↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/48

023 マーク・アクロイド③

 「キース、お前は村の外に出たいのか?」


 オレがそう切り出すと、真剣な話をしようとしているのがわかったのか、キースが床から立ち上がってオレを真剣な顔で見上げた。水の猫はキースの肩に乗って、キースの頭に顔を擦りつけている。


 えっと? 真剣、なんだよな?


 もしかしたら、キースはもう意識しなくても水の猫を操れる領域になっているのかもしれない。


 息子の成長だ。それ自体は非常に喜ばしいのだが、なんだか力が抜けてしまう。


 そんな息子の肩に乗っている水の猫にクレアが人差し指を伸ばす。


 水の猫はクンクンとクレアの指先の臭いを嗅ぐと、嬉しそうにその顔をクレアの手に擦りつけ始める。鳴けるならゴロゴロ鳴いてそうな仕草だ。


「まるで本物の猫ちゃんみたいですね。素晴らしいです!」

「ありがとうございます、母上!」


 キースはクレアに褒められて嬉しそうに笑っていた。


「キースは村の外に出てみたいのですか?」

「はい! 僕はまだ村の中しか知りません。村の外を見てみたいのです!」

「そうですか……」


 クレアの笑顔が少しだけ曇るのがわかった。


 許されるのなら、キースにはこのまま安全な村の中で過ごしてほしい。


 そして、安全な揺り篭の中で生きてほしい。


 だが、オレたちがどんなにそれを望んだとしても、貴族院に入る十二歳には王都に行かなくてはならない。


 そのことを思えば……!


「いいだろう、キース! 外出を許可する!」

「いいのですか!?」

「あなた!?」


 オレの言葉にキースは目を輝かせ、クレアは悲鳴のような声をあげる。


 だが、オレの言葉には続きがあった。


「だが、それはオレとの模擬戦でオレから一本取った後だ!」

「模擬戦……?」


 キースがこてんと首を傾げた。よく見れば、キースの肩に乗ってる水の猫も首を傾げている。


 かわいいな。


「うおっほん!」


 ちょっと気が緩みそうになったが、大きな咳払いをしてなんとか耐えた。


「そうだ。木剣を使った魔法ありの模擬戦だ。キース、そしてディアナ、オレはお前たちの実力が見たい」


 キースが貴族院に入る時、オレもクレアもこのアクロイド男爵領の地を離れられないだろう。オレは領主だし、クレアも領主夫人だ。仕事などいくらでもある。


 それに、そもそも王都にアクロイド男爵家の屋敷などない。王都に駐在することもできんのだ。


 シンディーにキースの面倒を頼もうと思っているが、何か問題が発生した時、キースたちには自力で解決してもらわなくてはならないだろう。


 いざという時、頼りになるのはやっぱり力だ。パワーだ。


 元々、そろそろキースに稽古をつけることを考えていた。それが少し早まっただけ。それに、オレから一本取る頃には、それなりの実力を身に付けているはず。


 だから、これでいいんだ。


「あなた! そんなこと軽々と約束してしまっていいんですか!?」


 クレアがオレを珍しく怖い顔で見上げてくる。もう手も出んばかりだ。


「大丈夫だ。キースの相手はオレだぞ? 貴族院では大会で優勝したこともある。任せておけ」

「それはそうですけど……」


 少しは冷静になったが、未だになにか言いたそうなクレア。


 これは後でもう一度話し合いが必要かもな。


 だが、オレは自分の意見を曲げるつもりはない。


「というわけだ、キース。オレと模擬戦、やるか?」


 オレは意識して怖い顔を作る。これで怯むようなら、キースの外に出たいという気持ちはそれまでだったということだ。当分、外に出るのは無理だな。


 だが、キースはオレの予想に反して嬉しそうに笑ってみせた。


「はい! やります! 試したいことがたくさんあるんですよ。えへへ、何を試そうかなー?」


 なぜだか、このままだとキースの実験台になりそうな悪寒がした。


 悪寒なんて感じたのはいつぶりだ? 王国一の使い手に指南してもらった時以来じゃないか? それを息子、まだ五歳の息子から感じるのはなぜだ?


「さっそくやりましょう、父上!」

「う、うむ」


 なんだか嫌な予感がするが、自分から言い出したことなので否はない。


「庭でやるぞ。木剣は持ったか?」

「はい!」


 キースがてててっと走って机の上に置かれていた古びて無数の傷が付いた木剣を手に取った。キースが赤ん坊の頃に譲ったオレの宝物だ。今は亡き親父が作ってくれたものだ。できればキースの顔を一目見て逝ってほしかったが、少しだけ間に合わなかった。


「楽しみにしていたんだがなぁ……」


 キースの誕生を誰よりも心待ちにしていたのは親父だっただろう。そんな親父も呪いには勝てず、最期は呼吸がままならず、陸の上で溺れるように死んでしまった。


 もう少しだけ生きてほしかった。


 そしたら、キースの魔法を誰よりも喜んでくれただろう。


「父上?」

「いや……」


 気が付けば、キースが不思議そうな顔でオレを見上げていた。


 少しだけしんみりした気持ちになってしまった。


 そうだ。模擬戦が終わったら、親父の墓参りに行くか。

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。

下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。

☆1つでも構いません。

どうかあなたの評価を教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。