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122話「聞こえてるならとっとと絶滅してくれませんか!?」

「右大臣」は癒希がノリでつけました回です。

よろしくお願いします。

以下はこの章に出てくるキャラクターの一覧です。

挿絵(By みてみん)

「がーっははははははははは!」


 斜面を100メートルくらい下った辺りでは激しい吹雪が渦を巻いていて、大男のシルエット以外は何も見えない。


 僕たちがいる施設周辺は風も穏やかなのに――まるで彼が警戒網を突破するためだけに発生したかのようだ。不自然な(・・・・)自然現象。やっぱり不自然な速度で薄れていき、大男のシルエットに色がつく。そして。


「ぅううううううう我はアクセル! この雪原を統べるロスト族の将軍である! がーっははははははははははははははははははは!」


 大男(アクセル)は白い余韻を蹴散らすような大爆笑を炸裂させた。

 顔はやたらと濃い髭に覆われていて、身長は2メートル以上。下半身は毛皮を加工したものを着ているけど、上半身はほとんど裸。露出した肌は打ち上げ花火のように鮮やかな赤色。


 結構な低温に晒されているにも関わらず、風邪をひいている様子は欠片もない――お馬鹿は風邪をひかない云々の皮肉も通じないだろう。

 代謝が活発で羨ましい――いや、どう考えてもそんなレベルじゃない。


(もしかして寒さ無効の肉体……?)


 ホリマスでは積雪フィールドに通常ユニットを配置するとパラメーターにマイナス補正がかかってしまうんだけど、特定の種族はお咎めなし(・・・・・)


 ここがファンタジー世界とはいえ、そんなことが――そうでないと彼がこの寒さの中で乾布摩擦でも始めそうなほど元気いっぱいな理由が説明できない。

 不適切お馬鹿は寒さ無効。僕は認識をそう改めた。それはさておき。


『アクセル将軍! 万歳(ばんざーい)!』


 不適切将軍の背後には200人ほどの兵士――ではなく蛮族。そんな言葉がぴったりの連中が雑然と立っている。

 揃いも揃って分厚い毛皮を加工した装備に身を包んでいて、体の色々なところに骨で作ったと思しき装飾品をぶら下げている――大きさからして中型の獣のものだろう。そして男性しかいない。


(男性と女性で得意分野が異なるのは事実だから……)


 切った張った(・・・・・・)の肉弾戦に男性だけが出てくるのは効率という面では理にかなっている。もちろん、オリアナさんやヴァレッサさんみたいな人もいるけど――その時。


「まったく!」


 呆れたように言いながら、アクセルが息を大きく吸い込んだ。トラックのタイヤを思わせる分厚い胸板が大きく膨らむ――傲慢な視線の先にはアゾリアさん配下の兵士たち。刹那。


 ぴこん!


 僕の直感が嫌な予感を検知した。アクセルがさっき言い放った不適切な言動が頭の中によみがえる。

 まさか――


男のくせ(・・・・)に女に組み敷かれるのが趣味とはな! このアクセルが性根を叩き直してやるゆえ、女々しく(・・・・)泣き出さんようにな! がーっははははははははは!」


 ジーザス。それは予感的中どころか、月まで届く特大ホームランだった。

 僕はすぐ後ろに厳しい先生がいることも忘れて、思わず呟いてしまった。


「なんてファッ◯なシーラカンス(・・・・・・)……気圧外傷で死ねばいいのに――」


 その瞬間、針のように鋭く尖る先生の気配。検知したのは妖気ではなく、生徒の好ましくない言動。僕の背筋がぞくりと冷える。


「比良坂さん。絶滅すべきシーラカンスの方が適切な表現だと思いませんか?」

「はい! とっとと絶滅すべきシーラカンスです」

「とても適切な表現になりましたね」


 背筋を伸ばして訂正すると、先生の気配は急速に柔らかくなっていく。微笑んでくれたみたいだ。

 叱責されずに済んだのは、直前に不適切特大ホームラン月面着陸があったおかげだろう――それはさておき、まだ絶滅してくれないシーラカンスが肺呼吸で怒鳴り返してきた。


「小娘のようなガタイの貧相な小僧! 聞こえてるぞおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「聞こえてるならとっとと絶滅してくれませんか!?」

