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116話「脳みそに穴でも開いてるんですか?」

外道勇者の取り巻きジ・エンド回です。

よろしくお願いします。

「おらおらおらぁ!」

「……」


 灰色に燃える槍影が幾度も閃く。超必殺の槍――長槍による連撃である。

 突きと引き戻しの速度がまったく同じ。そしてステップで(ゆき)との間隔を一定に保つことで反撃も封じている――修練の賜物。評価されて然るべき実力。それを鼻にかけているらしく、ガイが傲慢に嗤う。


「このオレと1対1(サシ)で決闘なんて100年早えよ、ちっこいの!」

「最初に挑んできたのそっちですよね。脳みそに穴でも開いてるんですか?」

「こんの野郎おおおおおおお!」


 年齢に鑑みれば、もう少し落ち着いて然るべきであるが――ガイは怒声を張り上げた。さらに顔を真っ赤にして長槍を全力で突き出す。


 ごっ!


「てめえのド(たま)にでかい穴くれてやるぁあ!」

「……」


 その切っ先に灯った石化の光を注視しつつ、癒希は冷静に身を躱した。心の中で分析結果を反芻(はんすう)する。


(勇者を自称するだけあって結構な強さだ。おまけに石化チート付きの武器……)


 それは金属製の長い槍。長さは重さ。長射程を誇る一方、重量もかなりのもののはずである――軽々と振るう筋力。使いこなす技術。さらに恵まれた体躯によるスタミナ。チート武器を除いても結構な(・・・)強さである。勇者という自称を周囲に納得させるには充分な説得力――だが。


(ガイさんは勇者なんかじゃない! 外道勇者だから弱点がある。それは(・・・)……!)


 再び突き出された長槍。癒希は上半身を反らしてそれを躱した。頭上を通り過ぎた長槍はぶおん! という風切り音だけを残して持ち主の元に引き戻された。つまりはガイの両手の中に。奇蹟の槍を構え直し、感情を逆撫でする声を投げつける。


「どうした? 攻撃しなきゃ勝てねぇぞ、ちっこいの!」


 次いで傲慢に嗤う――だが煽り(・・)は癒希の十八番である。

 そしてこの大地に叩き込まれてから成長したのは身体能力だけではない――少しだけオトナになった精神が、ガイの嘲笑を皮肉(シニカル)に打ち返す。


「そっちこそ無駄にぶんぶん(・・・・)してますけど、当てなければ僕は倒せません。そこのところ理解(わか)ってますか、でっかいの(・・・・・)?」

「わがっでらああああああああああああ!」


 ガイは制御不能なレベルで声帯を震わせると、右足で数歩分の距離を踏み込んだ。ブーツの底に全体重を掛け、右手だけで持った長槍を全力で突き出す――まさに超必殺の一撃(・・・・・・)。怒りに燃える双眸の先には癒希の顔。だが。


それは(・・・)性格の荒っぽさ!)


 仲間を率いて苦難に挑む勇者という職業(クラス)。それを名乗るには致命的な弱点。


 きいん!


聖なる盾(ライト・シールド)!」

「な――なんだ、そりゃ!?」


 限界まで深く踏み込み、さらに腕力全開。それらを以て繰り出された強威力の突きは斜めに構えられた盾の上を火花すら上げて滑り倒し、軌道をこれでもかと逸らされた。勇者にはあるまじき失態である。が。

 外道勇者だからむしろあり(・・)――今度は癒希が全力で最初の一歩を踏み出した。聖なる盾を構えたまま、ガイに向かって突撃する。


「ちっ!」


 ガイもうひゃあ(・・・・)と両手を挙げて驚きはせず、長槍を引き戻そうとした。が。


 がんっ!


「げ!?」


 三つ又の穂先は宙に置かれた(・・・・)聖なる盾に引っ掛かった――引っ掛けられてしまった。

 長槍を引く強さが災いし、外道勇者の体勢が大きく崩れる。長槍を掴んだ両手も思わず緩み、その()が戦杖によって強烈に打ち上げられた。


 がぎんっ!


 長さは重さ。バランスを崩されると瞬時に立て直すのは難しい――ガイは数歩もたたらを踏んだ。つまりは上を向かされている。


足元がお留守ですよウォッチ・ユア・ステップ!」

「てめ――!」


 その間に癒希は身を低くして一気に距離を詰めていた。

 長射程の武器は先手を取れるが、至近距離の敵には対応できない。対する戦杖は適度な重さでコンパクト。得意の射程(レンジ)で標的を、苛烈で熾烈で激烈に打ちのめす――


 べぎぃ!


「ぶげぇえ!?」


 ガイは顎を強打されて勇者にあるまじき悲鳴を上げた。彼の背後に回り込みつつ、癒希が戦杖を大上段から振り下ろす――!


 がぎぃん!


