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112話「ファッ〇はこういう時にこそ使うべき言葉だった」

誰かこいつの頭をバトルアクスでぶん殴れ♪ な回です。

よろしくお願いします。

 この国は魔法の武具(マジック・アイテム)の原料になる鉱物を巡っての内戦で、散々な時代があったらしい。

 とある勇者がどうにか平和をもたらしたけど、その鉱物が存在する限りは何度でも争いが起きるだろう。


「だからこの諸悪の根源と対極に在る私が恒久的な平和のために、一肌脱いであげちゃったの♡」

「……」


 それが廃坑より現れし者(レムナント)と呼ばれる不死の怪物たちだ。

 適当な敵を創り上げて人々を団結させる――どこかで聞いたことのある手法だけど、結果的に平和は維持されているんだから野暮な指摘はしないでおこう。


 ちなみに廃坑より現れし者(レムナント)が人に似た頭部をもっているのは恐怖を増すためのものであって、嫌がらせの類ではないらしい――ドゲス女神の性格からして、嫌がらせの意図が7割のはずだ。

 そして僕だけが彼らを殺すことができた理由も教えてくれた。


「あんたはこの大地の人間じゃないからよ」


 誰にも倒せない(・・・・・・・)怪物はゲームで言うところのコストが高く、やってられないとのことだった。

 この大地の人間は(・・・・・・・・)倒すことができない。それで充分だと考えたらしい。

 スマートフォンに防水は必要だけど、防爆は要らない。そんな理屈なんだろう。


「で、あんたが可愛い不死の怪物(あのこ)たちをボコボコしまくると、また内戦の時代に突入しちゃうってこと。だ・か・ら♡」


 とっととティアラ神国に戻るよう指示に来たらしい。


「……それなら夢とかで伝えてくれれば良かったんじゃないですか?」

不死の怪物(あのこ)たちを再生産する必要があったし、それに……」


 ドゲス女神は肩をすくめてそう言うと、それから人差し指で自身の頬を軽く突きながら悪戯っぽいポーズをとった。


「あんたをおちょくりたかったっていう純粋なこの思い♡」

くたばれ(・・・・)というこの純粋な思いはどこに投げつければいいですか?」

「うふふふふ♡」


 割と真剣に睨みつけたけど、ドゲス女神は豪華絢爛(・・・・)な笑みを返してきただけ――ファッ〇はこういう時にこそ使うべき言葉だった。


 それはさておき、僕の存在がこの国の平和を乱してしまうというのなら、ギルド長がおかしな盛り上がり方をする前に帰国した方がいいだろう。でも。


(このまま素直に帰るつもりはない!)


 女神に一矢か二矢(・・)を報いないと、帰りの馬車でお弁当を美味しく食べられそうにない――僕はにこりと微笑んだ。


「わかりました。今までの色々(・・)はなかったことにしましょう」

「癒希ったら♡ あんたの素直なところが割と好き♡」


 ドゲス女神は歓喜のポーズでぴょんと跳び上がると、着地する時には大悪魔の姿になっていた。

 その直後に時間停止は解除され、時間がゆっくりと動き始める――その最中(さなか)大悪魔(めがみ)はご機嫌に今後の手順を説明してくれた。そして。


「じゃ、そういうことで♡」

「ええ。そういうことで」


 僕は心の中でにやりと笑った。

『癒希!?』


 起き上がるや否や、ペネロペさんとカリィさんが同時に叫んできた。

 2人の視線が集束した先には、両手を上げて降参のポーズをとった大悪魔。彼女に戦杖を突きつけたまま、僕は微笑みを返した。


「話がついたので、もう大丈夫ですよ」

『は、話……?』


 やっぱり同時に訊いてくる2人。息がぴったり。確かにお似合いの2人だ。

 それはさておき、大悪魔がわざとらしい声を張り上げる。


「もう悪いことしないって誓うから助けてー! お願い♡」

『……』


 2人はほとんど同時に胡乱な表情になった。息が合いまくっている。もう結婚ルートに乗っているのでは?


