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妹を踏みにじった奴らに、復讐の花束を  作者: 楠ノ木雫


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7/12

◇第七話


 外に出れば、騒ぎ立てるマレルブ嬢と慌てる使用人達が見えた。そして、邸宅の正門から馬が来ていた事にも気が付いた。夜ではあっても、燃え盛る屋敷と周りの明かりの魔道具でよく分かる。


 馬から降りてきたのは、私達が来訪した時に見たこの邸宅の主人。



「これはどういう事だ」


「ボドワンっ!!」



 マレルブ嬢は、彼を視界に入れた瞬間駆け寄り抱き着いた。ボドワン、ね……いとことはいえ既婚者、しかも奥方が近くにいるというのに気安く名前を呼ぶなんて。淑女だのうるさく言っていたようだけれど、聞いて呆れるわ。



「クラリスがろうそくの火をっ……私は止めようと思ったのに、止められなくて……」


「クラリス」



 彼の鋭い視線。これが自分の奥方に向ける視線かしら。そして彼女は勝ち誇ったような表情をわざと見せてくる。


 とはいえ、彼女の言う事は……間違いだ。そう、間違い。



「余計なことはするなと私は何回言った? これでは罪に問わなければならなくなるぞ」


「あら、本当に? それは困りましたわ」



 私は、手を上げた。そして、ぱちんと指を鳴らす。


 その瞬間、ここにいる全員、いや、屋敷にいる全員が驚いた事だろう。今見えている火は一瞬金色に色を変え、そして……跡形もなく消えていった。とはいえ、外からではすべて消えたのかは確認出来ないけれど。


 彼は、驚いた顔で私を睨みつけた。


 そして、ご令嬢は信じられないと言いたげに私の手首を見てきた。そうよね、このブレスレットの魔道具がちゃんと作動してるか気になるわよね。お気になさらず、ちゃんと作動しているわ。


 それにご心配なさらずとも、火はもう消えてるわ。これはただ屋敷を燃やしていないというだけ。さっきまで煙が出ていなかった事に気が付いていないのかしら。


 そしてもう一つ。この家に設置されている明かりは魔道具。だというのに、何故ろうそくが火事の原因になったのか。


 ただ、あのろうそくは私に魔道具を使わせたくなかった令嬢が嫌がらせで使わせたもの。火事の原因を調べれば、その部屋がクラリスの部屋だと分かるでしょうね。さて、公爵様にどう報告するかしら。



「余計なことと言うけれど、一体どんな事でしょうか。そうおっしゃったのは公爵様(・・・)なのだから、一から十まで全て仰っていただかないとわたくし分かりませんわ」


「……何?」



 彼はずっと睨んでいるばかりね。ずっと、ずっとこうしてクラリスを見ていたのかしら。もしそうだったとしたら……殴り飛ばしたくて仕方ないわ。



「それとも、愛人様(・・・)にお聞きした方がよろしかったでしょうか? この家のもう一人の主人は私ではなく愛人様であるならば、それも最初に言っていただかないといけませんわ」


「ブリジットを私の愛人と、言いたいのか」


「えぇ、だってそうでしょう? だって、さももう一人の主人とでも言いたげな態度ばかりなさるのですから」



 私の部屋を彼女が使い、屋敷のメイド長を味方につけては使用人達に命じクラリスを使用人のように扱わせ、公爵家の資金を使いたい放題。通帳には、クラリスの散財という事にされ、公爵がそれを知ればクラリスに矛先を向けられた。


 それを聞けば彼は屋敷内の事を知らなさすぎる。仕事だけの能無しね。


 彼は、驚きつつもすぐにマレルブ嬢に視線を向けた。



「どういう事だ、ブリジット」


「そ、そんな事ないわっ! 夫人(・・)の思い違いよ! 私がそんな事出来るわけないでしょう!」



 なるほど、ここで夫人という言葉を使うのね。けれど、彼女は屋敷で彼のいない時一度も夫人と呼んだ事はない。


 けれど、彼は私に鋭い視線を向けた。なるほど、クラリスの言葉ではなくいとこの彼女の言葉を信じるのね。……自分の奥方が誰なのか、分かっていないのかしら。



「まぁ、仕方ないでしょうね。私はただの居候(・・・・・)のようなものですから」


「それは聞き捨てならないな。自分の立場を理解していないのか」



 居候、という言葉が気に入らなかったのか足を速めて私に近づき私の腕を掴もうとした。けれど、その手を避けては彼の顔近くに私の片方の手首を見せつける。



「ですが、これは少々趣味が悪いですわ」


「何だ、それは」


「あら、公爵様が指示したのではありませんか? ブリジット夫人(・・・・・・・)にお願いしたのでしょう? 私に手錠(・・)をかけろって」


「なっ手錠だなんてっ!!」



 彼の表情を見るに、これが何なのか分かっていないように見える。すかさずマレルブ嬢が近づき私の腕を掴もうとし避けたけれど、彼女は焦りを見せている。もしや、公爵様はこれを知らないのかしら?


