115話 「血筋って腐るんですねぇ…………」
外道勇者の取り巻きが返り討ちにあう回の後半です。
よろしくお願いします。
「いい女だなアアアアア!」
「とっ捕まえてやるよおおお!」
ならず者たちはカリィに向かって全速力で突撃していた。表情は先ほどまでよりも、かなりゲスい――そんな彼らを迎え撃つのは、残忍で挑発的な笑みだった。精霊術師のカリィは、なにやら感情を昂らせているようである。
「女の敵なら手加減とか要らないわね♪」
洗練された動作で両手印を組み、そこに魔力を送り込む。片腕を失ってから渇望し、何度夢に見たか知れない感覚。それが全身を駆け巡り、妙齢の精霊術師が――癒希に聞かせてはいけない――嬌声を張り上げる。
「とってもイイわあああああ♡ 獄炎の大竜よ、いらっしゃあああい♡」
次の瞬間、カリィの足元に巨大な竜の頭がにょきりと生えた。
そして彼女を頭部に頂いたまま地面を突き破って起き上がる――ついでに吼える。
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!』
「ど、竜だとおおおおおおおおお!?」
「名前はファリアリア。あンたらが大好きな女の子♡」
「全然ちがううううううううううううううううううううう!」
「失礼ね。じゃ、失礼で女の敵なこいつらに元気な挨拶を一発よろしく♡」
『ガルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「ぎゃあああああああああああああ!?」
爆炎のブレスはならず者たちのやや手前で炸裂し、彼らをまとめてぶっ飛ばした――と。
「うっしゃあああっすねぇい!」
「……ふーン」
カリィの頭上に殺気。見上げるとユシラが空洞の天井を蹴って急降下してくるところだった。彼の右手の拳刃が螺旋状の風をまとい、きゅいいいん、という耳障りな音を立てる。
「考えなしの馬鹿がどうなるか教えてやるっすねぇえええい!」
『……』
削岩機のような切っ先がカリィに迫る。が、頭部に彼女を載せた獄炎の大竜は上を向くことができない――
がしゅ!
刃拳は深々と突き刺さった。
カリィの足元から突き出した石造りの右腕に。その腕の主が、カリィの影から勢いよく飛び出してきた。
それ――否、彼女は身の丈2メートル超の石の守護兵だった。やや細身で、マネキンのように洗練された体型。女性を模した型なのだろう。が、主の願望を反映したのか、右腕だけが強固な造りになっている。そういうわけで握力も強力である。
ごき!
「いでえええええええっすねぇい!?」
人外の握力で拳刃ごと拳を捕らえられ、ユシラは逃げることができない――カリィの双眸が愉悦に歪む。
「一流の精霊術師に考えなしに近づいたお馬鹿がどうなるかを教えてあげる。あげちゃって♡」
『ハイ、マスター』
「しっかりと根に持ってるっすねええええええええい!?」
ユシラは筋力を総動員して逃れようとしているが、石の守護兵の腕はぴくりとも動かない――その間に彼女の関節部から蒸気が吹き出し始めた。まるで力を開放するかのように。
そしてユシラを捉えたのは無機質でありながら、どこか感情的な瞳。要は無慈悲で嗜虐的な瞳――
『考エハ、オアリデスカ?』
「謝るから! さっきのはちょっと不適切だったすねえええええええええええええええい!?」
『ナイノナラ、ココデ終ワリデス』
無慈悲で嗜虐的な瞳は哀願じみた謝罪に欠片も応じず――左の拳も無慈悲に振り上げられる。
ごぎんっ!
