◇第九話
「公爵をお願い」
「だっ旦那様っ!?」
その後、執事を呼び私は馬車をお願いした。これから王城に行く予定だけれど、まだ時間が早い。とはいえ、恐らくこの時間に向かうのが正解だろう。
私はロッセル公爵家の馬車に乗り王城に向かった。
「クラリス・ロッセル夫人。王女殿下がお呼びです」
「……えぇ、案内してちょうだい」
そして、王城の門前でいきなりそう言われる。クラリスに聞いていたから予測はしていたけれど、今使節団が来訪なさっている今呼ぶとはね……
案内されたのは、王城の東に位置する建物。部屋に入ればその中には大きな丸テーブルがあり、私を呼んでいた王女殿下が座っていた。そして、周りには私と王女と同じような年代のお嬢さん達も。
「急に呼び出してしまってごめんなさいね」
そうにこやかに話しかける王女殿下は、こちらにいらっしゃいと手を向けた。……私の席は全く用意されていないテーブルの近くに。
「わたくし聞きましたの」
何故呼ばれたのかは、予測は出来ている。周りのお嬢さん達も分かっているようだけれど、顔を引きつらせている方、不安そうな顔をしている方もいらっしゃる。
さて、皆どんな心境なのかしら。
私の心境としては……
——今すぐに王女の首を絞め殺したい。
ふふ……さ、どうしましょうか。
「ロッセル公爵邸で火事があったそうね」
さすが王族。もう耳に入っていたのね。
さては、私の両手にあの魔道具がない事についても知っているのかしら。だから、私をすぐに呼び出した。
「確か、貴方が原因だとか。公爵夫人ともあろう者が聞いて呆れるわ。ここに嫁いで1年も経つというのに、自覚がないのかしら」
彼女が、メイドに目配せをする。そして、もうすでに用意されていたのであろうものをトレイに乗せて持ってきては彼女が手にした。
それは……鞭。そして、彼女は立ち上がり私の近くに立つ。
「スカートを上げなさい」
「何故?」
笑顔で、そう返した。
その回答に彼女は笑顔で黙るけれど、周りのご令嬢がその行動に驚きを見せ勢いよく立ち上がる。
「そんな口の聞き方っ、この方は王女殿下なのよ! もう貴方は王女じゃないの! 自覚しなさいよ!」
「あら、誰に向かってそう言っているのかしら。ご令嬢の分際で」
クラリスは王女でなくとも公爵夫人。この国では公爵家はクラリスが嫁いだロッセル家ともう一つ。そしてその家にご令嬢はいないし婦人も療養中。であれば、王女殿下以外の女性はクラリスが一番上の階級となる。
「なら、王女である私の言葉ならどう? 早くスカートを上げなさい」
「ですから、理由をおっしゃってくださいな。殿下はこの国の手本となる王族。私はここに嫁いでまだ一年ですから、今後の参考にさせてください」
久しぶりに会った時、クラリスの足には鞭の痕があった。新しいものから、古いものまで。それは恐らく彼女がつけたものでしょうね。
私のこの反応に、王女は眉を上げた。
「まずは、鞭を手に入れた方がよさそうですわね。参考までに、どこでご購入されたのでしょう?」
「……貴方、分かっていてそう言ってるの? 私にそんな口をきいてどうなるか分かっているのかしら」
人質となっているメイドの命がどうなるか、ということかしら。クラリスによると、王城の牢屋に入れられている。王女の手の内、という事。
「それは大変ですわ。ですが王族であるあなたの行動一つ一つに理由が必要ですわ。彼女はユディッタ人ですから、今来訪されている王太子にもご報告しなければなりません。ですから、この後私がしっかりと包み隠さずご報告いたしますわ」
「……」
「これはいわば国際問題ですから、こちらの国王陛下にもご報告しなければなりませんね。陛下にも私がご報告いたしましょうか?」
これから、すぐ近くでガーデンパーティーが行われている。ここ王城にもユディッタ王国使節団の者達と国王陛下方もいらっしゃる。伝えるのは簡単な事だ。
今までクラリスは、こんなに強気に反抗しなかった。けれど、今の私の態度に驚いた事だろう。ついに彼女は顔をゆがめた。手にする鞭を力強く握りしめている。
「っ……そんな事、必要ないわ! 貴方馬鹿なの!? こんな些細なことで事を大きくしようとするなんて! こんなの皆迷惑極まりないわよ!」
些細な事、ね……このお嬢さんは、人の命を何だと思っているのかしら。
