擬戦だ。


 永遠に続くかに思われたディアナの暗器投げだったが、ここでディアナが動く。


 まるで地を這うかのような低姿勢で父上に突っ込んでいくディアナ。


 その手には真っ黒な苦無のような短剣が握られていた。


 対するは成人男性の中でも一際大柄な父上だ。その対比はまるで大人と子ども。


 いや、ディアナはまだ七歳だから子どもなんだけどさ。


 キンキンキンッと連続で音が弾ける。


 おそらく、ディアナが攻撃して、父上が防いだのだろう。


 ディアナはそのまま父上を中心にぐるぐる高速で回り出す。


 パワーでは父上の方が上なのだろう。鍔迫り合いをしても負けるだけだ。ディアナはどうにかして父上の隙を狙いたいはず。


 それにしても父上はすごいな。まるで背中にも目が付いているんじゃないかと思うほど正確にディアナの攻撃を弾いている。


 しかし、そんな展開もいつまでも続かない。


 ついに父上が動く――――!


「だら!」


 振り抜かれた父上の大剣。その速度は僕の目では追えないほど速かった。


 これにはディアナも驚いたのか、先ほどよりも距離を取って父上と相対している。


「いくぞ! 死ぬなよ?」


 そうして始まった父上の乱舞。


 まるで息を吐かせる暇すらないほどの連続攻撃。


 しかし、それをディアナは避ける!


 身の動きを最小限にして、まるで次にどんな斬撃が放たれるのか知っているかのように父上の大剣を躱してく。


「だらっしゃ!」


 そして、父上が横薙ぎを放った瞬間、ディアナの姿が消えた。


「え!?」


 いつの間にか、ディアナが父上の大剣の上に乗ってる!?


 これは二人の模擬戦を遠くから見ていた僕だから気付けたことだ。


 父上は気が付いているのか?


 そのまま、大剣を伝うように父上に接近するディアナ。


 その鋭い苦無が父上の喉を――――!?


「ここまでだな」


 父上がそう言った次の瞬間には、父上はディアナの頭を掴んだ状態で立っていた。


 ディアナは気を失っているのか、四肢をだらんとしている。まるで人形みたいだ。


 あの一瞬で、何が起きたんだ!?


「さすがに真正面からの戦いでは『アクロイドの猛虎』には敵いませんでしたか。ディアナは不意打ちやあんさ……不意打ちを得意としていますからね」


 シンディー!? あんさ……って何を言いかけたんだよ!? 暗殺じゃないよな!?

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