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115 火酒生成

 お酒一樽っていってもかなりの量だ。それをポンと笑顔でくれる彼らの心意気が嬉しかった。


 一樽あれば、これを度数の高いお酒にすることもできるし、父上やシンディーを説得するにも実物があった方がいいだろう。


「ありがとう、みんな……!」

「これぐれえどうってことねえですって!」

「そうそう!」

「むしろ、やっと恩返しできたってもんだ!」

「まだまだ足りないぐらいでさあ」


 にこやかな笑みを浮かべて快諾してくれる男たち。


「ありがとう! 絶対成功してみせるから!」


 そんな彼らにもう一度お礼を言うと、僕はアクアに樽を運んでもらいながら、まずはシンディーの所へ行く。


「シンディー! シンディー! いる?」


 アクアがいつものように扉をノックしてくれたので、僕はシンディーを呼ぶ。


 すると、今日はちゃんと起きていたのか、扉はすぐに開いて、いつものように白い神官服を着たシンディーが姿を現した。


「キース様? どうされました? 怪我人でも出ましたか?」

「違うんだ! ちょっと入ってもいい?」

「え? ええ、どうぞ」


 シンディーに許可を取ると、僕たちはアクアに乗ったままシンディーの診療所の中に入る。相変わらず薬の独特な匂いがする部屋だ。


「今日はどうなさったのです?」

「シンディーに火酒を見てもらいたくってね」

「まさか、できたのですか⁉」


 火酒というワードに過剰に反応するシンディー。それだけ火酒が持つ価値が高いということだろう。


「これから作るんだよ。アクア、樽を出して」


 僕が指示を出すと、アクアが体内に仕舞っていたお酒の入った樽を取り出して、診療所の床に置いた。


「アクア、樽を開けるんだ」


 アクアが、無理やり樽の蓋をこじ開ける。


 途端に診療所の中に広がるのは、酒精の匂いとちょっと泥臭い臭いだ。


「これはアクロイド芋で造ったお酒ですわね? たしかに酒精は強いですが、火酒ほど強いとは……」

「それはこれから作るんだよ」


 僕は樽になみなみと入ったお酒に手を向けると、魔法を使ってアルコールとそれ以外を分別していく。


 そはいえ、今回はすべてのアルコール以外の不純物を取り除くつもりはない。


 最初だから、とりあえずアルコール度数は五十くらいにすればいいかな?


 ようは燃えるほどアルコール度数が高いお酒を造ればいいのであって、すべてをアルコールにする必要はない。前世では度数九十を超えるお酒もあったけど、あそこまでいくと過剰な気がする。


 それに、あまりアルコール度数を高めると取扱注意で危険だし、肝心のお酒の量が減りすぎてしまう。


「よいしょっと」


 僕は樽から一部の水分を浮かせた。アルコール度数が五十になるように調整し、不必要になったお酒になったものだ。


 一部と言っても、抜き取った水分はかなりの量だ。


 樽に残ったお酒は半分以下。だいたい五分の一くらいしかない。


「こんなに少なくなるんだ……」


 なんだか予想以上に減っちゃったなぁ。これはいつものお酒よりも五倍以上の値が付かないと売る意味がない。


「シンディー、この樽に残ったお酒が火酒なんだけど、いくらくらいで売れると思う?」

「そうですわね。少し頂いても?」

「いいよ」


 すると、シンディーはお猪口のようなものと、線香のようなものを持ってきて、樽からお酒を掬いあげる。


「ッ! 匂いだけでわかりますわ。これはかなりの酒精を含んでいます」


 そして、シンディーがお猪口に掬ったお酒に線香を近づけると、お酒が燃え始めた。


「これで火酒であることは確定しましたわね。お味の方は……ゴホッ⁉ なんて強い酒精……! これは、もしかしたら火酒の中でも酒精が強い部類かもしれませんわ」

「そうなんだね。シンディー、大丈夫?」

「問題ありません。しかし、まさか魔法で火酒が作れるなんて……」


 シンディーは興味深そうに樽に残っているお酒と、僕が宙に浮かせたアルコールを抜いた水分を交互に見ていた。


「こちらの色が付いた水は何なのでしょう?」


 シンディーが宙に浮いた水を指差しながら言う。


「これは、お酒から酒精を抜いた水分だね。この水分から抜いた酒精が、この樽の中のお酒に集まってる感じかな?」

「なるほど……。少し、飲んでみてもかまいませんか?」

「え? いいけど……」


 そういえば、アルコール度数の高いお酒を造ることに集中しすぎて、この水をどうするか決めてなかったなぁ。


 これっておいしいのだろうか?


 好奇心のなせる業なのか、シンディーはお猪口で宙に浮いた水分を掬うと、匂いを嗅いでグビッと飲んでしまう。


「ごはッ⁉ おうえッ! うがああああああああああああ……」


 その瞬間、シンディーは盛大に咽ると、なりふり構わず口の中のものを吐き出した。


「だ、大丈夫?」

「うおえ……。まるでアクロイド芋の悪いところを煮詰めたような味がいたしましたわ……。この水は大人しく捨てた方がいいかと……。うおえ……」

「あ、うん……」


 どうやらものすごくマズいらしい。体を張って教えてくれたシンディーに感謝だ。

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