015 四年の変化とディアナ
田舎の日々というのは、変化のない日々の連続だ。
そんな印象があったのだけど、アクロイド村は日々進化している。
自分の部屋の窓から見える景色は、この四年でかなり変わった。
「緑が増えてるねー」
村の中はもちろん、水のヴェールの向こう側も明らかに緑が増えていた。父上たちががんばった成果だね。途中、僕も口を出したりしたけど、村の人々ががんばったから、今のアクロイド村がある。
「あー! キース様だー!」
「ん?」
声がした方向を見ると、三人の男の子たちの姿が見えた。年の頃は五から八歳ほど。みんな、木刀を腰に差して、左の二の腕に赤い布を巻いている。上からネイサン、ロニー、ミックの三人だ。将来のこの村の自警団候補である。今も村の中を練り歩いて、人々のお手伝いをしていたのだろう。
将来有望だね。
「みんな、精が出るね」
「あたりめーです!」
「オラたち、赤のキツネですからね」
「んだんだ」
赤のキツネとは、この子たちが考えた自分たちのグループの名前だ。彼らはこの名に誇りを持っている。
「がんばってねー」
「「「はーい」」」
まぁ、子どもの遊びではあるんだけど、彼らのお手伝いで困っている人が助かっているのも事実。みんなには今後ともぜひがんばってほしいね。
その時、コンコンコンッとノックの音が飛び込んできた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
ドアを開けて現れたのは、アビーだった。相変わらず、安定感があって見ていてホッとする佇まいだね。
「キース坊ちゃま、シンディー様がお屋敷にいらしています。今は旦那様と面会中です。坊ちゃまにも面会を求めていらっしゃいますが、いかがいたしますか?」
「会うよ。そういう約束だしね」
シンディーか……。
悪い人じゃない。むしろ、アクロイドのためにいろいろ尽くしてくれる恩人ではある。でも、僕がしゃべれるようになってから、いろいろ質問攻めしてきてちょっと苦手意識があった。
「かしこまりました。シンディー様は応接間においでです」
「わかったよ」
アビーの後ろを歩いて、僕は応接間へと向かう。
「旦那様、キース様をお連れいたしました」
「入ってくれ」
中から父上の声が聞こえてくる。
「失礼します」
僕はアビーの開けてくれたドアをくぐって応接間の中へ。
応接間には、四人の人間がいた。
まずは父上。相変わらずヒゲがもじゃもじゃした野獣みたいな見た目だ。
そして、母上。まだ二十歳くらいに見える若々しさである。とても美しい。どうして母上が父上と一緒になったのかは、僕にとって永遠の謎だ。
そして、シンディー。母上より年上のグラマラスな美女だ。今日もお決まりの白衣をビシッと着こなしている。
そして最後にもう一人。
「んー?」
この子って、たしか最近村にやってきた子じゃないかな? 名前はまだ知らない。アクロイド村へ年に二回来る行商人に連れられてやってきた少女だ。歳は僕よりも少し年上くらい。七歳くらいだろうか? よく教育されているのか、静かに椅子に座っている。
僕が部屋に入ると、シンディーと少女が立ち上がった。
「お久しぶりです、キース様。本日は教育係就任のご挨拶と、この子の紹介に参りましたわ」
「久しぶりだね、シンディー。まぁ、二人とも座ってよ」
「失礼しますわ」
僕が椅子に座ると、シンディーと女の子も椅子に座る。
シンディーの隣に座る女の子も気になるけど、教育係? 僕はなにも聞いてないんだけど?
「父上、シンディーの言っていた教育係というのは?」
「うむ! キース、お前ももう五歳だ。これからはここアクロイド男爵領だけではなく、もっと広い世界を知るべきだろう。そこで、オレがシンディーをキースの教育係に任命したのだ」
「なるほど……」
僕には相談もなく、いいと思ったら即行動なのは相変わらずだね。そこが父上の良いところでもあるんだけど、悪いところでもある。
これについて母上もなにも言わないということは、母上には知らせていたのかな? 僕にも事前に知らせてほしかったよ。
「シンディー、よろしくね」
「はい、よろしくおねがいしますわ。そして、こちらの子ですが――――」
そう言って、シンディーが父上に目配せをする。
「うむ! 受け入れよう」
すると、父上が頷いた。
「ほら、挨拶しなさい」
シンディーに促されて、少女が椅子から降りてピシッと立った。プラチナブロンドの髪が窓から入った光を受けてキラキラと輝いていた。
そして、少女はスカートを摘まむと、カーテシーをしながら呟くような声で自己紹介を始める。
「ディアナと申します。本日より、キース様のお世話を担当することになりました。よろしくおねがいします」
「はい?」
僕のお世話? どういうこと?
「あの、お世話というのは?」
「その質問にはオレが答えよう」
「父上が?」
「うむ! これからディアナはキース付きのメイドになる。キースも五歳になったことだし、貴族の嫡子として従者の一人でもいないと格好がつかんからな。ディアナとの生活を通して、人を動かすということを学んでいけ」
今までの生活の中で、僕は普通の平民ではないのだと思い知らされてきた。これも貴族の家では当たり前なことなのだろうか?
だったら、受け入れるしかないか。
「そういうことでしたら……。これからよろしくね、ディアナ」
ディアナはまたスカートを摘まんでカーテシーを披露し、コクリと頷いた。
無口な子なのかな?
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