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014 長老モートン

「おうあいーう」


 モートンに真摯に挨拶されても、僕はまだ言葉がしゃべれない。そのことが少し悔しく感じる。


「もったいない……」


 しかし、モートンは僕の言葉を聞いて、深く頭を下げた。


「ゴホ、ゴホッ! 失礼しました。本日は、キース様にどうしてもお礼を言上いたしたく参りました」


 僕にお礼?


 でも、僕はモートンに何かした覚えなんてないんだけど……?


「キース様が張ってくださった水のカーテン。あの魔法のおかげで、どれほどの者たちが救われたか……。その者たちを代表し、お礼を申し上げます。かく言う私も呪いに蝕まれた者です。前はしゃべることにも苦労いたしましたが、キース様の魔法のおかげで、呼吸が楽になりました。本当に感謝しておるのです。老い先短い爺ではありますが、この感謝は申し上げなくては死んでも死に切れぬと思い、ご領主様に無理を聞いてもらいました。ご領主様、ありがとうございます」

「オレの生まれる前から村のために一生懸命働いてくれた者の言葉に耳を傾けるのは当然のことだ。気にしないでくれ」


 この地に蔓延る呪い。シンディーの話によれば、塵肺という病気らしいが、このモートンも塵肺に蝕まれているらしい。時々出る咳や異様に息が切れやすいなど、その症状は出ている。


 塵肺。シンディーから聞いてはいたけど、実際に罹っている人を見るのは初めてだ。モートンはかなり辛そうだね。でも、これでも僕の水のヴェールの魔法で症状は緩和しているみたいだ。


 症状が緩和してもこんなに辛そうなのか……。塵肺というのは恐ろしい。しかも、治療法がないときた。


 僕の水のヴェールの魔法で村の中では砂は舞わないけど、一生村の中で生活するわけではない。みんなの仕事場である畑は水のヴェールの外にあるのだ。マスクをして少しでも塵肺の進行を抑えてほしい。


「あぅー……」


 村の人たちに拝まれたりしたけど、僕は無力だ。もっと力を付けたい。それこそ、みんながこれ以上塵肺を恐れる必要がなくなるほどの力が欲しい。



 ◇



 その後の応接間では、シンディーが合流して、父親と長老とシンディーで水の使い道について考える会議がおこなわれるらしい。


 僕が聞いていても仕方がないので、僕は寝室のチャイルドベッドの上で寝転びながらいろいろ考える。


 実際に近くで土壌を見た感想だけど、砂漠の一歩手前といった感じだった。


 乾燥でヒビ割れた大地は、水さえあれば復活するのではないかと思う。


 このあたりは父親や、この地で長く生きているモートン、僕よりもこの世界に詳しいだろうシンディーに任せればいいと思っている。


 まぁ、僕も知識がないわけじゃないけど、今はまだ伝える手段がないので仕方がない。僕も早くしゃべれるようになりたいな。



 ◇



 次の日。


 僕はクレアに連れられてアクロイドの水瓶の前まで来ていた。


 僕たちの護衛だろうか? トムたちがクレアを後ろから見守るように陣取っていた。


 僕たちの前方、水瓶の前には、二人の男女がいた。男は二十代くらい、女は四十代くらいだろうか? カップルや親子といった感じではない。二人とも真剣な表情で水瓶に向けて手を伸ばしている。


「我、望むは流麗たる水矢。ウォーターアロー!」

「我、望むは流麗たる水玉。ウォーターボール!」


 魔法だ。二人の男女は水瓶の内側に向かって一心不乱に水魔法を連続で放っている。


 しばらくすると、二人の男女は肩で息をしながらその場に座りかけ、その途中で僕たちの存在に気が付いたようだ。


「奥様!? と、キース様!?」

「お、お待たせしてしまい申し訳ありません!」


 二人の男女は、僕たちを見て驚いてしまったみたいだ。


 まぁ、いきなり領主夫人とその息子が現れたんだから、驚くのも無理はないのかも?


「いいえ。お勤め、ご苦労様です」

「あう!」

「ありがとうございます!」

「あの、これからキース様も水瓶に水を?」

「ん!」


 僕が頷いて答えると、二人の顔がぱあっと明るくなった。


「ぜひ、見学させてください!」

「私もしたいです!」

「どうしますか、キース? 二人の見学を許可しますか?」

「ん!」


 見られるのはちょっと恥ずかしいけど、まぁ、見るくらい拒絶しないよ。


「おお!」

「ありがとうございます!」


 二人の男女は大袈裟なくらい喜んでいた。なんでこんなに喜んでいるんだろうね?


「キース、ここで大丈夫ですか?」

「あい!」


 僕はさっそく魔法を発動する。


 とはいっても、僕は二人みたいに魔法の詠唱ができないので我流だ。


 右手を水瓶の方に伸ばし、体の中の魔力を動かして、右手から出すイメージ。


 すると、魔力は水に変わり、水瓶の中を水で満たしていく。


「ふぁ~」


 魔力がなくなるまで水瓶の中に水を入れると、急速に眠くなってきた。


 僕は眠気に逆らわず、クレアの腕の中で眠り始める。


「これがキース様の魔法!」

「アクロイドの神童に祝福あれ!」


 後ろで二人の男女が何か騒いでいるけど、僕は無視して眠りについた。

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