「なんでだあああああああああああああああああああああああ!?」


 僕が全力で叫び返すと、腹まで響く怒声が雪山に響き渡る――そんな彼に半眼を照射(・・)したとき、オリアナさんが心配そうな顔で振り向いてきた。


『あのような馬鹿者との会話はおやめください』


 そんな表情だ。ついでにめちゃくちゃ強い神官戦士のお姉さんに訊いてみよう。


「オリアナさんの鞭を喰らったらどんな顔をするんでしょうね?」

「その時、彼の顔面は7つ(・・)に砕かれているはずですから……想像するのは困難です」

「なるほど。パズルみたいに組み合わせたらどんな願いでもかなえてくれそうですね」


 真面目な神官戦士のお姉さんでもあるオリアナさんは、左手を顎にあてて真剣に答えてくれた。矢木咬先生が僕の背後から続ける。


「その冗談はこちらの世界の人には通じません。雛人形の右大臣のように顔面真っ赤で、さらに倫理観絶無な大人失格の男性にも」

「女の分際(・・)でこの“赤熱”アクセル様をコケにするかあああああああああああああああああ!?」

「ま、通じませんよね」


 地獄耳の不適切将軍(大人失格右大臣)の2度目の怒声を聞き流しながら、僕は小さく肩を竦めた――刹那、猛烈な殺気に襲われた。施設全体を圧倒するような重さ。そちらに振り向けば、アクセルが巨大な戦斧をこちらに向けていた。


「貴様らが巣食いし山は! 我らが父コーロストン神の玉座! 今こそ奪還させてもらう! ついでに謂れなき誹謗中傷の仕返しもなぁああああああああ!」

「えっと……」


 彼の言動が理解できず、僕は先生の方を向いた。先生も同じような顔を向けてくる。

 謂れなき(・・・・)と言われたのが理解不能だったわけじゃない――こういうタイプならそうだろうなと予想していた。理解不能だったのはコーロストン神という単語。


(この世界の神はゲス女神だけのはずじゃ……?)


 最初からそうだったのか、他の神々をロードローラーで追い出したのかはわからないけど、ゲス女神――テラリディアが唯一神。僕は教会でそう聞かされた。と。


 ごごごごご……!


「ロスト族か。族長の座を巡って諍いが起きているという話は聞いていたが……自治を認めているティアラ神国に噛みついて来るとはな」


 そう言ってきたのはアゾリアさんだ。

 アクセルに負けない殺気を彼らに向けたまま――全身には超お怒りの炎をまとっている。とてもじゃないけど、この世界の神々や神話について質問できる雰囲気じゃない。


 それは猫を飼っている人に、百合の花束をマタタビ付きでプレゼントするようなものだ。ぶっ飛ばされてしまいかねない。


(なんでこんなに怒ってるんだろう……?)


 激怒とか憤怒とか、そういう単語をいくつ並べても足りないレベルだ。民間人を襲われたから軍人の血が騒ぐというだけじゃないように思える。

 僕が顔を青ざめさせている間に、こっち(・・・)あっち(・・・)の殺気がせめぎ合い――そして弾ける!


「では雄々しく戦闘開始を宣言させてもらおうか!」

「射撃準備! 馬鹿どもに風穴をくれてやれ!」

『はい!』


 アクセルの粗野な大声が白い戦場に響き渡り、対するアゾリアさんは冷静な号令を張り上げた。

 上階の兵士たちが一斉に大型クロスボウで狙撃の構えに入り、そして鋭い殺気がレーザーポインターみたいに斜面へと向けられる――


(いよいよ戦闘開始だ。やってやる!)


 学校で雪上戦の授業はなかったけど、戦う方法なら知っている――でも僕たちがいる施設は()にあるから、不適切将軍アクセル率いる蛮族軍団が攻め入って来る様子はない。飛んで火に入る夏の虫ほど簡単にはいかないのが残念だ。さすがシーラカンス。魚並みの知能はあるらしい。と。


 彼らを注視したまま、オリアナさんが訊いた。


「戦闘開始を宣言して攻めてこないのは……こちらの消耗を待っているのでしょうか?」

「奴らは本陣を構えていない。長期戦ではないだろう」


 アゾリアさんは殺意全開のまま返す――刹那。


 ごっ!


