◇第十話
ガーデンパーティーにぴったりな晴天。そして、皆がシャンパングラスを持ち談話を楽しんでいる。
けれど、私達がパーティー会場に足を踏み入れると、一瞬時間が止まったかのように静かになり、その後ざわざわと騒音が鳴り出した。
私は、決して王女の手を離さずその中を歩いた。遠くに、何段かの台、その上に用意された玉座、その椅子に座るこの国の王、王妃が見えた。
心が躍った。きっとお兄様方は怒るでしょうけれど、私はそんな事は知らない。
玉座に向けて足を速めた。そして向こう側に座る国王陛下は、少し怪訝した様子を見せた。
そして、目の前まで差し掛かり、王女を掴む手を離した。けれど……
「止まれっ!!」
「あら、来たのね」
「クラリスっ……」
私と国王陛下の間に立ちはだかった……ボドワン・ロッセル。私に剣を向け、睨みつける。警戒した様子を見せているけれど、今朝までの余裕は全く見えない。
屋敷であそこまで潰したというのに、さすが騎士団長。
「あら、いかがなさいました? 私は国王陛下にご挨拶を……」
「一体何を考えているんだ……っ!!」
周りも、このピリピリした空気に黙り込み、距離を取るように下がり始めた。
「アリエスっ!!」
そして、遠くからクラリスの声が聞こえてくる。きっと、私が何をしようとしているのか分かっていて心配してくれているのね。
でもね、クラリス……
——もう、私は貴方の悲惨な姿を見たくないの。
私は、思いっきり首にかけていたネックレスを引っ張り外した。そして、ネックレスに着けている琥珀を……握りつぶした。
お父様達が守ってきた、秘密。これは王族が何百年も隠してきたもの。
琥珀が粉々に砕かれた瞬間、乳白色の瞳が一気に金色に色を変えた。私の体から滲み出るエネルギー、そして、長い耳。
目の前の公爵は、目を見開いた。そして周りの彼らも、驚いたであろう。皆、誰もが知っているであろう物語を思い出しているはずだ。
「……エルフ、なのか……っ!?」
エルフはただ神話に出てくる神という存在。けれど、実在した。そう、私達ユディッタ王国の者は皆エルフの末裔。
ユディッタ王国は山を切り開いて作られた緑あふれる国。建国されて何百年も続くその国は、エルフの末裔だという事実をひた隠した。周りとのいざこざを恐れたためだ。
そして、外部の者と交わりはあったが王族は純血であるため本来の姿に変えることが出来る。
我らが身に宿すものは神聖力。魔力などというちっぽけなものと比べないでほしい。
「——どけ」
「っ……」
目の前に立ちはだかる彼に、指をさした。まるで言霊のように、この一言、二文字の言葉に神聖力を込めると、時間を止めたかのように彼は動きを止めた。周りの者達も、まるで足を地に釘差したかのように動けずにいた。
彼らは魔道具に頼りすぎだ。見たところ、騎士団達が持つ剣は魔道具。王女が持っていた鞭もそう。己の体内からエネルギーを放出し魔法を作り出すことをした者は、誰もいない。
大国といってもこれでは笑いものだな。
そして、私は玉座に座る国王陛下の目の前に立つ。
「さぁ、まずは『地獄牢』の犯罪者リストを出してもらおうか」
「地獄、牢だと……?」
彼はすぐに近くの使用人に目配せをし持ってくるよう指示をした。分かっているじゃないか。
彼は、この状況をきちんと理解している。さすが、国を統べる者と言ったところか。
「アリエス、王女……お主……」
「へぇ、さすがだ。まぁ、ただの馬鹿では国を統治する事は出来ないか」
私はクラリスではないとすぐに気付いたのか。まぁ、さっきクラリスが「アリエス」と呼んでしまったし、こんなに近くにいるのだからきちんと見れば分かるか。
そして、私は両腕の袖に結ばれたリボンを解きめくる。すると、私の腕に広がる印があらわになった。
花とツルを模して描かれたような青黒い紋様が。
これは、クラリスが私の代わりに嫁ぐことになってしまった原因。
「私は気が短い。そして、私は先祖返りのエルフであるため私の神聖力は特殊でな。それを抑えていた琥珀を先ほど壊してしまったが故、この後神聖力を使えば……どうなるだろうな?」
「っ……」
「こうなる」
そして私は、国王から明後日の方向に視線を向け、手を伸ばすと……その方向に、一本床から炎が噴き出した。
「ギャァァァァァ!!!!」
途端、響く男性の叫び。炎に巻き込まれた者の叫び声だ。
そして、その周りにいた貴族達の叫び声も上がる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「にっ逃げろっ!!」
叫びながら逃げていく貴族達が離れ、私は炎に足を向けてゆっくりと歩いた。
「見つけたぞ」
炎から飛び出し私から後退していった者。丸こげにしてしまえば、彼の本来の姿が現れる。今の私と似た姿、そして褐色肌。
「お前だな。……クラリスの神聖力を奪ったのは」
「っ……」
焦げてはいるが、公爵と似た制服を着ている辺り恐らく騎士団に紛れ込んでいたのだろう。
彼は〝ダークエルフ〟だ。




