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134/143

134 許刀の儀

 その日、僕はいつもよりもちょっと豪華な衣装を着て、村の広場の中央で片膝を突いていた。


 僕の前では、父上がいつもよりも真剣な顔で立っていた。


「今日! 汝キース・アクロイドは、七歳になる。これより人として生きるがよい! 父である我マーク・アクロイドから、これを汝キース・アクロイドに贈る。一層精進すべし!」


 なんだか仰々しいしゃべり方だけど、これが昔からの伝統らしい。


 そう。今日で僕は七歳になり、刃物を持つことが許されるようになったのだ。アクロイド男爵領では、この儀式を許刀の儀というらしい。


「はい!」


 僕はそう答えると頭を垂れ、両の手のひらを上にして、腕を斜め上に持ち上げる。


 すると、両手にずっしりとした重みが加わった。


 僕が手の位置をそのままに立ち上がると、手の中に茶色い鞣された革で作られた鞘が目に入る。そして、鞘から飛び出ているところからは、まるでトルコ石のような色合いの柄が見えた。


 これを見ただけでわかる。これはゲームでも登場した片手剣装備のアクエリアスだ。


 そういえば、ガレスゴディアのいた遺跡で発見したことになっているアクエリアスだけど、その後誰も使っていなかったね。父上はあの時の約束通り、僕にくれるみたいだ。


 ぶっちゃけて言えば、このアクロイド男爵領はまだまだ貧しい。辺境伯にも借金があるし、産業も成長中だ。アクエリアスも売られてしまっても仕方がないと思っていたけど、父上は義理堅いね。


 ゲーム中では片手剣として登場したアクエリアスだけど、七歳の中でも体が大きめの僕にとっても大きな両手剣みたいなサイズ感だ。


「キース、背中に担いで抜いてみろ」

「はい!」


 僕はアクエリアスが収まった鞘に付いている革ベルトを肩にかける。鞘を背中に固定すると、僕はアクエリアスの柄へと右手を伸ばす。


 たぶん、今の僕を他の人が見たら、絶対にアクエリアスが抜けないように見えるだろう。アクエリアスを鞘から抜くには、僕の腕が短すぎる。


「こうかな? よいしょっと」


 でも、コツは必要だけど、僕は難なくアクエリアスを鞘から抜くことができた。その秘密は、実は鞘にある。この革製の鞘だけど、なんと上部の半分以上が縫われていないのだ。


 これは決して革職人の手抜きではなく、僕のようにまだ手足の短い子どもでも、背中に背負ったアクエリアスを抜けるようにするための工夫である。これなら、縫われている部分だけ引き抜けば、アクエリアスを鞘から抜くことができるのだ。


 でも、これだと激しい運動をしたら、アクエリアスが鞘からすっぽ抜けてしまう。


 それを防止するために、アクエリアスの柄部分を鞘に固定する仕掛けがあった。


 なかなか粋な仕事をするね。革職人に感謝だ。


「おぉ! キース様が剣を抜いたぞ!」

「すっげー綺麗な剣だなあ!」

「ああ、まるで海を見てるみたいだあ」

「キース様もこれで七歳かあ」

「めでたい! めでたいねえ!」


 僕が天に掲げるようにアクエリアスを構えると、僕の許刀の儀を見守っていた村人たちが声をあげて拍手してくれた。なんだかちょっと照れくさい。


 でも、これで大手を振って刃物を使えるようになったし、考えていた計画を実行に移すことができるね。


 この後は宴会だろうし、今日の夕食の時にでも父上に許可を貰おうかな。



 ◇



「父上、お話があります」

「おう?」


 夕食も終わりに近づき、話が一段落したタイミングで、僕は父上に話しかけた。


「どうした、キース。また狩りにでも行きたいのか?」

「違うんです、父上。僕に港を造る許可をくれませんか?」

「港?」

「港を、造る……?」


 さすがに荒唐無稽すぎたのか、父上どころか母上まで疑問を顔に浮かべていた。


「はい。シンディーに聞いたのですが、この半島はとても大きく、そして、港を造るには適さない土地がずっと広がっているとのことでした。そのため、船乗りたちは水の代わりにお酒を飲んで、腐りかけの食品で飢えをしのいでいるようです。そこで、アクロイド男爵領の先端に港を造れば、船乗りたちが利用してくれるのではないかと思いました!」


 どうしても港を造りたい僕が捲し立てるように一気にそう言う。すると、父上と母上はお互いの顔を見てから、まるでキツネに摘ままれたような顔をして僕を見た。


「キースの言うことはもっともですが……」

「いいか、キース? アクロイド男爵領には確かに海はあるが、お前も知っているように断崖絶壁の遥か下だ。港があればそりゃ確かに領地は賑わうかもしれんが、そんな余力はアクロイド村にはないぞ? 外から人を雇うにしても金がかかるし、たとえ砂糖やキースが造った火酒が高く売れたとしても、こんなところに人は来ない。ローダス山脈を超えるのにかかる護衛費だけでも捻出するのが大変だぞ? それこそ港があれば解決する問題だが、肝心の港がない。」


 父上も母上も困ったような顔で僕を見ていた。

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