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118話「勇者って貯金残高を気にしない職業じゃなかったかしら?」

外道勇者の末路はこんな感じでもまだ温い? 回です。

よろしくお願いします。

 大空洞である。その中央あたりには黒いフードとローブを着た女性。顔は見えない――ギルドから総力を挙げての抹殺依頼を下された邪悪な女魔術師。正体はこの大地の創造主である女神テラリディア。


「はあ……」


 そんな万能たる存在は地面を見下ろしながら、やれやれと嘆息した。視線の先には散乱した大小さまざまなサイズの水晶片。ガイが破壊した巨大水晶。その残骸である。つまりは不死の怪物(レムナント)製造機。


 この国に住む者たちから見れば諸悪の根源とも呼べる――件の女神は平和維持装置と呼んでいるが。それはさておき。


「……派手に壊してくれちゃってさぁ……これ創るのに結構なコストがかかったのに。ほら、直んなさい」


 女魔術師は屈みこんで水晶片のひとつを輝く指で突っついた。次いで、なにかを振り切るように勢いよく立ち上がる――刹那。


 がつん!


「痛い!?」


 頭上から降って来たなにかが彼女の頭頂部を直撃した。大地の理に従って地面に転がったそれ(・・)を涙目で睨みつけるゲス女神――ではなく女魔術師。


 彼女の視界の真ん中では、青い髪をつんつん(・・・・)にした男性が頭を押さえて地面を転げ回っており、すぐそばには丸い体型と細身の凸凹コンビが倒れ伏している。3人は上から降って来たのだろう――つまりは。


「犯人ね!?」


 そう叫ぶや否や、女魔術師は右脚を豪快に後ろへと振り上げた。青い髪をつんつんにした男に向かって全力で振り上げる。


 どっかん!


「おげええええええ!?」


 凄まじい速度で振り上げられた爪先は、運動の第二法則に則ってガイを勢いよく蹴り飛ばし、ゲッコとユシラを巻き込んで壁に打ち付ける――待ってましたとばかりに炸裂する運動量の法則。


 どがん!


「いてえ!? どけ!」

「ぐえでがす!?」

「うげっすねぇい!?」


 ゲッコとユシラを突き飛ばすように押しのけると、ガイは必殺の槍を杖代わりにして立ち上がった。涙が浮かんだ双眸で捉えたのは、あからさまに怪しい女魔術師。彼女の背後には先日、破壊したはずの巨大水晶が傷のひとつもなく鎮座している――


「なるほど、てめえが邪悪な女魔術師か! 生きてやがったんだな!?」

「死んだ覚えもないけどね!?」


 女魔術師は肩を怒らせて怒鳴り返すと、フードの奥で瞳を怒りに燃え上がらせた。全身からは凄まじい魔力を放つ――ガイがにやりと笑った。


「お前を殺して賞金をもらう。殺るぞ!」

「へ、へいでがす!」

「……へいっすねぇい!」


 空前絶後。女魔術師のそんな魔力を見たゲッコとユシラは腰が引けている。が、リーダーはガイである。それぞれの武器を拾って構えた。向けられた3つの殺気。女魔術師がフードの奥で、頬を邪悪に歪ませる。


「いきなり頭突きしてきた挙句に謝りもせずに武器を向けるなんて……この子たちのおやつにしてあげる!」

「やれるものなら――なんだと!?」

『オオオヨオオオオビイイイイイイイ!?』


 中指だけを立てた左手がガイに向けられた瞬間、巨大水晶の中から10体ほどの不死の怪物(レムナント)が飛び出して来た。地面に足を着けるや否や、獲物に向かって襲い掛かる――

 

「やっぱり本当の(・・・)真犯人だ! 殺せば有名人だぜえええ!」

「そ、そんなこと言ってる場合でがすか!?」

「こいつらは不死身なんですけどねぇえええい!?」


 ガイは嬉々として必殺の槍を構えたが、彼とは対照的にゲッコとユシラは動揺気味だった。

 そして不死の怪物たちは、端から端まで殺る気満点である――自称・勇者パーティーと不死の怪物たちの戦闘が始まった。


「おりゃあああああああああああああああ!」

『アアアアアクウウウイイイイイイイ!』

『イイイイイイナアアアアアゴオオオオオオオオオオ!』


 裂帛の気合と共に閃く必殺の槍が不死の怪物を次々と斬り裂き、時に突き(・・)裂いていく。が。


 ぎゅるぎゅる!


『ウウウウウウウサアアギイイイイイイ!』

『ギイイイイイイソオオオオオオオオオウウウウウ!』


 その度に彼らは高速で再生して襲い掛かる――


 きん!


