↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
100/143

100 帰り道

「これが事実ならば、キース様が宮廷考古学者になることもグッと現実味を帯びますわ! ああ! なんて素晴らしい! 早速質問なのですが、女神と邪神は蜜月だった時期があるというのは本当なのですか? それが本当なら、対立の原因は何なのでしょう? なぜ男神は邪神に堕ちてしまったのですか? それから――――」


 次々と質問を繰り出してくるシンディーを宥めて、僕たちは『炎帝の祠』を脱出した。


 フリーデンは、冷めた頃を見計らって父上が担いで、今は村に向かって移動中だ。


 そんなに長い間『炎帝の祠』に潜っていた記憶はないのだけど、空を見上げるともう夕方になっていた。迷路部分の探索にもけっこう時間がかかったし、まぁ仕方ないか。


 今思えば、ゲーム『レインボー・ファンタジー』では、時間の経過という概念がなかった。宿に泊まったり、テントに泊まったり、イベントだったりで夜になることはあったけど、プレイ中に日にちの経過や時間の経過を感じさせるものはなかった。


 まぁ、もしゲームでも時間の経過とかあったら、主人公たちの年齢とか、前線で魔族と戦っている兵士たちが大変すぎるとか、イベントが起きるタイミングとか、いろいろ不都合があったのだろう。


「あぁ~、これは本当にダメになりそうですなぁ。いつもアクアに乗っとる坊ちゃんの気持ちがわかります」


 トムは相変わらずアクアの中に包まれて運ばれている。その顔はとろけ切って、まるでお風呂に入っているかのように見えた。


 おかげで僕は長い道のりを自分の足で歩くことになったよ。べつに歩くことは苦じゃないんだけど、ちょっとトムをズルいと感じてしまうのは、僕の心が狭いのだろうか?


「村が見えたぞ!」


 先頭を歩く父上の言葉に勇気付けられる。


 なんとか日が暮れる前に村に帰れそうだね。


「神話と考古学は専門外でしたが、キース様のためにもまずは私が勉強しなくては。教材は……王都の知人と辺境伯に頼めばなんとかなるでしょう。こちらには邪炎竜ガレスゴディアという生き証人がいますが、今の人間の常識や定説とはズレがあるでしょうし……。まずはそのズレがわかるだけの知識をつけなければ……」


 後ろの方からシンディーの考え込むような呟きが聞こえる。


 いったんのところ質問攻めをやめたシンディーだけど、シンディーが知識を付けたらまた質問攻めが再開しそうだなぁ……。シンディーのことは嫌いじゃないけど、今から疲れちゃうような気がするよ……。


 村が近くなると、村人たちが水のヴェールギリギリに立って僕たちの帰りを待っているのが見えた。


「領主様たちが帰ってきたぞ!」

「意外に早かったな」

「わからん。忘れ物かもしれん」

「おめえじゃねえんだし、そりゃねえだろ」


 村人たちにとっても僕たちの帰りは早いと感じるみたいだ。


 まぁ、念のため三日分の食料を持って出かけたのに、その日のうちに帰ってきたらそう思うよね。


「何か問題が起きたのかもしれねえ」

「おい、トムがいなくないか?」

「トム……。無茶しやがって……」


 村人たちの間に沈んだ雰囲気が広がっていく。


 でも、トムなら僕の隣でとろけてるよ。


 その時、村人たちの群れが左右に割れた。その中央から姿を現したのは、杖を突いているが、しゃんと背を伸ばした老人。長老のモートンだ。


 モートンがしわがれた声を張る


「おかえりなさいませ、ご領主様!」

「「「「「おかえりなさいませ!」」」」」


 モートンの言葉を復唱するように叫ぶ村人たち。


 それに応えるように、父上は肩に担いでいたフリーデンを掲げて叫ぶ。


「皆、出迎えご苦労! 我らは使命を果たしたぞ! この地を覆う呪いは解けた!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

「何だあの武器⁉」

「見ていると心が洗われるみてえだ……」

「呪いが解けたってことは、どうなるんだ?」

「そりゃおめえ……。どうなるんだろうな?」

「麦とか育てられるんじゃねえか?」

「この土でか?」

「さすがにそれは……」


 アクロイドの呪い。それが突然解けたと言われても、さすがに実感できないのだろう。村人たちは歓喜の声をあげてからしばらくすると、すぐに現実に直面したように困惑の表情を浮かべていた。


 自分たちの足元には乾いた土。水のヴェールの向こうでは、相変わらず砂塵が飛んでいる。これのどこが変わったんだと言われても、僕たちも困ってしまう。


「うむ……」


 父上も村人たちに返す言葉に困ってしまったのか、難しそうに唸る。


 僕もどうしようかと思ったその時、奇跡が起きた。


 ポツリ、ポツリと空から水の雫が落ちてきたのだ。


 見上げれば、夕暮れに赤い太陽に照らされた雲が見える。そんなに分厚い雲ではない。とても雨が降るとは思えない雲だ。


 他の場所だったら、ただの通り雨だと思われて終わりだろう。


 しかし、このアクロイドでは違う。


 僕はすぐに村を覆っている水のヴェールを解除した。

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。

下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。

☆1つでも構いません。

どうかあなたの評価を教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。