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114話「マイさんを病院送りにした腐れ外道をぶっ飛ばすのがダルいわけないでしょう!」

外道勇者の取り巻きが返り討ちにあう回の前半です。

よろしくお願いします。

 20人超の武装集団が駆ける音は喧騒となって空洞を震わせた。

 その先頭を走っているのは青い髪をつんつん(・・・・)にした外道勇者。ガイである。


ちっこいの(・・・・・)は俺がバラす!」

「はいでがす!」

「はいっすねぇい!」

 ガイが唇を挑発的に歪ませて叫ぶと、ゲッコとユシラはならず者の半数を率いて、それぞれペネロペとカリィに向かった。単騎となったガイは駆ける速度を大幅に増し、必殺の槍を癒希に振り下ろす――

 

 ぎん!


 火花すら散る重い一撃。それは戦杖に受け止められた。が、予想通りだったらしく、ガイは笑みを崩さなかった。素早く槍を引き戻し、さらに全身を独楽のように回転させる。


 ぎぎぎぎん!


「ひーはあああああ!」

 恵まれた膂力と槍の遠心力が合わさった驚異的な乱撃。癒希は大きく跳び退ってその破壊圏内から脱した。

 槍が届かない距離。安全圏――だが。


 ざすっ!


「ひょおおおおう!」

「ザリガニのくせに前に跳ばないでください!」

 ガイは背後の地面に槍を突き立て、その反動で瞬時に距離を詰めた。安全圏は瞬く間に失われ、今は命を奪う危険地帯(アニヒレイト・レンジ)


 がぎん!


「ほう!? 俺の高速突きを良く受け止めたな!」

「今のが高速なんて片腹痛いですけど!」

「けっ!」

 癒希は見下すような視線と言葉を軽口で撃ち落とした――次の瞬間、槍が水平に薙ぎ払われ、数歩も弾き飛ばされてしまった。体勢を立て直しつつ見やれば、ガイは不機嫌そうな顔で槍をひゅんひゅんと回転させている。その切っ先がぴたりと癒希に向けられた。


「1対1の決闘だ! ありがたく思え!」

「お仲間の山を引き連れておいて決闘? これは義務教育をすっ飛ばした感じですね」

「ああああん!? 1対1には違いねぇだろうが!」

「そこスキップ――いや、もういいです」

「決闘してもらってる分際でダルそうなツラしてんじゃねぇよおおおお!?」

「これは呆れです。マイさんを病院送りにした腐れ外道をぶっ飛ばすのがダルいわけないでしょう!」

 自称・高速突きは激怒の戦杖によって真正面から打ち落とされた。

『次に目を開けたときは治癒(なお)っているかもしれない』

 そんな奇蹟を願って眠りについた夜。目が覚めても結局、朝陽は白く濁ったままだった。

 次こそは――希望をもって迎えた幾度もの朝。それが叶うことはなく、白く濁った視界には、かつての仲間が背を向けて去っていく姿だけが鮮明に映し出される。そんな絶望と霧中の(せい)

 だが奇蹟はもたらされた。小柄な少年。癒希によって――


「殺せええええええええええ!」

「死ねええええええええええ!」

「……」

 ペネロペは土煙を巻き上げて突っ込んでくるならず者たちに視線を向けた。

 彼らの手には剣や斧などの近接武器が握られている。矢への対策のためか鎧も厚い。致命傷を与えるには相当な技術がいるだろう。つまり視力を取り戻したペネロペにとってはウサギさん(・・・・・)の群れと大差ない。


「ずいぶんと舐められたものだ」

 “疾風の”ペネロペは皮肉げに苦笑すると、次いで10本ほどの矢をまとめて手に取った。

 そして標的の群れ(・・)を捉える――取り戻したばかりの澄んだ視界。それは夢にまで見た透明な光。

 ペネロペの血が沸き、肉が躍る。それは恍惚でも陶酔でもなく、真に信頼できる仲間(とも)のために自身の力を振るう喜び。やる気というものだった。この状況では殺る気とも言える。が。


「……彼は無用な殺しを嫌うのだろうな」

 一流の射手の、一瞬の微笑み。

 だがめらめらと燃え滾るやる気(・・・)をしっかりと装填して――放つ!


