◇第五話
クラリスは、涙を流しつつもこれまでの事を話してくれた。
私が思っていた通り、いや、それ以上の事が起きていた事に沸々と怒りが込み上げてきた。
「もう……私、分からない……分からないの……どうしたらいいか……どうすればよかったか……もう、分からなぃよ……」
「うん、頑張ったね、クラリス」
私は、クラリスが嫁ぐ直前に言った。手紙を出すと。そして、クラリスも手紙を書くと約束した。その通りに送ったものの、返事は返ってこなかった。何度も、何度も送っても返ってこなかった。
嫁いだばかりで忙しいのかな、その時はそう思ったけれど……そこで気付くべきだった。
それもこれも……私のせい。
なら、私がこの落とし前を付けるべきだ。
「クラリス、もう少し頑張れる?」
「……え?」
その言葉に、違和感を覚えたような様子を見せた。
「……クラリス、覚えてる? 小さい頃、何回もやった事あったよね。……——入れ替わりごっこ」
「っ!?」
その一言で、クラリスは抱きしめていた手を外し離れては私の両肩を掴んだ。恐ろしいものでも目の当たりにしたかのような、そんな表情を見せてくる。
私のしようとしている事を、理解した。
小さい頃、何度もやった事がある。私とクラリスは一卵性双生児であるから、とてもよく似ている。だから、クラリスと服を交換して遊んでいた。これが意外にもバレないもので、お父様達家族以外では全然見分けがつかなかった。
私達の声は少し違うけれど、似せる事は出来る。なら、勝算はある。
「ダメよっ!! そんな事しないでっ!! 大丈夫!! 私は大丈夫だからっ!!」
「私はクラリスのお姉ちゃんよ。それに……このままじゃ私の腹の虫がおさまらない」
「っ……」
クラリスは、知っている。私は、一度言い出したら絶対に曲げないと。それに今、私がどれだけ腹を立てているのかも気が付いているはず。
だから、迷っている。そんな事をしてもいいのか、と。きっとクラリスは今話してくれた以上の散々な扱いを受けたと思う。そんな生活を双子の姉に背負わせてもいいのかと。でも、私が怒ればどうなるかを考えれば、それを受けるしかない事も。
「クラリス……——私達と、一緒に帰ろう」
「ぁ……」
その言葉で、伝わった事だろう。私は、犠牲になるつもりはさらさらないと。
昔から気の強い私は、喧嘩も強かった。それは、どんな意味でも。
「……私、嫁いでようやく分かったの。私は、アリエスにずっと依存していた。生まれてから、ずっと」
そう呟くクラリス。でも、そんなことはない。
私も、そうだったから。私も、クラリスが隣からいなくなってしまって、寂しかった。本当に、寂しかった。でも、それは口には出来なかった。
「だから、この国で頑張ろうって思っていたのに……やっぱりアリエスがいないと私何も出来ないわ。アリエスみたいに、強くなれないし、上手く出来ない……自分で何とかしようと思っても、このざまよ……」
「……」
そんな事ない、と言いたいところではあるけれど、それは言ってはいけない。クラリスの事をよく知っている私だから、言ってはいけない。だから、代わりに強く抱きしめた。
私は思う。クラリスは何も悪くない。
クラリスは、優しすぎた。素直で、真面目で、そして責任感が強かった。
だから、私が代わりになる。
私は、側にいたフェリシーに私の化粧道具を持ってくるよう伝えた。そして、クラリスのドレスのホックを外す。これは自分では外せないから誰かに外してもらわないと着替えが出来ない。クラリスも私のドレスのホックを外そうとするも、躊躇っている。
「クラリス」
「……無茶は、しないでね」
「当たり前よ。クラリスみたいな無茶なんてしないわ」
ため息の後、外したクラリス。一体、何を思っているのかは分かってる。
そして、私達は互いの服を交換し身に着けた。クラリスは私より化粧が濃いから、フェリシーが戻ってきた後すぐに落とさせた。彼女が化粧が濃かった原因は、顔色が悪かったことを隠すためと、他人からの指示。何故体調が悪かったのかは、聞かずとも分かる。
「クラリス、手を」
「うん」
ずっと気になっていた彼女の両手にあるブレスレット。まるで太いツルを巻き付いているような銀色のデザインのそれには、宝石がついている。これは、いわゆる手錠だ。魔力をせき止めるための魔道具。
とはいえ、クラリスにはこんなものは効かない。けれど彼女は今能力を使うことが出来ないでいる。その原因は、没収された琥珀の指輪を没収されたから。彼女が能力を使うためにはその琥珀がないといけない。
だから、私がその琥珀の役目を代替わりする。
彼女の目が、黄金色に変わる。そして、私の握る彼女の手、その手首から、私の手首に瞬間移動した。
「どう?」
「ちゃんと正常に作動してる。大丈夫」
ほっと一息つき、そしてもう片方も同じように。この国の魔道具技術は優秀だから懸念はしていたけれど、さすがクラリスね。
彼女のこの瞬間移動には無機物である事などの条件がある。けれど、我が国でのこの能力は彼女のみが使える。クラリス以上の精密な操作を扱える者はいない。本当に、変わらず流石ね。
「——どう? フェリシー」
「完璧です。私でもよく見なければ見分けがつきません。流石ですね」
「久しぶりね……この感じ」
部屋にあった姿見に映る私はクラリスそのもの。隣のクラリスも、私にそっくりな姿となった。この国でのクラリスの様子や振る舞いについては、着替えている最中に教えてもらったから、恐らくバレないでしょうね。
「……やっぱり、アリエスの姿になると強くなったような気分になるわね。中身は違うのに」
「そう? クラリスも、私の役をちゃんと全うしてね。まぁ、私はこの国に来るのは初めてだから周りとは初対面という事になるし、クラリスの事だから大丈夫でしょうけどね」
「でも出来る事はするわ。この国は少しではあってもアリエスより知ってるもの」
「うん、とても頼もしいわ」
タイムリミットは限られている。その短い期間の中で、犯人を特定し……叩きのめす。そして、兄妹三人で仲良く故郷に帰る。
絶対に、笑って帰ってみせる。お父様達の元へ。