「これでどうだ!」

『ガ――』


 必殺の槍が石化の奇蹟を振るったが、1体を石化させたところで状況は変わらない。


「ガイ! ちまちま石にしても追いつかねぇでがす!」

「しかも時間かかり過ぎで、こっちの負担がやばいっす! 超必殺の槍でずばっとできないんですかねぇい!?」

「あれは即死させらんねぇからこいつらには効かねぇんだよ!」

『それじゃ――』


 つまりは劣勢であり、それを覆す手段もないということである。ゲッコとユシラがほとんど同時に悲鳴を上げた。


「どうしようもないってことでがすか!?」

「やっぱ癒希じゃないとだめなんですねぇい!」

「うるっせえええ! 女を殺せばいいんだ! つべこべ言わずに戦いやがれ!」

「ひいいいいいでがす!」

「ひいいいいいっすねぇい!」


 悲痛なまでの正論は勇者()の激情によって退けられてしまい、ゲッコとユシラは勝利のない戦いを続ける羽目になった。さらに。


『ドオオオオオオウウウウモオオオオ!』

『ハアアアアアアアアアイイイイイイ!』


 巨大な水晶からは次々と新手が飛び出してくる。

 もはや多勢に無勢。そんな苦境で打ち倒した不死の怪物(レムナント)も、再生を終えては元気に立ち上がる――ガイたちには、ただそれを繰り返すことしかできない。地獄である。


 女魔術士を倒せれば確かに勝利かもしれないが、地平線の彼方にあるケーキを掴もうとするようなもの――つまりは不可能だった。このまま戦い続けるのなら、葬式の出前(・・)が必要になる。


「もう逃げるでがす!」

「賛成っすねぇい!」


 ゲッコとユシラは魔法の武器を構えたまま後ずさりして不死の怪物たちから距離を取った。が、ガイは必殺の槍で数体の不死の怪物を弾き飛ばした後、頭をぶんぶんと振った。


「勇者は逃げねぇんだ! 今まではオレが守ってやったんだから、今はオレのために死ね!」

『――!?』


 あまりの言い草にゲッコとユシラが絶句した。

 守ってやった――その表現は多少の語弊を含みつつも、事実ではあった。が、その程度の恩と自身の命を天秤にかければ、どちらに傾くかは言わずと知れるというものだろう。


 顔を真っ赤にして戦い続けるガイの背後で、ゲッコとユシラが困惑気味に顔を見合わせた――その時。


『ウウウウウウウウウウウウウウウウ!』


 巨大水晶の中から轟く恐ろしい唸り声。

 さらに数メートルはあろう脚が豪快に突き出す。そして。


 ずしん!


「なんだコイツはあああああああ!?」


 岩の地面をへこませて降り立ったのは、2本の足で立つ爬虫類。そんな姿の不死の怪物(レムナント)。体高は10メートル以上。頭部は、やはり人のものに酷似している。そこだけは譲れないポイントであるらしい。それはさておき。


『コオオオオオロオオオオオオオオオスウウウウウウウウウウ!』

「新種でがす!?」

「強そうだし、やばいっすねぇええええええい!」


 ゲッコとユシラが、これでもかと恐怖に顔を歪ませて叫ぶ――女魔術師は嗜虐心を刺激されたらしく、ばさりとフードを跳ねのけて邪悪に嗤った。それはそれは人知を超越した禍々しさで――


「ヒトの恐怖に歪んだ顔って素敵だわあああ♡」

「ななななななななななななんて恐ろしい女でがすうううううう!」

「新種よりもあっちの方がやばいっすねえええええええい!」

「凄艶とか畏怖って言いなさいよ!? この子にもぐもぐされたいならそうしてあげるけど!?」

『ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!』


 ゲッコとユシラは新記録な(・・・・)速度で逃げ出してしまった。ガイが慌てて声を張り上げる。が。


「逃げるな! 仲間だろ!?」


 ゲッコとユシラはその問いかけに答えを返す余裕もなく、大空洞から逃げ去った。

 余裕があったところで、どの(つら)(くち)でそれを――と怒鳴り返されるのが精々だっただろうが。それはさておき。


「あいつらあああ……!」


 ガイは全身を激怒に震わせた。額に浮き上がった血管は破裂しかねないほど張り詰めている――そんな彼に対して不死の怪物軍団がじわじわと距離を詰め始めた。


「オレは勇者だ! 1人でも勝てる! かかってこい!」


 顔をゆで上がったザリガニのように真っ赤にして、ガイは必殺の槍を構えた。が、不死の怪物たちは襲ってこない――代わりに女魔術師がうきうきとした様子で進み出てきた。表情までもが、うきうきである。