 でも、ちゃんと見れば分かるはず。これが……罪人につける手錠で、上手くカモフラージュされている事が。



ロッセル公爵夫人(・・・・・・・・)にこのようなものを嵌めた馬鹿は誰だ」


「っ……」



 その視線は、マレルブ嬢に向けられる。あら、彼女は愛人ではなかったのね。まぁ、彼がこの屋敷に帰ってきたのは確か……1ヶ月ぶり? クラリスはそう言っていたような……もしや、ここは公爵の家ではないのかしら。



「クラリスの教育係として屋敷に滞在させたが、勝手な事をして、ただで済むと思うな」


「ボっボドワン!! 私はそんな事してないわっ!! こっこれは夫人が自分で購入されたのよっ! 宝石商で買っていたのっ! 決して魔道具ではないわっ! 信じてっ!!」



 彼女は彼の腕を掴もうとするも払われてしまった。その行動で完全に切られてしまった事に気が付いたのか顔を青白くしていた。彼は、連れていけ、と衛兵に命じ彼女はその場から退場していった。



「別邸は使えるか?」


「はい」


「ではクラリスをそちらに。私もあとから行く」



 執事にそう命じていたけれど、あとから公爵が来る事に違和感を覚えた。クラリスが言うには、公爵は全くクラリスに興味を示さなかった。結婚後の初夜だって、寝室にすら来なかった。それが原因で、マレルブ嬢が調子に乗りこんな事になってしまったのだと私は考える。


 そう、この男の態度が原因。



「あら、別邸を使わせてくださるのですか。ですが公爵様、今はお兄様達がご来訪されているのですからご無理をなさらず王城に戻ってはいかがでしょう。主が不在であっても、この屋敷の使用人達は優秀でしょうから問題ありませんわ」



 そう、優秀な使用人達。けれど、今マレルブ嬢の失態を聞きこの屋敷の使用人達は本来仕えるべき相手をマレルブ嬢としてきた事が明らかになった。それだというのに私はその言葉を使うのだから皮肉っていると分かるはずだ。



「……ふざけるのも大概にしろ」


「あら、ふざけてはいませんわ。アーデルへイド王国騎士団団長様?」


「だが我がロッセル家も今来訪なさっているユディッタ王国の親族。なら重要性もあるだろう」


「ですが、今すぐにという必要はありませんわ。今はお兄様達が何事もなくご帰国出来るよう尽力なさってくださいな」



 やはり、彼は睨みつける事しか出来ないのね。



「……手首を出せ」


「嫌ですわ、手がなくなってしまっては不自由ですもの。執事に外していただきますから、この魔道具が必要でしたらそちらに送らせていただきますわ」



 睨みつけた後に舌打ちを残し、馬がある方に戻っていった。


 彼は思っている事だろう。これが本当に魔力をせき止める魔道具であるならば、先ほどのような火を一瞬にして消すなんて事は出来るはずがないと。となれば、その魔道具に問題があるのか、それとも私自身に何かがあるのか。


 もし私自身に何か細工があるというならば……何故今まで使ってこなかったのか。これほどの魔法が使えるのであれば、今のように実力行使が出来たはずだ、と。


 けれど、クラリスの事をよく知る私なら分かる。確かに琥珀を奪われて使えなかった。でも、彼女は優しい。本当に、他人を思いやる気持ちが私達よりも大きい。


 であれば、他人を傷つける事なんて出来るはずがないのだから。



「では奥様、こちらへ」



 執事が別邸に案内してくれるようだけれど、奥様、ね……


 今まで透明人間のように接してきたというのに、今更奥様と呼ぶなんて……虫のいい話よね。



 別邸は本邸よりもこぢんまりとした建物ではあるものの、さすが公爵家と言っていい程の気品のよさがあり、魔道具もいくつも設置されていた。一体どの部屋に通されるか思っていたら、マレルブ嬢が使っていた部屋と同じくらい広い部屋だった。


 けれど、ベッドが大きい。となれば……ここは夫婦の寝室かしら。



「違う部屋、ないのかしら」


「えっ」


「私は居候だもの。別の部屋を用意して下さらない?」


「……」



 執事はだいぶ困っているように見える。自分も以前もう一人の主である奥方を黙認してきたのだから。クラリスが本来使うべき夫人の部屋を追い出され、あの狭い部屋に追いやられた事も、あのマレルブ嬢に使用人のように扱われた事も、何も言わずにいたのだから。



「……ただ今、ご用意いたします」



 その前にと湯浴みに案内された。けれど、メイド達の助けは断った。誰も通すなと釘も刺した。


 ——私がクラリスの皮を被ったアリエスだと分かってしまうから。


 まぁ、顔色が悪かったせいで厚化粧を施していたから落とすのは避けた方がいいとは思うけれど……どうせ気にしないでしょうね。今までちゃんと見ていないでしょうし。


 確か、ユディッタ王国王太子と第一王女のスケジュールでは、明日この国の国王陛下が主催するガーデンパーティーに参加する事になっている。その中にはロッセル夫人も参加する予定だと聞いていた。となれば、明日アリエスに変装したクラリスと会う事になる。



「フェリシー」


「こちらに」



 フェリシーを呼べば、静かな部屋に音もたてず私の隣に現れる。流石、優秀な護衛だ。きっとクラリスが私の方に向かうよう指示をしたのかもしれない。クラリスの方にはお兄様がいるから問題はない、と。


 そして、無事クラリスはアーデルへイド王国側に悟られずお兄様に事情を説明出来たとのことだった。



「やりすぎるな、との事でした」


「……お兄様らしいわね」



 どうせ「無茶をするな」はクラリスの方が念を押したはずだから、とでも思ったのでしょうね。そして、私はだいぶ腹を立てている事も。


 お兄様からの報告も受け、私からも伝言を宝石箱と一緒にフェリシーに頼んだ。まぁ、クラリスも十分無茶をしていたと思っているけれど、私が言えないわね。



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