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114 商隊がやってくる

 海に行こうかとアクアに乗って移動していた僕たちだけど、今日は町のみんながそわそわしているのがわかった。


 何かあるのだろうか?


 疑問に思った時、ちょうど答えを知っていそうな人物が目に入った。モートンである。


 モートンはその枯れ木のよう体をしゃんと伸ばして畑に向かって歩いている。その後ろには、十匹ほどのアクアスライムを引き連れていた。


 モートンは農業の知識が豊富だ。その豊富な知識で、アクアスライムを手足のように指揮して畑を広げているらしい。


「おはよう、モートン」

「これはこれはキース様、おはようございます」

「モートンはこれから畑かな?」

「はい。ロクに体の動かない私ですが、そこはこのアクアスライムたちが補ってくれます。ありがたいことです」


 そう言って、モートンは一匹のアクアスライムを撫でる。


 すると、「僕も僕も撫でて」と言うようにアクアスライムたちがモートンの周りに集まってしまった。


「はっはっはっ。最初は心配だったのですが、スライムもかわいいものですな」

「スライム、かわいいよね! わかってるね、モートン! スライムのぷにっとしたボディーももちろんかわいいんだけど、ぽよんぽよん弾むのを見たらもう好きにならざるをえないよね! もう殺人級のかわいらしさだよ! わかる、わかる。 でも、やっぱり僕はスライムの最大の魅力は、その種類の豊富さが魅力だと思うんだよね! この間、遺跡でマグマスライムを見つけたんだけど、やっぱり一匹くらい捕まえへぶっ⁉」


 僕が上機嫌にスライムに語っていたら、いきなり右の頬に衝撃が走った。


 アクアだ。アクアが触手を伸ばして、僕の右頬を叩いたんだ。そして、「これ以上言ったら、わかるね?」と言わんばかりに僕の目の前で触手をゆらゆらさせている。


 アクア的には、他のスライムをテイムすることは絶対に許さない構えのようだ。


「ごめんって。もう言わないから……」


 ならよしと言わんばかりに触手はコクリと頷くと、しゅるりとアクア本体に戻っていく。


 どうやら許されたらしい。よかったー。


「ほっほっほっ。仲がいいですな」

「まあね」


 モートンから見ても、僕とアクアは仲良しらしい。やったね!


「そういえば、モートン。みんなウキウキしてるように見えるんだけど、今日は何かあるの?」

「おや? キース様はご存じないので?」


 モートンは不思議そうな顔で僕を見ていた。


 なんかあったっけかなぁ?


「今日は村に商隊が来るのですよ。今回はお酒も売れますし、キース様のおかげで塩が大量にありますので、ご領主様が何を買うのか、みんな楽しみにしております」


 そうニコニコ顔で語るモートン。


「そうなの⁉」


 商隊が今日来るなんて初めて知ったよ!


「こうしちゃいられない! モートン、ありがとう!」

「なんの、なんの」

「アクア、酒造場に行こう! 急いでね!」


 僕たちが急いで酒造場に行くと、お酒造りをしている男たちが、樽を転がしていた。たぶん、アクロイド芋から作ったお酒が入った樽だ。


「ちょっと待ったー!」

「キース様?」

「何かありましたので?」


 樽を転がして運んでいる男たちに声をかけると、男たちはその手を止めて僕を見た。


「その樽の中に入っているのはお酒?」

「はい。そうですぜ」

「今回はこんなにたくさんできたんです!」

「どれくらいでうれるだろうなあ」

「そりゃ、がっぽがっぽよ!」


 僕が問いかけると、男たちは嬉しそうな顔をして誇らしげに答える。


 彼らが作るお酒が、アクロイド男爵領の唯一といってもいい外貨獲得手段だ。そこには矜持もあるだろうし、村に貢献しているという強い気持ちがあるだろう。


 そんな彼らにこんなことを言うのはとても忍びないけど……。


「あの! こんなこと言うのはとても失礼なのかもしれないのはわかってるんだけど! そのお酒を僕に預けてくれないかな……?」

「そいつは領主様の指示ですかい?」

「……僕の独断なんだ……」


 男たちは、難しい顔をした。


 彼らだって、父上の指示だったら快く応じてくれたと思うし、例えばシンディーが火酒について説明してくれたら、たぶん快諾してくれたはずだ。


 しまったなぁ。ここに来る前に父上かシンディーに話を通すべきだった。


「キース様が飲まないってんなら、一樽ならいいですぜ? でも、全部はさすがに領主様の許可を取って下せえ。オラたちが怒られちまう」

「え?」


 てっきり門前払い同然で断れると思っていた。でも、男たちは笑顔を浮かべて頷いてくれた。


「な、なんで……?」

「キース様は、オラたちの救世主でさあ。そのキース様の頼みを断る奴なんてこの村にいませんよ」

「んだなあ」

「これの一樽はオラたちへの報酬で領主様から貰える分なので、好きに使ってくだせえ」

「みんな……」


 僕は胸がいっぱいになった。涙が出ちゃいそうだ


 彼らだってお酒は大好きだろう。そんな彼らに父上がお酒造り報酬として渡す分を自由に使ってもいいと言う。

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