「ぽげ!?」
ユシラはとんでもない速度で奈落の天井に頭から突き刺さった。
彼を見上げるカリィと彼女の従者は揃って両手を腰に置き、これでもかと胸を張る。さらに大きく息を吸い込んだ。
「あーっははははははは♡」
『アーッハハハハハハハ♡』
力なくぶらぶらと揺れるユシラに対し、極めて嗜虐的な笑声がダブルで浴びせかけられた。
・
・
「逃げろおおおおおおおおおおおお!」
「やってられっかよおおおおおおおおお!」
ならず者たちはペネロペたちに襲いかかったときの3割増しの速度で空洞の出口である急斜面に向かっていた。
その途中、癒希と戦闘中のガイの脇を盛大な土埃すら巻き上げて駆け抜けていく。
「待てよ、お前ら! 金は払っただろ!?」
「待たねぇよ、馬鹿!」
「雑魚どころか化け物じゃねぇか!?」
「端金でこんな目に遭わせやがってよおおおおお! 覚えてろ!」
ガイは戦杖を受け止めた状態で制止の声を張り上げたが、返されたのは罵倒の数々だった。ずどどどどど! というけたたましい音が続き――ならず者は1人残らず空洞からいなくなった。
そして訪れた静寂。それを楽しげな声が打ち破る。
「ざまぁ」
「て・めえええええええええ!?」
ガイは茹で上がったザリガニのごとく顔面を真っ赤にして激怒の咆哮を張り上げた――と。
どさ!
「グヘでがす!?」
「ゲヒャっすねぇい!?」
彼の脇に人間大のなにかが放り投げられた。縄で一緒くたに拘束されたゲッコとユシラである。
どちらもかっ飛ばされたようにぼろぼろであるが、致命的な怪我はなさそうだった。が、癒希の少し後ろにペネロペとカリィが戦闘態勢で立っている。ガイにとっては致命的としか言いようがない。
ぎん!
「こ、この野郎!」
彼は癒希を押し返すと、震える人差し指をペネロペとカリィの方に向けた。唇まで震わせながら言葉を紡ぐ。
「さ、3対1はきたねぇだろうがぁあああ!」
「どうにもならんな、こいつの頭は」
「治療には奇蹟が必要よねぇ……」
ペネロペとカリィは呆れを成層圏までぶっちぎった様子で肩を竦める――そして。
「シンプルな頭だから打撃で治るかもしれません。手出し無用です!」
「あんだとおおおおおおお!?」
癒希はガイに飛び掛かるや否や戦杖で――シンプルな――頭を狙った。それを受け止める必殺の槍。だが癒希も戦杖も止まらない。
がん! きん! が!
「……君に任せる」
「ええ。がつんと治してあげちゃって」
癒希の心情を察したらしく、ペネロペとカリィが加勢する様子はない――
「任せてください!」
「調子にのってんじゃねえ! 卑怯もんがあああああ!」
膝を狙った一撃を後方に大きく跳んで避け、ガイが必殺の槍を水平に構えた。数秒も意識を集中した後、両目を見開いて叫ぶ。
かっ!
「超必殺モード!」
一瞬の閃光。それが収まった時、必殺の槍は長さを大きく増していた。対騎馬長槍並みである。その穂先には、よりによって灰色の光――石化の力が灯されていた。
「これが必殺の槍の真の姿! 名付けて超必殺の槍だ!」
「勇者級のダサさ。それに関しては奇蹟も匙を投げるでしょうね」
「超カッコいいだろうが!?」
超級の長さを誇る槍による素早い突きが灰色に閃く。
がぎん!
癒希は戦杖で軌道を逸らしたが、射程に差があり過ぎるため、反撃はできなかった。
そして大きく距離を取る――頬には冷や汗。さきほどのガイの突きが神速だったわけではない。
(今の感覚……あの槍はチート武器だ! ということは……)
ガイの祖先が癒希のクラスメイトなのだろう。勇者の血筋という表現も間違ってはいない。が、ここまで卑怯で下劣な真似をしてくるクラスメイトに心当たりがないようである――
「血筋って腐るんですねぇ…………」
「しみじみと呆れてんじゃねえよおおお!?」
勇者の血を引く腐れ外道は超必殺の槍を高速で回転させながら、金切り声を張り上げた。
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