しかも、さっき自分で公爵夫人の自覚を持てと言っていたけれど、これではこの国の王女だという自覚を持てと言いたいわね。
「牢屋に1年も収容される事が些細なこととお考えのようね」
「これもあなたが悪いのよ! 貴方が公爵夫人の自覚を持っていないから、代わりに彼女が罪を償わなくてはならなくなったの。分かってるの? これ以上貴方が何か犯せば……あの女、死んじゃうわよ?」
「……」
「衛兵っ!!」
その声で、外で控えていた衛兵が駆け寄ってくる。けれど……私と王女の周りに、輪となって勢いよく燃え上がった炎。それが壁となって近づけずにいた。
「なっ!? きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そして、王女の胸ぐらを掴む。
彼女は私が思っている以上に驚いた事だろう。クラリスはこちらに嫁いでから一度も能力を使っていないのだから。私達を燃やす事なく炎を維持するほどの操作能力を目の当たりにして、どう思ったかしら。
「さぁ、言ってごらんなさい。私のメイドはどこにいるのかしら?」
「っ……」
「あなた、今どういう状況か分かっていないのかしら」
クラリスにはメイドが捕らえられている場所は聞いていない。彼女自身、その場所を知らないからだ。なら、王女に直接聞いたほうが早い。
なっ剣が溶けてっ……という声も外から聞こえてくる。水魔法を使うもの達もいるでしょうから防御も重ねた。
彼女は手に持つ鞭を振ろうとするも私が掴み燃やしてしまった。すぐに手放したのは正解ね。
「あ、なたこそ……いいの? こんな事して」
彼女は、スカートのポケットに手を伸ばし……懐中時計を出した。
なるほど、それね。
「貴方の心臓……私が握ってるの、忘れたの……?」
クラリスの背中に、今肌に直接印が刻まれている。魔道具であるあのインクは、彼女の肌に穴をあけ体内に侵入し心臓を刺す。そしてそのカギは王女が持っているその懐中時計。それに魔力を込めれば、いつでも心臓に穴をあけることが出来る。
けれど、王女は知らない。本当にそれが、心臓を刺すものなのか。
「やりたいのならやってごらんなさい」
「っ!?」
「そこまで言うのなら、どうぞ?」
ハッタリだと思っているのでしょうけれど、王女はこの私の態度に腹を立てた様子を見せた。けれど、彼女は驚きを隠せずにいた。
「な、んで……!?」
私が、苦しがる様子もなくそのまま彼女の胸ぐらを掴んでいるから。それもそう、私はクラリスではないのだから。もちろん、きっとクラリスも無事でいるはずよ。だってそれ、心臓を刺すものでもなければ、その懐中時計でさえただのガラクタなんですもの。
「さ、私のメイドはどこ?」
壁となっている炎を激しく燃え上がらせては顔色を悪くし震えあがっている。さ、どうする?
「じっごく、ろぅっ!!」
地獄牢……聞いたことがないわね。どこにあるのかしら。城内?
私は王女を掴んでいないほうの手を払い炎を消した。
「フェリシー」
「こちらに」
私のこの掛け声で、一瞬で近くに彼女が現れた。
「地獄牢にいるそうよ。コレットを救出してあげて」
「かしこまりました」
「少々荒っぽくなってもいいわ」
「助かります」
そして、また一瞬にしてその場から消えた。これで、捕らえられているクラリスの専属メイド、コレットは大丈夫そうね。フェリシーの腕は私が一番知っているもの。
「これから私達はガーデンパーティー。皆さん、遅れては大変だわ。さぁ、仲良く皆で行きましょうか」
「はっ離してっ!!」
そんな切実な願いを言ってくる王女に笑顔を見せ、ポイっと投げるように離した。尻もちを搗く王女に迫り、もう片方の手の指先に炎を出現させた。そして……
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「王女様っ!?」
彼女の眼球から約5センチで止めた。
「煩いわよ」
「っ……」
王女は、顔面蒼白で後ずさる。けれど、笑顔で迫り彼女の手を思いっきり握り引っ張り上げて彼女を立たせる。
「さ、行きましょうか」
「っ……」
仲良く手を握り、側に控えていたメイドにガーデンパーティーの会場に案内してもらった。
さて、ガーデンパーティーで何が始まるでしょうね。