「で、見捨てられた気分は? 聞かせてくれると嬉しいな♡」

「うるせえええええ!」

「そういう怒声も哀れでとってもイイ感じ♪ す・て・き♡」


 彼女は淫靡なポーズでそう言い放つと、ガイに向けてひらひらと手を振った。

 もういいわ。そんな軽薄な仕草である。


「満足したから見逃してあげる♡ とっとと町に帰りなさい」

「んだとおおおおおおおおお!」


 軽薄な声で持ちかけられたのは、ガイの誇りを(けが)す泥にして、生還の切符。

 彼女を知る者であれば、千どころか()載一遇の超絶チャンスである。ゲームセンターのスロットゲームで例えるのなら、3×3のリールを埋め尽くすラッキーナンバー。


 あり得ない奇蹟――だが、ガイは必殺の槍を構えた。脳を焼く激情が圧倒的な劣勢も、相手の実力もなにもかもを失念させているのだろう。


「勇者ガイをなめるな!」

「勇敢と無謀のはき違えまで!? あんたみたいなお馬鹿って見てて飽きないわ♪」


 邪悪極まりない。その1歩上をいく邪悪。そんな笑顔で女魔術師が、にひっと笑う――ガイは心の底からの本音をぶち撒けた。


「てめえを殺せば大金持ちなんだからなぁあああああ! ここで逃げたらそれこそ大馬鹿だろうがあああああ!」

「……えっと、勇者って貯金残高を気にしない職業(クラス)じゃなかったかしら?」

「うるっせえよ! 貧相な乳のくせにさっきから上から目線でよおおおおおおお!」

『……』

「……」


 大空洞に不適切な激情が響き渡り、そして静寂が訪れた。

 誰も声を発しないというよりは、発することを許さない。そんな重苦しい雰囲気。不死の怪物たちでさえ、背筋を伸ばし、ぴたりと口を噤んでいる。


 口を開くことができるのはただ1人。超絶的な怒りに震える女魔術師――その正体はこの大地の創造主であるテラリディア。目の前のヒトを劫火(ごうか)の瞳で睨みつける。


「あ?」

「……」


 本当のことだろうが。ガイは言葉で返すことはできなかったが、表情でそう答えていた――

 核地雷。彼女のそれを回転ジャンプ(・・・・・・)で踏んづけたことには、まったく気付いていないようである。そして。


 ごごごごご……!


「本気で……本気で私を怒らせたわね……!」


 女魔術師――の()をかぶった女神――が溶岩すら蒸発しかねない獄炎をまとった。彼女の怒りはこの大地(せかい)の怒り。その激情は人の死を以てしても贖えない――贖うことなどできるはずがない。たとえ100万回の死を捧げたとしても。

 

「外見の特徴を突っつくなんて、ヒトとして最低! いえ、それ以下だわ! この失敗作が――! いい度胸してるわねええええええ!」


 悪魔の王が菓子折りを山ほど抱えてお詫びに伺うこと間違いなしの形相。その凄惨なまでの視線がガイに向けられた――次いで、万能の指先がぎらりと輝く。


 かっ!


(おせ)えよっ!」


 ガイは槍を地面に突き刺しての高速ステップで回避を試みたが、その輝きは光の速さ(ライト・メス)。槍で地面を突いた時、既に彼を貫いていた。


 ぽふん♡


 そしてどこまでも小馬鹿にしたような炸裂音と同時に、ガイはふざけた色の煙に包まれる――それが消え去った時、ガイは人間を8割ほど辞めさせられていた。


『…………』


 今の彼は、ぶよぶよした球状の胴体に昆虫の脚を4本ほど突き刺したような外見。頭部だけはガイのものに酷似している――不死の怪物(レムナント)


女神(わたし)の罰は必中なのよ。避けたいなら他の神様を呼んでくることね♡」


 女魔術師は出来映えに満足したのか、怪物に変じたガイを見てうっとりとした表情を浮かべた。そして。


「ヒトの敵はヒトってまさにこのことかしら♡ さ、平和のためにヒトを襲ってらっしゃい」

『ユウウウウウウウウシャアアアアアアアアア!』


 元人間の不死の怪物(レムナント)は町に向かって駆けていった。

 女魔術師はその後ろ姿を満足そうに眺めている――と。


 彼女は地面に転がっていた必殺の槍を手に取った。まじまじと見つめて疑問符を浮かべる。


「これってあいつ(・・・)不殺(ころさず)の槍よね? 遺体と一緒に埋葬されたはずなのに……」


 それから目をつむると槍をそっと耳に当てた。

 少ししてからうんざりとしたように嘆息する――


「……なるほど。あいつ(ガイ)の先祖が墓を暴いたのね。本当にヒトの敵はヒトだわ」

『……』


 女魔術師が必殺の槍を肩に置いて呻くと、不死の怪物(レムナント)たちは一斉にうんうんとうなずいた。


お疲れさまでした。

次回更新は明日の予定です。

よろしくお願いします。

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