「傑作でしたかアターック!」

「ぎびょっ!?」


 意趣返し(うらみ)の重撃は、見事なまでのクリティカル・ストライク。ガイは長槍を取り落とし、崩れ落ちるように倒れ伏した。かなりの激痛であるらしく、後頭部を両手で押さえてうずくまる――そんな彼に中指だけを立てた左手が向けられた。その手の主は比良坂癒希。お怒りの火柱など背景に、冷たく見下ろす。


「100年経っちゃいました?」

「うぐぐぐ……!」


 それは純度100%の軽蔑の表情だった。

 ガイは地面から癒希を睨みつけたが、涙目では迫力も何もあったものではない――刹那。


「跳ねろ!」

「うっそでしょ!?」

『癒希!?』


 長槍が持ち主の言葉通りに跳ね上がり、その灰色に輝く穂先が癒希の頬をかすめた。

 指先ほどの小さな傷。だがそれは瞬時に石化し、さらに少しずつ広がっていく。放っておけば、数分のうちに癒希の頭部は完全に石へと変わるだろう。


「今すぐ殺す!」

「癒希を石になンてさせないンだから!」


 ペネロペは凶悪な形状の矢を番え、カリィの両手印にはおどろおどろしい色の魔力が灯る。が、立ち上がったガイは彼らに勝ち誇ったような顔を向けた。


「石化を解除できるのは槍の正統な持ち主であるオレだけだ! オレを殺したら癒希はちっこい(・・・・)石像になっちまうぜ!? ずっと永遠になぁ!」

「ならばどこまで痛みに耐えられるか試してやろう」

「ええ! 拷問でもなンでもやってやるわ!」


 ペネロペとカリィが表情と心に灼熱の闇を燃え滾らせる――だが。


 かっ!


「げ!?」

「で、誰が石になるんです?」


 殺意の場に一瞬の輝き。それが収まった時、癒希を侵食していた石化の奇蹟(チート)はきれいさっぱり消え去っていた。傷痕さえも見当たらない。なんなら、お肌(・・)はつるつるである――


『……!?』


 ペネロペとカリィが信じられないといった表情で硬直する。そして。


「解呪されたあああああああああ!? なんでだあああ!? どうしてだ!? お、オレのおおおおおおおおおお! オレの槍は必ず殺すううううう! 必ず殺す槍なんだああああああああああ!」


 なにやら極大のショックでも受けたらしく、ガイは両手で頭を抱えてひとしきり喚き散らした後、唇の端に泡すら浮かべて癒希に襲い掛かった。狂乱状態である――凶戦士と言えば聞こえはいいが、暴れかかるようなざま(・・)は駄々っ子のように見えた。そういうわけで。


 ばき! どか! がす!


 冷静な神官(せんし)に歯が立つはずもなく、戦杖によって見るも無残に返り討ちにされた。と。


「もう逃げるでがす!」

「あいつはもうだめっすねぇい!」


 ゲッコとユシラが縛られたまま、すたこらと逃げ出した。

 巨漢と細身は息をぴったりと合わせて、えっさほいさ(・・・・・・)と駆けていく。ペネロペとカリィが凸凹(でこぼこ)ランナーの背中に――半眼で――照準を合わせた。が。


「逃げるなああああああああああああああ!」

「げええええええええええ!?」


 ガイが四肢を大きく広げた状態――アメンボのような体勢で彼らに迫る。


「……」


 意外と速いのが割とホラー。癒希はそんなことを考えながら、地面で揉み合う3人に冷めた表情を向けた。戦杖をしっかりと握りながら――ふと左右を見やれば、ペネロペとカリィも胡乱な表情を向けている。

 そしてゲッコとユシラを縛っていた縄がばらりと解ける――


『死ねええええええええ!』


 奇襲に打って出た外道勇者とその取り巻きたち。

 揉み合いのどさくさにガイが縄を解いたのだろう――狂乱状態すら演技だったことを考えると、用意周到な奇襲である。が、見透かされていた上に、彼らは素手である。奇襲とは呼べない。

 準備万端で無慈悲な反撃が繰り出された。


 どどどす!


 3本の石弾の矢が唸りを上げて3人の額をそれぞれ痛打し、動きを止めた。さらに。


 どがん!


 高く跳んでいたらしい癒希。彼の戦杖が唸りを上げて3人の後頭部をまとめて殴打して、地面に叩き伏せた。最後に唸ったのは見えない力。


「|風の蛇よ、なンかもう適当に捨てちゃって《セルペンス・ウェンティー、ヤム・ウトクムクウェ・アビケ》!」

『ぎゃあああああああああああああ!?』


 外道勇者とその取り巻きたちは見えない大蛇によって、空洞の――適当な――崖下に放り捨てられた。

 忠誠心なのか盗難防止の術でも施されていたのか、彼らの魔法の武具(マジック・ウェポン)も崖の下へと飛んでいく――癒希たちはそちらに半眼を向けた。最初に口を開いたのはペネロペ。


「大した深さじゃないから死にはしない」

「まあ、深くても放っておきますけど」

「そんなこと言っちゃうあなたと、すっごく気が合いそうな気がする今日この頃♡」

「……明日(あす)からの化粧は一段と濃くなりそうだ」


 癒希とカリィが続く――オチは囁くように小さく、そして皮肉げ。だがどこか楽しげな声だった。

お疲れさまでした。

次回更新は明日(26年04月05日)の19時頃の予定です。

よろしくお願いします。

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