 施設上空を高速で通り過ぎる巨大な影。大きく旋回してアクセルの頭上で静止する――ばっさばっさと強靭な音色を奏でながら。それは真っ白な鱗の飛竜(ワイバーン)。 


吹雪の白飛竜(ホワイトドラゴン)だと!? どこでこんな怪物を――」


 アゾリアさんの驚きの声。

 慌ててはいなかったけど、冷静でもなかった。それを待っていたかのように、アクセルの豪快な笑声が吹き荒れる。


「がーっははははははははは! ちなみに雄だ! 男らしく(・・・・)皆殺しにしてしまえ!」

『ガアアアアアアアアア!』


 あのシーラカンスは不適切な言動なしに呼吸できないのかもしれない。

 それはさておき、僕たちの()から雪弾の吐息(アイス・ブレス)が降り注ぐ。


 どどどどど!


 距離があるから大した威力じゃないけど、固体だから確実に届く。そして白飛竜は大型クロスボウでも届かない距離にいるから撃ち放題――このままだと立ったまま雪だるまにされかねない。


「施設内に退避の後、阻む鉄壁(ウォール)を展開しろ!」

『はい!』


 アゾリアさんが施設への退避を命令すると、兵士たちは迎撃態勢を維持したまま素早く後退を始めた。

 僕も聖なる盾(ライト・シールド)で先生を守りながら後退する――それを見た白飛竜が高度を下げてきた。雪弾の威力も増していく。


(畳み掛けるつもりだ!)


 大型クロスボウはまだ射程外――その時。


 だだだん!


「オリアナ!?」

「空飛ぶトカゲなど叩き落として見せます!」


 施設の外壁を凄まじい速度で駆け上って行く白銀の影。オリアナさんだ。あっという間に屋上へとたどり着き、そこから跳躍して銀鋼糸の鞭(プラチナ・ウィップ)を振りかぶった。白銀の閃きが異様な伸びで白飛竜を狙う――


 ひゅん!


 残念ながらそれは回避されてしまった。


『ガァルルル!』


 白飛竜は旋回して体勢を立て直した後、敵意の視線をオリアナさんに向けた。オリアナさんも屋上に留まって銀鋼糸の鞭を構え、闘志を向け返す――


 どどどどど!


 口火を切ったのは雪弾の吐息(アイス・ブレス)の集中砲火。それを白銀の閃きが凄まじい速度で撃ち落としていく。と。


「血牙獣どもを放てぇい!」

『グオオオオオオオオオオオオオオ!』


 雪中に潜んでいたらしい赤い獣たちが雪を突き破って姿を現し、猛烈な勢いで斜面を駆け上り始めた。雪で減速している様子はまったくない。20頭くらいで、体重はどれも80kgはあるだろう。


「応戦だ!」

『はい!』


 オリアナさんが飛竜を抑えてくれているからか、アゾリアさんは施設前での戦闘を命令した。けど――


(人間が対応できる獣は体重30kgくらいまでと聞いたことがある……)


 いくら精鋭の兵士とはいっても、80kg超えの猛獣。おまけに雪上だ。苦戦は必至だろう。

 上階からの援護射撃を差し引いても、ライオンの檻に飛び込むようなもの――だから奇蹟(チート)を持つ僕もがんばらないと!


 がつん!


『ギャイン!?』

「癒希!?」

「比良坂さん!?」


 僕は兵士の肩をお借り(・・・)して高く跳躍し、急降下の勢いを乗せた一撃を先頭の血牙獣にお見舞いした。

 さらに飛びついてきた別の血牙獣をフルスイングで殴り倒す――群れは僕を半円状に包囲した。獰猛にして俊敏。場慣れした様子だ。人間相手の戦闘経験が豊富なんだろう。でも。


(僕だって獣相手の戦闘経験がゼロってわけじゃない)

 彼らは未経験者大歓迎かもしれないけど――お生憎様。


『グググオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

「防寒具になりたいヤツからかかってこい!」

 昨日の冒険――変異犬討伐の実績をがつん(・・・)と活かす時が来た!

お疲れさまでした。

毎週末更新の予定です。

よろしくお願いします。

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