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022 マーク・アクロイド②

「話はもう一つありますわ」

「まだあるのか?」


 オレはちょっと寂しい気持ちを振り切ってシンディーの話を聞くことにする。


「それで、話とは?」

「キース様を村の外に連れ出す許可をいただきたく――――」

「ダメだ!」


 気が付けば、オレは執務机を叩いて立ち上がっていた。


「キースが命を狙われている。そう言ったのはシンディー、お前だろ!? なぜ危ない方へ自ら行くのだ!?」


 アクロイド村は小さな村だ。村の中ならば、よそ者の存在など一発でわかる。それに、村の外に出れば、いつモンスターに襲われるかわかったものではない。なぜ村の外など危ないところにキースをやらなければならない!


「落ち着いてください、ご領主様」

「これが落ち着いていられるか! シンディー! お前は何を企んでいる!」

「これは私の企みではございませんわ。キース様自身が望まれたことです」

「なに!?」


 キースが、村の外に出たいと望んでいるのか!?


 思えば、オレも小さい時は狭い村の中ではなく、どこまでも続く村の外に遊びに行きたがったものだ。


 実際、今の自警団の連中と一緒に何度も村の外に冒険に出かけたこともある。


 まあ、その度に怒られたが。


 そう考えると、キースの望みもわからなくはない、か……。


「しかし……」


 そう。しかし、だ。今は時機が悪い。不特定の者たちがキースの身柄を狙っている中で、キースを村の外に出すというのはな……。


「やはりダメだ」

「私とディアナがキース様の護衛に就いてもですか?」

「シンディーとディアナが……?」

「知っての通り、私は平民ですが、火と光の二つの属性を持つ魔法使いです。実戦もそれなりに。そして、ディアナはあのマクノートンの首席ですわ。必ずやキース様をお守りします」


 シンディーは単独でローダス山脈を何度も越えている凄腕の魔法使いということは知っている。しかし、ディアナの実力についてはまだ未知数だ。この機会に実際に見てみるのもいいかもしれない。


 オレは考える。


 そして、答えは出た。


「シンディー、行くぞ」


 オレは立ち上がると、まずは夫婦の寝室へ。


「あら? あなた、どうなさったの?」


 日当たりの良い窓辺の椅子に座って、クレアが刺繍をしているのが見えた。おそらく、キース用のマントに刺繍しているのだろう。キースがマントを使うのは貴族院に入ってからだ。まだ早いと思うのだが、クレアはたくさん刺繍の入った豪華なマントをキースに持たせてやりたいようだ。


 悔しい話だが、最近はキースのおかげで少しはマシになったとはいえ、アクロイド男爵領では作物の育ちがよくない。どういうわけか、ここアクロイド男爵領だけ雨が降らないし、そのせいで土が枯れているのだ。


 そのせいで、アクロイド男爵領は非常に貧しい。クレアもあまり裕福ではない辺境の生まれとはいえ、クレアの実家よりも貧しいのだ。住民を食わせるために借金を重ねたこともある。


 クレアもそれを知っている。だから、キースのマントに刺繍を施しているのだ。


 マントの布は正直、それほどいいものではない。だから、クレアはマントに刺繡を施して、少しでも豪華にして、キースがバカにされることがないようにしたいと願っているのだ。


 オレも貴族院の制服の質が悪いと散々からかわれたからな。クレアの危惧もわからなくはない。


 そんなキース思いのクレアだが、まだお腹は目立たないが、クレアのお腹にはオレの二人目の子どもがいるらしい。


 あまり無理はさせられないが、これからの話はキースに関する重要なことだ。クレアも聞いていた方がいいだろう。


「クレア、すまないが来てくれないか? キースのことで少し話がある」

「旦那様、そのお話というのはここではいけないのですか? 奥様は……」


 クレアの後ろに控えていたアビーが、クレアの体調を気遣って言う。


「大丈夫ですよ、アビー。行きます」

「すまないな」

「キースのことなのでしょう? なら、わたくしが行かなくては」


 そう言って、クレアが椅子から立ち上がる。


「キースの部屋で話そうと思うんだ」

「わかりました」

「このアビーも行きますよ!」


 そのままクレア、シンディー、アビーを連れてキースの部屋へ。


「邪魔するぞ」


 ドアを開けると、キースの部屋の中に水の猫が歩いていた。


 水の猫は、オレの登場にビックリしたのか、慌てた様子でキースの陰に隠れてしまった。


 まるで本物の猫のようだ。これって、キースが操作してるんだよな? それとも、本当に水の猫に魂が宿っているのか? 相変わらずの我が子の魔法はわけがわからん。


「父上? と、母上? お呼びいただければ、僕から伺ったのに」


 部屋の中央で床に座ったキースの背後には、ディアナが何を考えているのかわからない顔で控えて立っている。


 キースはディアナについての説明も受けたのだよな?


 しかし、キースにはディアナを警戒する様子は少しもなかった。


 マクノートンの主席に背後を取られてなおこの態度とは……。


 キースの胆力を褒めればいいのか、鈍感さを嘆けばいいのか判断に迷うところだな。

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