111 シンディーとの話し合い②
「うーん……」
シンディーに言われて気付かされたのは、アクロイド男爵領がいかにマクマホン辺境伯に支えられているのかということだった。
普通に借金もしてるし、年三回来る商隊もマクマホン辺境伯が送ってくれているらしい。
商人は利のない所には来ないのは有名な話だ。
それでもアクロイド男爵領に商人が来てくれるのは、その赤字を補うだけの何かをマクマホン辺境伯が商人に払ってくれているからだろう。
マクマホン辺境伯には頭が上がらないよね。
そりゃマクマホン辺境伯も赤字続きのアクロイド男爵領にサトウキビ育てろって言ってくるわ。上手くいけば、かなりおいしいからね。まぁ、あんまり期待してないかもしれないけど……。
「キース様、お考え中のところ申し訳ありませんが、問題はまだあります」
「まだあるんだ……」
モートンはアクロイド村の未来は明るいと話していたから、問題は少ないと思っていたよ。
なんといっても、ガレスゴディアも倒したしね。
雨が降るようになったし、時間はかかるかもしれないけど、大地も蘇る。アクロイド男爵領もやっと上向きになると思ったんだけど、シンディーに言わせるとそうでもないらしい。
「なんといっても海が使えないのが痛すぎますわ。立地だけで言えば、アクロイド男爵領は、港湾都市として栄えるポテンシャルを持っています。ですが、キース様ももう知っての通り、アクロイド男爵領の海は遥か崖の下にしかございません。これでは、海を活用するなど夢のまた夢です。アクロイド男爵領の海辺の土地を長い年月をかけて削って港湾都市にするという案もあるにはありますが、いったいいくら年月とお金がかかるかわかりませんわ」
アクロイド男爵領は、三方を海に囲まれている。それなのに、海の恵みを何一つ享受できていない。僕のように力技で海水を持ち上げるなんてことはみんなにはできないし、どうしたものか……。
シンディーが言うように、アクロイド男爵領が栄える未来はあるかもしれない。
でも、それは何百年、下手をしたら何千年かかるかもわからない。
その礎になれるならいいと割り切るには、僕はまだ子どもすぎた。
「どうにかならないかなぁ……」
ローテーブルの向こうでは、シンディーが困った顔をしている。それだけ難しいということだろう。
でも、港湾都市計画というのは、新たな発想だ。それが貰えただけでもよしとしておくか……。
「待てよ……?」
つまり、海が使えればいいということだろ?
そのためには何が必要か。シンディーは長い時間と莫大なお金をかけて港湾設備を整えることを考えているけど、簡単に言ってしまえば、崖が邪魔だということだ。
これを何とかして削りたい。
思い出すのは、ウォータージェットの魔法だ。あれは元々金属などの硬いものを加工するのに使われている技術だった。
それを使えば、例えばこのアクロイド男爵領の硬い岸壁を加工することもできるんじゃないだろうか?
「いけるかもしれない……」
でも、ただ港湾施設を作ったところで、利用者がいなければ意味がない。
船に乗っている船乗りたち。彼らも需要がなければわざわざアクロイド男爵領に船を泊めることがない。
船乗りといっても、彼らの親玉は商人だ。商人は利がない所には来ない。
今、僕ががんばって港湾施設を作ったところで、使われなかったら骨折り損のくたびれ儲けである。
船乗りたちは何を求めているんだろう? シンディーに訊いてみよう。
「シンディー、船乗りって何を求めているの? もしアクロイド男爵領に港湾施設ができたとして、何があったらアクロイド男爵領に来てくれるかな?」
「そうですわね……。パッと思いつくのは水と娯楽でしょうか?」
「え? 水?」
娯楽はわからないでもない。船の上という限られたスペースで大人数で暮らすのに溜めたストレスを発散したいというのはわかる。
でも、水というのは意外だった。
「水……。娯楽というのはなんとなくわかるんだ。でも、水ってなんで必要なの?」
「水は腐りますから。船乗りたちは、長い間航海をしますわ。彼らも生き物ですから、生きていくのには水が必要不可欠です。水を生み出せるキース様には想像しづらいかもしれませんが、水というのは案外簡単に腐って飲めなくなってしまうものなのですよ。そこで、彼らは船の上でも腐ることがないお酒を常飲してるのですが、無性に水を飲みたくなるものらしいですわ」
「なるほど……」
たしかに、海賊映画の知識だけど、船乗りたちはお酒を飲んでいるイメージがある。あれは水のように腐ることがないお酒が長期保存に向くからだったのか。
でも、アルコールには利尿作用があるため、脱水症状が起きる可能性があるのを僕は知っている。
船乗りたちが水が飲みたくなるというのはわかる気がした。
とはいえ、水の補給のためだけにアクロイド男爵領に船を泊めてくれるかはまた別だろう。
やはり、アクロイド男爵領にも商人たちが自ら来てくれるような特産品が必要だ。
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