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011 シンディー登場

 父親に連れられてやってきたのは、古ぼけた白い石造りの建物だった。その入り口にある長年の風雨や砂に削られた木のドアが古い建物であるのを証明している。


「シンディー! シンディーはいるか!」


 父親は構うことなくドアを開けると、誰かの名前を呼んでいた。


「聞こえてるわよ! さっさとドアを閉じてくださいな!」

「ああ、すまん。皆、中へ」


 父親に勧められるがままに水のヴェールをやめて薄暗い建物の中に入る。建物の中は薬品のような臭いが充満した空間だった。変わっているところ言えば、入ってすぐの所にベッドがあるのが変わっている。


「まったく、朝から大騒ぎですね。怪我人ですか?」


 そう言いながら部屋の奥から現れたのは、グラマラスな体型の白衣を着た二十代中頃くらいの女性だった。その胸元には、上が丸になった十字架っぽい形をしたシンボルのネックレスが揺れている。


 この人がシンディー? 父親は治療院と言っていたし、見た目通りお医者さんなのかな?


「シンディー、オレはあの呪いに対する画期的な対策を思い付いたかもしれん」

「一応聞いてあげますから、言ってみてくださいな」


 このシンディーって女性。一応敬語を使っているけど、なんだか偉そう? プライドが高いのかもしれない。


「その前に紹介させてくれ。クレアとアビーはもう紹介しただろ? この子がオレの息子のキースだ。キース、これが辺境伯からこの地に蔓延る呪いを調べるために派遣された学者のシンディーだ。物知りで頼りになるぞ。何かわからないことがあったら訊いてみるといい」

「こちらが昨日の巨大魚事件の犯人ということになっているご子息ですか……。初めまして、私はシンディーですわ。と言っても、まだ言葉もわからないでしょうけど」

「あうあ!」

「それがな、シンディー。キースはもう言葉がわかるんだ。まだしゃべれはしないようだがな」

「そんなバカな」

「それがですね、シンディー。わたくしも半信半疑だったのですけど、どうやら本当にわかるみたいなのです」


 父親の言葉は一笑に付したシンディーだが、クレアの言葉を聞いてギョッとした表情を見せる。


「まさか、本当に……?」

「おい、シンディー? オレの時と明らかに態度が違うじゃないか」

「クレア様はご領主様と違って嘘なんて吐かない真面目な方ですから」

「オレも嘘など吐いたことないぞ!」

「それで? 嘘を吐かないご領主様はどんな画期的な方法を思い付いたのですか?」

「言いたいことは山ほどあるが、今は置いておこう。聞いて驚け、キースの魔法を使えば、砂の侵入をほとんど防ぐことができるかもしれない!」

「ご子息の、魔法?」


 シンディーはよくわからないとばかりに頭を横に振った。


「シンディーが言っていたんだぞ? あの呪いは砂を体内に吸い込むことによって起きる可能性が高いと。ならば、砂を体内に侵入させなければいい!」

「ですから、呪いではなく、鉱山病の一種です。それに、そんなことができれば最初から苦労はしませんわ。だから私はマスクの着用を勧めているのです」


 うぅーん。呪いだったり鉱山病だったり言ってるけど、何か悪いことが起きてるみたいだ。


 そして、父親はその対策として僕の魔法が有効だと思ったらしい。


 僕としても、何かできるなら積極的に手伝いたい。


「あぅー!」

「そうだな、キース。シンディーにもあの水の膜を体験させた方が早そうだ。シンディーに水の膜を創ってやってくれ」

「あい!」


 僕は言われた通り、シンディーに水のヴェールを創ってあげた。


「これは!? なんだこれは、この私が見たことがない魔法だと!? いつの間に詠唱を!? まさか、無詠唱魔法だとでも言うのか!?」


 どことなくクールな印象があったシンディーが、これでもかというぐらい驚いていた。


 そして、まるで獲物を見つけたと言わんばかりに鋭い視線で僕をロックオンする。


「冷静に考えれば、赤子が魔法の詠唱をできるわけがないわ。まだ発声器官が未成熟だから物理的に不可能なはず。では、やはり……! ふはははははははは! まさか、こんな辺境で、ただの伝説とされていた無詠唱魔法の使い手に出会えるとは! これは研究のし甲斐があるわ!」


 シンディーが荒い鼻息で僕を見ていた。


 正直、めっちゃ怖い。漏らしちゃいそうだ。


「息子はやらんぞ?」


 はっきり言う父親かっこいい!


 僕の中で父親への好感度がぐーんと上がった。


「ご領主様、今までの非礼をお許しください。ぜひともキース様を調べる許可をくださいまし!」

「ダメだ」

「くっ。し、しかし、ご領主様もご子息がなぜ魔法を使えるのか興味があるのでは?」

「う、うむ……。それは確かに……」

「あうあー!」


 父親負けるなー!


「私に任せていただければ、この謎を解明してみせようではありませんか! 誓って言いますが、決してご子息は傷付けませんわ。ほら、ほら、早く許可をくださいな」

「うーむ……」


 この後、いくつか条件が付けられた後、シンディーの研究は許可が下りたとだけ言っておこう。


 僕の中で父親への信頼がぐーんと下がった。

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