 ひゅひゅひゅん!


 超人的な速度で形成された矢の波がならず者たちに襲い掛かる。そして。


「いでえ!?」

「げええええ!?」

 彼らは足や膝を中心とした下半身を次々と射抜かれ、まとめて冷たい地面に転倒した。追撃の恐怖に歪んだ顔が一斉に皮肉気な射手へと向けられる。


「どどどんだけ速いんだよ、こいつ!?」

「雑魚じゃなかったのかよおおお!? 話が(ちげ)ぇぞおおおお!」

「依頼に齟齬があったようだが、その話は他でしろ」

「ひいいいいいいいいいい!?」

 向け返されたのは、皮肉気な笑みと追撃(とどめ)の矢――だが。


 どどどどど!


 ペネロペに急接近する巨大な影。ゲッコだった。

 ならず者たちを先に行かせ、自分は岩陰でペネロペの力を推し量っていたのだろう。


「邪魔でがすうううううううううう」

「いてえ!?」

「うげっ!?」

 倒れ伏したならず者たちを踏みつけながら、細身の弓使いに襲いかかる巨漢の戦士。両手で握った大槌は赤い光を帯びている。仲間を射抜かれて激怒――というわけではなさそうだった。


「……ふむ?」

 ペネロペはやや怪訝な表情で数本の矢を放った。が。


 かかかん!


 それらはゲッコを包み込んでいるらしい不可視の壁に弾かれてどこかへ飛んでいった。


「残念だったでがすねえええ!」

やはり(・・・)不可視の障壁か。突撃馬鹿にはぴったりだな」

「ただの弓しかもたない弓兵など敵ではないでがす! 魔法の武具(マジック・ウェポン)くらい買うべきだったでがすねええええええええ!」

「さて……本当にそうかな?」

 皮肉気に言いながら、ペネロペはただの(・・・)弓を下ろした。そして、ふっと軽く笑う。

 余裕綽々。そんな態度を見たゲッコがぶしゅううう! と豪快に鼻を鳴らした。駆ける速度もさらに増す。


 ずどどどどど!


「舐め腐ったその顔を叩き潰してやるでがすぅうううううう!」

 そしてペネロペの目前で大槌を振り上げる――刹那。


 どしゅどしゅ!


「えげっ!?」

 彼の両膝の真裏(・・)にそれぞれ矢が突き刺さった。跳弾ならぬ跳矢。

 さきほど不可視の壁に放たれた矢が、ならず者の鎧や岩を経由して命中したのだろう。3Dビリヤードのプロも真っ青である。そんな競技があるのなら。

 それはさておき、ゲッコは大槌を振り上げた勢いで仰向けに倒れ、さらに痛みで転げ回り始めた。


 ごろごろごろ!


(いて)ぇでがすうううううううううううう!?」

「なにをするにも騒がしい奴だな」

 そんな彼を見下ろすペネロペは冷ややかである――数秒も転げ回った後、ゲッコは尻もちをついた体勢でペネロペに訊いた。


「なぜ()がばれたのでがす!?」

「土埃の流れだ」

「はあああああああああああああああでがす!?」

 不可視の障壁とはいえ、気流はしっかりと影響される。それに沿って流れる土埃の動きで障壁の穴を見つけたということだろう。もはや目が良い(・・・・)などというレベルではない。


「そんなもんが見えるはずねぇでがす!」

「だが見えるのだから仕方あるまい」

 ペネロペは、いまだ立ち上がることができないゲッコに向かってやれやれといった表情で矢を番えた。ばちばちと火花を散らす爆破の矢を――


「まさかそれはああああああああああああああでがすううう!?」

「これはお前にぴったりの矢だ」

「ぎ――!?」

 ずがどん! という騒がしい爆発がゲッコを盛大にぶっ飛ばした(・・・・・・)

お疲れさまでした。

次回更新は明日(26年03月29日)の予定です。

よろしくお願いします。

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