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105 お酒の秘策

 モートンの住む家は、ちょっとガタのきている木造りの家だった。家の造りはシンプルだし、無駄に飾ったところがない。


「でも、アクアスライムはいる」


 おそらく、モートンの家で飼われているのだろう。アクアスライムが一匹、部屋の隅っこでくつろいでいた。


 アクアスライムの体内には、木を彫って作られたペンダントトップのようなものが入っている。どうやらかわいがられているようだ。



 ◇



「それで、儂のところに?」

「うん。モートンなら何かいい案があるかもしれないと思って」


 モートンの部屋に案内され、僕の考えを伝えると、モートンは少し考えるそぶりを見せて口を開く。


「キース様は村で酒造りをしていることは御存じですかな?」

「聞いたことはある程度かな。詳しいことは知らないよ」


 僕は最近まで知らなかったけど、アクロイド村では、アクロイド芋を使ってお酒を造る文化がある。今まではアクロイド芋が豊作で水に余裕がある時しか作れなかったが、今年はアクロイド芋大豊作だし、水も十分にある。それで今年もお酒を造っているらしい。


「アクロイド芋で造る酒は、味はいまいちですが酒精が強いのが特徴です。これはこれで需要があるようでして、アクロイド村の主な収入源となっています。昨年は畑を広げましたし、今年からは雨の恵みもある。今まで以上にお酒を造ることは可能でしょう」

「なるほど……」


 モートンは穏やかなホクホク顔で笑っているけど、僕としてはまったく笑えない。


 おそらく、僕とモートンでは必要としているお金の額が違うのだと気が付いた。


 モートンは、村が安定し、みんなが安らかに暮らせる額を望んでいるのだろうけど、僕としてはこのアクロイド男爵領を国で一番の都市にする気だ。必要とする金額が変わってくるのはわかる気がした。


 それにしても、お酒造りか。


 今、アクロイド男爵領ではサトウキビを育てている。ということは、ラム酒の製造も可能だろう。ラム酒の作り方なら簡単なので覚えている。サトウキビで砂糖を作った後の廃糖蜜を発酵させ、蒸留し、樽などで熟成させる。この工程の中で、アクロイド村で一番難しいのは、たぶん蒸留の作業だろう。たくさん作ろうと思ったら、機械化しかないけど、僕もさすがに機械の設計はできない。


 蒸留って、たぶんアルコール度数を高めるためにやるんだったよね?


 じゃあ、別に蒸留にこだわる必要はない。僕なら液体を操作できる。


 でも、この作業を僕だけが担っていたら、僕がいなくなった時にラム酒が造れなくなってしまう。


 アクアスライムたちにも液体操作を覚えてもらわないとね。アクアスライムたちに訓練は必要かもしれないけど、たぶん、これで解決だ。


「それに、キース様が塩を大量に作ってくださったおかげで、しばらく塩には困りません。これはもしかすると、アクロイド男爵領始まって以来の黒字かもしれませんぞ!」

「あぁ……」


 そういえば、マクマホン辺境伯に借金があるんだっけ?


 しかも、初めて黒字ということは、今までは赤字だったということ、つまり百年分の借金があるのか……。


 そんなに無茶なお金の使い方をしていないみたいだけど、毎年小さな額でも百年分にもなればそれなりの額にはなるだろう。


 なんとも頭の痛いことだね。


 待てよ?


 たしか、アクロイド芋で造ったお酒は味は悪いけどアルコール度数が高いんだよね?


 なら、一点突破で突き詰めてみるのはどうだろう?


 純粋なアルコールも需要があるだろうし、よりアルコール度数の高いお酒というのもそれはそれで需要があるだろう。


 よりアルコール度数が高いお酒。想像するのはウォッカだ。あれは四十から六十度以上のアルコール度数であり、中には九十度を超えるお酒もあった。


 何度も蒸留を繰り返してアルコール度数を上げる関係で、素材の持つ風味が消し飛び、無味無臭なクセのないものが多いのも特徴である。


 これならば、アクロイド芋で造るお酒のいまいちな味を消し飛ばし、好みのジュースと割ったり、果物を漬けて好きに風味を付けられる。


 成功すれば、アクロイド芋で造るお酒の価値を高めることができるだろう。もしかしたら、新しいアクロイドの特産品になるかもしれない。


「モートン、お酒造りは今もしてるの?」

「今は今年三回目のアクロイド芋を醗酵している最中ですな。昨日、三樽空けてしまいましたが、まだ今年一回目に作ったお酒が五樽残っとります。ご興味がおありなら案内いたしますが?」

「うん。頼むよ」


 僕たちは、モートンの案内で、村の中にある大きめの小屋へとやってきた。どうやらここでお酒を造っているらしい。近くに寄ると、少しだけお酒の匂いがした。


「こちらです」

「ありがとう」


 モートンが開けてくれたドアをくぐると、四人の村人と一匹のアクアスライムがせっせと働いていた。


 小屋の中に入ると、お酒の匂いが強くなった。


 でも、アクロイド芋から作ったお酒だからか、なんだか土っぽい匂いだった。

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