117話「まあ、誰でも間違いますから……気にしてませんよ?」
真実が明るみに云々の回です。
よろしくお願いします。
冒険者ギルドである。
その受付の前にはピコンレオが超ご機嫌な様子で立っている。彼の正面には癒希。その左右にはペネロペとカリィ。
「うむ! うむうむ!」
ピコンレオは魔除けの護符を手に何度も大きくうなずくと、金貨でぱんぱんに膨らんだ革袋を癒希に手渡した。受け取った癒希の手が大きく沈み込む――かなりの重量。つまりは大金である。
「これは一部だ。残りは数日中に用意するからまた来るように」
「あ、ありがとうございます」
「期待していたまえ!」
癒希が声を上ずらせて返すと、ピコンレオはやはり超ご機嫌に声を張り上げた。さらに癒希の肩をべしべしと叩きながら、むはははは! と超ご機嫌に笑う。そんな超ご機嫌空間に向けられる嫌悪の視線。周囲の冒険者たち――ほぼ全員――のものである。
『……』
さらに何人かがギルド長閣下様の前であるにも関わらず、ぼそぼそと陰口を叩き始めた。と。
『おい、見ろよ』
『ああ……!』
酒場中の冒険者たちがざわめき始めた。彼らの視線はピコンレオの後方。階段の方に向けられていた。癒希もそちらに顔を向ける。そこには――
「マイさん!」
「癒希……」
頭に包帯をぐるぐる巻きにしたマイが松葉杖をついて立っていた。階段をゆっくりと降りてくる――
『これでよぉ……!』
『そうだな!』
冒険者たちの視線がなにかを期待するように熱を帯びた。その視線が集中した先にはマイ。彼女が癒希に見捨てられたと怒鳴り散らすことを熱望しているのだろう――マイは階段を下り切るや否や、松葉杖を放り捨てて癒希に向かって駆け出した。
『……!』
冒険者たちの視線が鍛造中の鋼のごとく赤熱する――マイが助走をつけて癒希の顔面を殴りつける瞬間を、あわよくば短剣の鋭い閃きを熱望して。だが。
「癒希!」
『――!?』
マイは熱烈に癒希へと飛びつくと、彼を強く抱きしめた。表情も熱い――癒希を押し倒して、あらぬ行為に及びそうな熱量である。癒希も歓喜の表情でマイを抱き締めた。
「意識が戻ったんですね!」
「ええ!」
抱き締め合う2人。感情を昂ぶらせたのか、マイは涙すら浮かべ、癒希を抱き締める強さを増した。軍人として鍛え抜かれた腕力が漲る。
めきめき!
「……!」
皮鎧が盛大に歪む。その圧力が癒希の背中に軋むような音を立てさせる。が、彼はなにかの意地で悲鳴をあげはしなかった。
そんな彼にペネロペとカリィが微笑む。
「……?」
噂と違う――ピコンレオは髭を指先でいじりながら疑問符を浮かべていた。そして。
『おい! そいつに見殺しにされたんじゃなかったのか!?』
『金でももらったのかよ!?』
酒場の冒険者たちが次々と怒声じみた疑問の声を投げかけた。
暴動に発展しかねない熱量――それに返されたのは、獄炎の大竜の灼熱の吐息よりも熱い怒声。表情は数倍も恐ろしい――
「そんなわけないでしょ!?」
『――!?』
業火のごとき咆哮は冒険者たちを一撃で全滅させた。
マイは過剰火力とばかりに続ける。
「この人は盾になってくれたのよ!」
『え!?』
困惑する冒険者たち。マイは鋭利な視線をテーブルからテーブルに次々と向けながら、誰かを探し始めた。両手には、いつの間にか魔法の短剣。激怒のためだろう。小刻みに震えている。
「ガイはどこ!? 爆破筒を石化させて放り込むなんて! くだらないことにだけ働く頭を滅多刺しにしてやるわ!」
『……』
真実。それは自身の行いを照らし出す輝き。
冒険者たちが顔を青ざめさせて一斉に俯く――それはマイがガルルル状態で酒場を見渡しているからというだけではなかった。
そして重苦しい沈黙が酒場を支配する――
「まあ、誰でも間違いますから……気にしてませんよ?」
癒希は――斥候のお姉さんの烈火のお怒りに冷や汗など浮かべつつ――肩をすくめて、その支配から酒場を解放した。
お疲れさまでした。
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