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020 命とお金のシンディー

「心して聞いてください、キース様。いいですか? 魔法の研究には巨額の資金が動いています。新たに有用な魔法が開発されれば、その価値は計り知れませんからね。魔法の研究というのは、複雑に絡み合った利権の塊なのです。そんなところに、私はキース様から聞かせていただいたお話を論文にまとめ、知人を通して王都で発表してしまいました……」


 なんだか雲行きが怪しくなってきたな……。


「それで、シンディーはどうして僕の危機だと言ったの?」

「キース様は、もう既に新しい水の魔法をいくつも開発しておいでですわ。そして、おそらくもっとも魔法の根源に近い人物です」

「……え?」


 魔法の根源? なんだそれ?


「今の魔法の研究は、その多くは魔法の発動する詠唱を作ることに腐心しています。要するにあてずっぽうで唱えて、魔法が発動すればラッキーくらいのものでしかありません。ですが、魔法の根源、魔法とは何かがわかれば、そんな面倒な作業は必要なくなります。そういう意味では、無詠唱で魔法を発動することができるキース様は、魔法の根源に一番近い人物と言えます。研究者にとっては是が非でも欲しい人材でしょうね」

「なんだか面倒なことになっているんだね……」

「本当に申し訳ありません。ですが、キース様にしていただきたいのは、どこの研究機関にも所属しないことなのです」

「どういうこと?」


 シンディーの話を聞いていると、僕がどこかの研究機関に所属すれば、こんな争いは終わるのではないだろうか?


 そしたら、僕は安全になるんじゃないの?


「そうですね。キース様がどこかの研究所に所属したといたしましょう。必ず、他の研究所からの妨害がありますわ。誘拐されるならまだいい方でしょう。最悪、殺しにかかりますわ」

「えぇー……」

「それに、所属した研究所に解剖される危険もありますし、やはり、どこにも所属することなく、適当に研究所からの勧誘に付き合うのがベストかと」

「解剖……。一応、僕は男爵家の跡取りなんだけど……?」


 それなのに、僕を積極的に殺す、解剖するなんてことがありえるのか?


「研究所に出資しているのは、主に伯爵以上の貴族ですので……」

「あぁ……」


 なるほど。僕たちより強い権力者が後ろに付いてるなら、やりかねないか。


 それに、魔法の研究には巨額の資金が流れているらしい。その資金を求めて無茶をする人なんていくらでもいそうだ。


「本当に申し訳なく思っております。まさか、こんなことになるとは……。これで許しを請うわけではありませんが、キース様のお命を守るためにディアナを連れてきました」

「そういうことか……」


 シンディーは、僕の命を守るためにディアナを連れてきた。シンディーの話を信じるのなら、誘拐とか普通にありそうだし……。


 まったく、面倒なことになった……。


「このことは父上と母上も知っているのか?」

「もちろんですわ。誠心誠意、陳謝いたしました。もちろん、これで贖罪が済んだとも思っていません。私にできることでしたら、なんでもいたします」

「なんでも?」


 しまった。つい……。


「はい。なんでもです」


 シンディーは真剣な顔で僕を見ている。


 嘘ではなさそうだ。


 そこで僕は少し考える。


 僕は、今すぐにでも『レインボー・ファンタジー』の世界を遊び尽くしたい。


 でも、今の僕はまだ五歳の子どもでしかない。


 そんな僕が冒険なんかしたら、両親が心配してしまう。


 でも、父上と母上に付いて来てもらうのもなぁ。二人とも忙しいし。


 そこで、シンディーに保護者として付いて来てもらうのはどうだろう?


 つまり、シンディーと一緒に行動してるから心配しないでねって両親に納得してもらう作戦だね。


 これでいけるかな?


 まぁ試して損があるわけじゃないし、試してみよう。


「シンディーにお願いがあるんだけど……」

「何でしょう?」

「僕は外の世界を見てみたいんだ。でも、僕はまだ子どもだ。両親に心配はかけたくない。そこでだ。シンディーに付いて来てほしいんだけど……。どうだろう?」


 シンディーは考え込むように顔を俯かせて目を閉じる。


 それから何秒経っただろうか。シンディーはパッと目を開くと、僕をまっすぐに見つめてきた。


「つまり、キース様を村の外に連れ出せばよろしいのですね?」

「まぁ、そうなるかな」

「そういうことでしたら、私にお任せください。アクロイド男爵と奥方を説得してみせましょう」

「うんうん。よろしくね」

「では、さっそく……。御前、失礼いたしますわ」

「がんばってね」


 シンディーが部屋を出て行くと、僕とディアナだけが残る。


 シンディーの話を信じるのであれば、ディアナは僕を守るためにシンディーが用意したらしい。


 シンディーは、僕が赤ちゃんだった時から知っている人物だし、アクロイド村の緑化のために力を尽くしてきてくれた人だ。そんなシンディーが、僕を害する理由は見当たらない。


 あるとするなら、魔法の研究に大量に流れ込んでいる資金があるけど、それならわざわざ僕にそれを話したりはしないだろう。


 まぁ、シンディーに裏切られたらどうしようもないというのがあるけど、こっちが疑心暗鬼になって、シンディーと距離を置くのももったいない。


 なら、シンディーは積極的に信じるべきかな。

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