128 兄とは!
砂糖作り。アクロイドの発展のカギを握る事業だ。
正直に言えば、僕の魔法を使えば、加熱して煮詰めたり、できた黒砂糖を洗ったりしなくても、最初から真っ白な砂糖が作れると思う。
でも、それじゃあ僕がいなくなった後、砂糖を作る方法が失われてしまう。
だから、たとえ効率が悪くても、僕しかできないことを失くしていきたい。
それが、本当の発展と進歩だと思うから。
「ふぅー」
モートンの家の竈にミニフッジサンを配置した後、一仕事終えた気分でお屋敷に戻る。
すると、いい匂いが玄関まで漂っていた。
食堂に顔を出すと、食事を配膳しているアビーと目が合った。
「キース様、もうすぐ昼食ですよ。今日はサンドリザードですよ!」
「いいね!」
サンドリザード。その名の通りトカゲなんだけど、これがなかなかおいしいんだよね。特に尻尾が脂が乗ってておいしいんだ。
「あとは食後におやつもありますよ」
「おお!」
おやつ付きとは珍しいね。アクロイド男爵領は貧乏だから、滅多におやつなんて付かないのだ。
「旦那様が造った砂糖の味見をするそうです」
「なるほどね」
父上も自分たちで作った砂糖の味が気になるよね。
「ん?」
その時、袖をくいくいっと引っ張られるような感覚があった。
何だろうと振り向くと、すぐ近くにディアナの顔があった。ちょっとびっくりする。
「ど、どうしたの?」
「食べたい、です」
ドキドキする心臓を押し殺して問いかけると、ディアナがポツリと呟く。
ディアナが自発的にしゃべるなんてレアケースだね。
その時、僕はディアナの好きなものが甘いものだったことを思い出した。
「あー。アビー、ディアナの分のおやつってある?」
「もちろんありますよ。ディアナも毎日お仕事を頑張っていますからね」
「あー、うん」
アビー視点では、ディアナはいつもお仕事を頑張っている偉いメイドらしい。
僕から見ると、いつも後ろにいるだけだと思うんだけど、それが仕事と言われたら否定できないか。ディアナの仕事は僕の護衛なわけだし。
もしかしたら、僕の知らないところでアビーのお手伝いしているのかもしれないしね。
「だって。よかったね」
「はい」
そう言って、ディアナは両手の人差し指で口の端を持ち上げた。
まぁ、笑っているように見えなくもないけど……。これもディアナ流の練習なのかな?
「そうそう。キース様にいただいたフッジサンですが、最初こそ不慣れな様子でしたが、すぐに慣れて、料理やおやつ作りにも協力していただきました。火力の調節が格段に楽になりましたよ。あれなら、村のみんなも欲しがるのではないでしょうか。薪の消費も抑えられますしね」
「そっか! 実は、もう一体のマグマスライムをモートンの家にプレゼントしてきたところなんだ。ゆくゆくは各家庭に配ってもいいかもねー」
「はい! 村のみんなも喜ぶと思いますよ」
やっぱり思った通り、マグマスライムを使った竈は便利らしい。今までは考えばかりが先行していたけど、実際に使ってみたアビーの感想を聞けて確信が持てた形だ。このままマグマスライムを使った竈を普及させていこう。
下からジトッとした目に見られている気がするけど、気にしたら負けだ!
◇
その後、父上と母上と一緒に楽しく昼食を取った。
やっぱり、サンドリザードはおいしいね。
しかも、アビーに話を聞いたところ、僕がサンドリザードの尻尾肉が好きだと知って、わざわざ尻尾肉をくれた村人がいたらしい。ありがたいね。
食事もおいしいし、砂糖作りに成功し、旅商人と火酒も取引できた。アクロイド男爵領の未来は明るい。
それに……。
僕は正面に座る母上のお腹を見る。そのお腹はもう大きくせり出していた。アビーの話では、もうすぐ生まれるだろうという話だった。アビーは今から村中の綺麗な布をかき集めるのに大忙しらしい。
「あら? 尻尾肉は気に入りませんでしたか? それとも、やっぱりキースも気になるの?」
僕の視線に気が付いたのだろう。母上が自分のお腹を撫でながら優しい目で問いかけてくる。
「はい! 弟か妹か気になります!」
弟ならどうだろう?
もしかしたら、父上に似てムキムキマッチョマンになるかもしれない。一緒に大剣で切磋琢磨したりするのかも?
妹だったら、母上に似ているといいなぁ。
母上は家族の贔屓目を抜いても美人だと思う。だから、母上似の優しい女の子に育ってほしい。
前世の僕は一人っ子だったから、兄弟を持ったことがない。兄弟ってどんな感じなんだろう?
仲のいい兄弟もいれば、仲の悪い兄弟もいた気がする。できれば、仲のいい兄弟になれるといいなぁ。
「うむ。キース、お前はもうすぐ兄になる! 兄とは! 誰よりも先に生まれ、下の兄弟を守る守護者を差す言葉! すべての兄弟たちの先頭に立ち、その道標となる者こそが兄! 故に! 兄は誰よりも強くなくてはならん! それは腕っぷしだけではないぞ? 頭もだ!」
「はい! がんばります!」
「うむ!」
父上が大きく頷き、母上がそんな父上を見てクスクスと笑っていた。一家団欒だね。
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