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137 筋肉痛な日

 次の日。僕は自室の中、アクアの上でぐったりしていた。火照ったように感じる体にアクアの冷たさが気持ちいい。


 なぜこんなことになっているかというと、昨日、アクロイド男爵領の南端をぶった切ったことに起因する。


 さすがにこの小さな体には、大地を斬ることはかなり負担だったらしい。簡単に言うと、ひどい筋肉痛のようなものだ。まだまだ僕も鍛え方が足りないね。


 ちなみに、父上たちにアクロイド男爵領の南端を斬ったことを伝えると、口をあんぐり開けて驚いていた。今頃、斬られた南端の様子を見に行っている頃だろう。窓から見える村の中にアクアスライムたちの姿が少ないから、もしかしたらさっそく港造りに精を出しているのかもしれない。


 僕には港造りのノウハウどころか、どうすれば港になるのかもわからない。ここは父上やシンディーに任せちゃおう。僕はまだ習ってないからわからないけど、港と認められるには何か基準や国の許可とかが必要かもしれないし。


「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」


 体中痛くて、何もやる気にならない。


 珍しくディアナもいないので、おしゃべりする相手もいない。暇だなぁ。


「そうだ。アクア、母上のところに行こう」


 そう言うと、アクアがいつもより心持ちゆっくりと動き出す。もしかしたら、僕の体を気遣ってくれているのかもしれない。お礼というわけじゃないけど、いつもよりも多めに撫で撫でした。


 スススッと床を滑るように移動するアクア。そのまま部屋のドアを開けて、父上と母上の寝室へ。


 そして、アクアは触手を伸ばして目の前のドアを三回ノックする。アクアは賢いスライムなのだ。


 すると、すぐにガチャリとドアが開いた。現れたのはアビーだった。アビーの姿が逆さまに見えるのは、僕がアクアの上で寝ながらアビーを見上げているからだね。アビーはだらしない僕の格好を見て、ちょっと驚いたような顔をしていた。


「キース様とアクアでしたか。奥様に御用ですか?」

「うん。母上とお話ししようかなって」

「わかりましたが……。その恰好でお会いになるつもりですか?」

「うん……。体を動かすと、痛くってさ……。ダメかな?」


 そう言うと、アビーは呆れたように溜息を吐いて口を開く。


「わかりました。奥様の許可を取って参ります」

「よろしくねー」


 一度閉まる目の前のドア。たぶん、母上ならすぐに許可が出してくれるだろうし、いちいち訊かなくてもいいと思う。だけど、これが一般的な貴族の礼儀らしい。なんだか面倒だと思うけど、たぶん、僕が王立学園に行っても恥をかかないように、貴族の礼儀というものに慣れさせてくれているのだろう。


 まぁ、面倒であることには変わりないんだけどね。


 予想通り、すぐにアビーはドアを開けてくれた。


「入室の許可が出ました。どうぞ。ディアナも入りなさい」

「え?」


 首を回して辺りを確認すると、いつの間にかディアナが僕たちの後ろに控えるように立っていた。さっきまでディアナはいなかったはずだけど……。いつの間に来たんだろうね?


 まぁ、いっか。ディアナが神出鬼没なのはいつものことだし。


「失礼します」


 アクアに乗ったままアビーが開けてくれたドアをくぐると、窓際の明るいところに母上が椅子に座っていた。そのお腹は大きく膨らんでいて、ゆったりとした服を着ていた。


 そんな母上の後ろには、まるで母上専属の執事のように一体のアクアスライムが控えている。頭に黒いハットを被った、なんだかダンディーな感じのアクアスライムだ。


「あら、キース。今日はすごい格好をしていますね」


 母上は僕の格好を見てクスクスと笑っていた。その手には編み棒があり、編み物をしていたのがわかる。


「すみません、母上。昨日、無理をしすぎたみたいで、全身が痛くて……。無作法をお許しください」

「ええ。キースがアクロイド男爵領のためにがんばったことは、みんな知っていますからね。わたくしがそんなキースを責めることは絶対にありません」

「ありがとうございます」


 さすがにアクアの上で仰向けに大の字になって登場したら苦言を言われるんじゃないかと思ったんだけど、母上は僕の想像以上に寛大だった。


 アクアが僕を乗せたまま母上に近付いていく。そして、母上まで残り五十センチほどのところで止まる。


 下から母上を見上げる僕。下から見ると、母上のお腹の大きさがいつもよりも明確にわかるような気がした。母上は僕の視線に気が付くと、愛おしそうに自分の大きなお腹を撫でる。


「もうすぐキースもお兄様ですね。キースは弟と妹、どちらがいいですか?」

「うーん……。弟もいいですけど、やっぱり妹ですね! きっと母上に似て、美人になりますよ!」

「まあ! ありがとう、キース。でも、どこでそんな言葉を覚えてくるのかしら?」


 照れたように笑う母上。


「僕の本心ですから!」

「キースは将来、とんでもない女たらしになるかもしれませんね」


 そうかな?

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