「じゃ、そういうことで♡」


 そんな視線なんかには欠片も動じず、大悪魔はひらひらと手を振りながら僕たちに背を向けた。けど、ハンカチを振って見送るわけにはいかない。いきませんよ、絶対に。


「えっと! 今までの色々をなかったことにしてくれるんですよね?」

「え?」


 大悪魔は立ち止まると、顔だけで振り向いてきた。きょとんとした表情だ。

 僕は仲間たちの元にそそくさと駆け寄ると、背後から彼らの肩を抱いて満面の笑みで続ける。


「ですから、色々を(・・・)なかったことにしてくれるんですよね?」

「…………はあああああ!?」


 わずかな黙考の後、彼女はお怒り気味の声を張り上げた。

 僕が言わんとしていることを察してくれたんだろう――つまりはペネロペさんとカリィさんの負傷(いろいろ)を完全に治癒(なかっ)たことにしてください。さっきの同意は僕にとっては(・・・・・・)そういう意味だ。


 詳細を詰めなかった彼女が悪い――完全に詐欺の論法だ。矢木咬先生に聞かれたら怒られてしまうかもしれないけど、このドゲス女神にだけはきっちりと報いておきたい。


(彼女は地上の人々を直接的に救うなんて、甘やかしだから絶対にやらないと言っていた)


 本来なら僕もそれを尊重するけど、あれだけこれだけ(・・・・・・・・)痛めつけられた今は別だ。

 絶対に嫌そうな顔をさせてみせる――僕はペネロペさんとカリィさんから見えない位置で小さく舌を出した。


「この……!」


 それを見たドゲス女神は一杯食わされたとわかったらしく、とても嫌そうな顔をした。

 僕は他人の不幸でご飯をお替りするタイプじゃないはずなのに、すっげー(・・・・)癒されるのはなんでだろう。彼女の表情をこのまま3年くらい見ていたい――と。


「……わかったわよ」


 大悪魔は不承不承といった様子でうなずいた。

 癒希(ぼく)ができることを肩代わりするだけとか、そんな感じで納得した様子だ。そういうわけで。


 きん!


 眩い光が僕たちを包み込み、その光が消え去った時、さっきまでの激痛――主に背中――はきれいさっぱり消えていた。


「み――見える!? 完全に見えるぞ! 霧が晴れたようにくっきりと――!?」

「私は腕が生えたンだけど!? 契約に差し出した左腕まで――え、なにこれ奇蹟!?」


 もちろん、ペネロペさんとカリィさんの負傷も一切合切、完璧に癒されたはずだ。

 カリィさんは左腕を悪魔っぽい存在に差し出したらしいけど、ドゲス女神なら取り返すのも簡単だったに違いない。


(……僕まで治してくれるなんて、ちょっと意外。ほんの少しだけ見直した)


 ()は取り去って、今まで通りにゲス女神と呼ぶことにしよう。

 それはさておき、討伐の証拠品をもらわないと――僕は大悪魔の尻尾を引っ張った。


 ぐい!


「これもらいますね?」

「取り外しできないタイプのやつだから! ていうか、あんた凄いことしようとしてない!?」

「えっと、はさみとか持ってます?」

「短剣なら持ってはいるが……」

「ざくっといく気? ちょっと……ね?」


 僕が訊くと、ペネロペさんとカリィさんは戸惑った様子で顔を見合わせた。

 モンスターを狩猟(ハント)する職業を気取るつもりはないけど、もらうべきものをもらうために必要なんだから悪魔の尻尾くらい剥ぎ取っても許されるだろう――僕は尻尾をさらに強く引っ張った。


 ぐぐい!


「とても痛い!?」

「これがないと報酬(おかね)もらえないので」

「淡々と生々しいこと言ってんじゃないわよ!? 離しなさい!」


 大悪魔は尻尾を振って僕の手を振り払うと、それから――控え目な胸元に――手を突っ込んでごそごそとし始めた。取り出したのは燐光を放つ宝珠。手のひらサイズだけど、祈りたくなるほど神々しい。


「悪い存在を超強力に遠ざけてくれるものよ。これが充分な証明になるわ」


 要は魔除け(アミュレット)だ。でも。


「胡散臭いにも程がある」

「悪魔から魔除けを貰ってもリアクションに困っちゃうのよね」

「……あんたら本当にお似合いだわ。じゃ、そういうことで」


 胡乱な表情で言った後、大悪魔は溶けるように虚空へと消えた。その直後。


 おおおおおおおおぉ……!


 奈落に充満していた恐ろしい気配は断末魔を上げるように霧散し、僕は安堵のため息をついた――と。


「癒希」

「ゆ・き♡」


 ペネロペさんとカリィさんが笑顔で握手を求めてきた。彼らの笑みからは、奈落の闇や人生の絶望に塗りつぶされることのない輝き。絆。

 そんな尊いものが感じられる――僕は彼らの手を両手で握って応えた。伝わってくる温かさに目頭が熱くなる。


(人間の敵は人間。だけど……)


 心の中で続けようとした――その時、僕たちが下って来た急斜面の方からたくさんの気配がなだれ込んで来た。その中のいくつかは僕がよく知ったものだった。


「よお! そこのちっこいの(・・・・・)!」

「……」


 つまりは勇者を自称するガイさんのファッ〇な気配。


お疲れさまでした。

次回更新は3月21日の予定です。

よろしくお願いします。

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