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138/143

138 ダメな感じ

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 母上の部屋から戻ってきた僕は、珍しくベッドの上で情けない声をあげていた。


 ベッドの上でうつ伏せになっている僕の傍では、ディアナがごそごそと動いているのがわかった。


「あ、そこそこそこ~~~~~~~~~~」


 ディアナが僕に覆いかぶさるようにすると、僕は簡単に情けない声をあげてしまう。


 そう。僕は今、ディアナにマッサージをしてもらっているのだ。


 きっかけは、僕が部屋の中でアクアの上で情けない声をあげていたことだった。さすがにいつもと僕の様子が違いすぎると思ったのか、ディアナが珍しく問いかけてきたのだ。


「キース様、どうしました?」

「あぁ、ただの筋肉痛だよ。あれだね、昨日のアレで筋肉を酷使しすぎたんだね。昨日のうちはなんともなかったんだけど、今日、起きたら体中が痛くて……」


 そう答えると、ディアナはコクリと頷いた。


「でしたら、ベッドで横になってください」

「え?」

「マッサージの心得があります」


 正直に言えば、僕はそこまでディアナのマッサージ技術に期待はしていなかった。もっと言えば、子どもが大人にする肩叩きとか、そんなイメージだった。


 でも、実際にディアナのマッサージを受けてみると……!


「くはあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 僕はもう人間の尊厳すら失くし、ただただ鳴くだけの動物になっていた。それほどまでに気持ちよかった。ヤバい。とにかくヤバい。語彙まで消失しつつあるくらいだ。


 僕にはよくわからないけど、ディアナは戦闘もできるメイドだ。しかも、直接戦闘と言うより、暗殺者に近いと勝手に思っている。だから、人体の急所とかツボとかに詳しいのだろうか。まさか、こんなにディアナのマッサージが気持ちいいとは思わなかったよ。


「はぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~! んッ⁉」


 気持ちよく蕩けていたら、急に冷たいものがふくらはぎに押し当てられた。見なくてもわかる。おそらく、アクアがマッサージに興味を持ったのだろう。


 でもなぁ。アクアには悪いけど、マッサージってただ押せばいいってわけじゃない。さすがに知識のあるらしいディアナのマッサージと比べると、いや、比べるのもかわいそうなほどの差があるのは否めない。


 だから油断していた。


「ここ」


 ボソッと呟かれるディアナの言葉。次の瞬間――――⁉


「ひょぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 アクアのただ押すだけの子どものようなマッサージが、一気に熟練者のそれに変わる。


「ここ」

「くっはぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 ま、まさか、ディアナが的確にツボの位置をアクアに教えているのか⁉


「ここ」

「ぐっほ⁉」


 ディアナとアクアによる波状攻撃により、僕の理性はもう結界寸前だ。


「ここ」

「らめぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 こうして僕は、また一つ大人の階段を上った。



 ◇



 アクロイド男爵領の南端をぶった切ってだいたい一週間ほど。ディアナとアクアのおかげで、僕はようやく自力で立てるまでに回復していた。まだ一人で立つと足や腰がピリピリするけどね。まぁ、とりあえず動けるようになったよ。


 リハビリのために歩いて屋敷を出ると、やけに村の中が寂しく感じた。村人やアクアスライムたちの数が目に見えて少ない。


 おそらく、今頃みんなで港を造っているのだろう。


 素朴な疑問なんだけど、港ってどうやって造るんだろうね。まぁ、父上は知らなくても、シンディーならきっと港の構造とか必要な書類とかも知っているだろうから、たぶん大丈夫だろう。うん。


「あ! キース様だ!」

「ん?」


 声に振り返ると、そこには三人の子どもたちと十匹ほどのアクアスライムたちの姿があった。ネイサン、ロニー、ミックのいつもの三人組。『赤のキツネ』のメンバーだ。


「やあ。みんなは今日も農作業かな?」

「そうなんですよ!」

「村のみんなは岬に行って港を造るって言ってるのに、おいらたちはまたお留守番ですよ!」

「絶対おかしいんだな!」


 『赤のキツネ』の三人は、どうやら大人たちに仲間外れにされて憤慨しているようだ。でも、子どもたちを危険のあるかもしれない村の外に出したくないという大人たちの気持ちもわからなくもない。


「そうだねえ……」


 だから、僕は曖昧に笑うことにした。


 それを見てどう思ったのか、三人の話はもっとヒートアップしていく。


「港造りって、アクアスライムの力を借りるんでしょ?」

「俺たちの方が、アクアスライムたちに指示出すの上手いのになあ!」

「だよね!」


 まぁ、こういう新しいものは若い方が、もっと言えば子どもの方が順応しやすいからなぁ。彼らが自分で言っている通り、アクアスライムたちに思い通りに指示を出すのも、たぶんそこいらの村人よりも『赤のキツネ』のメンバーの方が上手いのだろう。

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