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102 ガレスゴディア

「あなた! キース!」


 僕たちが帰ってきたことを誰かが報告してくれたのだろう。


 母上が小走りでやってきた。


 それを見て、父上はフリーデンをほっぽって母上のもとに走っていく。


「こらこら、クレア。転んだらどうするんだ?」

「だって、あなたとキースが無事に帰ってきたと聞いて、居ても立っても居られなくなってしまって」


 村人たちに囲まれて抱擁を交わす父上と母上。そんな二人を温かい目で見つめる村人たち。


 うんうん。和やかな美しい光景だね。雨の光も二人を祝福しているみたいだ。



 ◇



 僕の予想通り、通り雨だったらしく、雨が降っていた時間は一時間もなかっただろう。


 でも、これまで一度も雨が降ったことがないアクロイドの地に雨が降ったのだ。これは村のみんなにもアクロイドの呪いが解けたことがよくわかるイベントになっただろう。


「よし! 今日は宴会だ! 酒を持ってこーい!」


 それからは父上の鶴の一言によって宴会だ。


 僕は知らなかったけど、このアクロイド村でもお酒を造っているらしい。村の中央広場には、お酒の樽が三つも運ばれ、父上が木槌で樽の蓋を開けると、みんなコップで酒を掬ってはカパカパと呑んでいく。


 酒の肴は、昨日食べきれなかった海の魚を塩漬けにしたものだ。僕としては塩漬けもいいけど干物が食べたい気分である。塩はあるのだから、また海の魚を捕ってきた時にでも村のみんなに作り方を教えよう。


「くー! 酒と魚って合うなあ……!」

「魚の脂がうめえのなんの!」

「塩のしょっぱさがまた酒に合うんだよなあ」

「こんな贅沢が二日連続も! アクロイドの未来は明るいぞ!」

「雨も降ったしな!」

「あれには驚いた。まさか、空から水が降ってくるとは思わなかった」

「そうだな! アクロイドに栄光あれ!」

「「「「「アクロイドに栄光あれ!」」」」」


 お酒で酔いが回っているのか、村人たちもいつもより陽気だ。


 急に歌い出す村人もいるし、太鼓を持ってきてリズムを刻む村人もいる。踊り出す村人もいるくらいだ。


 もちろん、アクアスライムたちもぽよんぽよん弾んで楽しそうである。


 そんな村人たちの姿を、広場でクマの毛皮の上に座った父上は、まるで眩しいものを見るような眼で見ていた。


 父上にとって、この村が、この村人たちがとても大切なのだと思った。


 ふと何かに気が付いたように父上が僕を見下ろした。


「キース、ちゃんと食べてるか?」


 ちょっと酒臭い息を吐いて訊いてくる父上。


「はい! ちょっとしょっぱいですけど……」

「キースも酒が飲めるようになれば、こいつは病みつきになるぞ? ちょっと飲んでみるか?」


 そんなことを言う父上の耳が、反対方向から引っ張られる。


「いででででで」

「もう。キースに変なものを勧めないでください。あなたがちゃんとしないでどうするんですか?」


 母上だ。領主である父上にこんなことをできるのは母上しかいない。


「なあに、ちょっとくらいいいだろ? オレも子どもの頃ちょびちょび飲んでたぞ?」

「歳を考えてください! キースはまだ五歳なんですよ!」

「それはそうだがなあ――――」


 僕はケンカという名のいちゃいちゃを始めた両親から離れ、アクアに乗る。


 すると、ディアナもアクアの後ろの方に乗ってきた。


 そんな僕たちを羨ましそうな顔で見ている男がいる。


 トムだ。


 トムはアクアの中に入る心地よさを知ってしまったのだ。


 アクアの中に入ったトムは、それはもうだらしない顔していたからなぁ。


 スライムの触り心地は最高だからね。無理もない。


 まぁ、トムにアクアは貸さないんだけど。そんなにアクアスライムの中に入りたかったら、自分のアクアスライムを飼うといいよ。


「フリーデンの所へ行こう」


 僕が指示を出すと、アクアはアクロイドのお屋敷の中に入っていく。器用に触手を伸ばしてドアを開け、屋敷の中をずんずん進み、やってきたのは父上の書斎だ。


 書斎の机の上に無造作に置かれたフリーデン。神造兵器の扱いとしてこれでいいのかと思わなくもないけど、アクロイド村で盗みをする人間もいないので、まぁ、これでいいのだろう。


『来たか、キースよ』


 アクアが父上の書斎のドアを開けると、すぐさまガレスゴディアの声が頭に響いた。


 まるで筋骨隆々とした男性を思わせる野太い声だ。


「ガレスゴディア、キミが村人たちを襲わなかったのはちょっと意外でね。その理由を訊きに来たんだ」


 魔力の総量をだいたい感じられる僕からは、ガレスゴディアは今の段階でも、顕現はできなくても、魔法を行使して村を攻撃することくらいはできるだろう。


 邪炎竜とまで言われるガレスゴディアだ。それこそ、無差別に村人を襲う可能性も考えていた。


 まぁ、その時は全力で止めるけど。


 しかし、ガレスゴディアはそんな様子もなく、大人しくしている。


 いったいどうして?


『キース、貴様は我を何だと思っているのだ……。我は覚悟なき者を殺すことをよしとしていない』

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