110話「行きます! 援護を!」
ざまぁ?への助走から足を踏み切り、滞空中の回。その2です。
よろしくお願いします。
奈落の坂道は前回の時と変わらず、とても急だ。それを慎重に下りながら見回せば、壁面に青白く光る鉱物が点在しているおかげで相変わらずの松明いらず。でも。
(確かに雰囲気が狂っている……)
冷たい手で体内を弄られているような感覚がある。ピコンレオさんが言っていた恐ろしい気配がこれなんだろう。
この奈落の廃坑より現れし者は全滅させたはずだから、警戒すべきは例の女魔術師だけのはず――だったのに!
『タアアアアアアヌウウウウウウキイイイイイイイイイイイ!』
「来るぞ!」
「残念ですけど、そのようですね!」
「お姉さンに任せなさい!」
坂を下り終えた途端、聞き覚えのある叫び声が空洞に響き渡った。
見上げると、天井のひび割れから10体くらいのレムナントがところてんみたいに、にゅるりと飛び出してきた。ぎざぎざな牙がずらりと並んだ顎を大きく開き、一斉に着地する――
べじゃべしゃべしゃべしゃ!
着地じゃなくて落下だった。
天井から地面までは結構な高さがある。自由落下とはいえ、その勢いで頭から叩きつけられたら人間なら担架で搬送ものだ。不死身の怪物たちも立ち上がる様子は微塵もない。
僕たちはそんな彼らを半眼で見つめている。生放送中に放送禁止用語を叫ばれてしまったような空気だ。なかなかに気まずい。しばし。
『……』
レムナントたちはやっと立ち上がった。それなりに負傷していて、出血部分は主に鼻。つまり鼻血だ。
ぎゅるぎゅる!
それも含めてあっという間に再生していく――驚異的だけど、不死性の表現としては情けないにもほどがある。もはや笑劇にしか見えない。石油缶でも降ってきたら、きっと笑ってしまう。
そして彼らも登場の出を盛大にしくじったことを認識しているらしく、気まずそうな顔をしている。
「……無理するから」
「のそのそと降りては間がもたないとでも考えたのだろう」
「気を使ったつもりなのね。逆効果だったけど」
『フニュウゥゥゥ……』
なんか物悲しい声で鳴き始めた。さすがにちょっといたたまれないから、僕は大きく息を吸いこんだ。
レムナントたちに――割とどうでもいい――救いをもたらすために。
「殲滅したはずなのに!?」
「もう一度殲滅すればいい!」
「そうよ! やっちゃうンだから!」
ペネロペさんとカリィさんものってくれた。とてもいい人たちだ。
そういうわけで、僕たちは気を取り直して戦闘態勢をとった――直後、レムナントたちが密集隊形で突っ込んできた。とても嬉しそうな表情で。
『ソオオオオオオオオオオレエエエエエエナアアアアアアアア!』
「それがどれのことだか、まったくわからん」
ペネロペさんが胡乱な視線で短弓の狙いをつける――
ひゅひゅひゅん!
複数の矢がほとんど同時に空を切る。
それらは先頭を走るレムナントたちの膝を正確に撃ち抜き、彼らは前転気味に倒れ込んだ。後続はそれに足をとられて盛大に転倒する――これも笑劇みたいだ。
駄目だこりゃとでも言ってあげるべきなんだろうか。それはさておき。
「氷よ、妨げなさい!」
『アアアアアアベエエエエエシイイイイイイイイ!?』
カリィさんの氷の精霊魔法が降り注ぎ、レムナントたちを地面に縫いつけた。2人とも足止めに専念してくれている――とどめは僕の仕事だ。次いってみよう!
がぎん! がす! べき!
僕は身動きが取れないレムナントを次々と灰に還していき、そしてあっという間に全滅させた。
反撃されることもなかったから無傷だけど、少しだけ汗をかいている。僕は手の甲で額を拭った――と。
「本当にレムナントどもを殺せるとはな……」
「ちょっと本気でびっくりって感じよねぇ」
すぐ後ろでペネロペさんとカリィさんが信じられないといった様子で言葉を震わせた。
僕は彼らに振り向こうと――したその時。
「うっ!?」
体内を弄られているような感覚が急激に強くなった。
スマホゲームのガチャですり抜けた鬱憤をストレスボールで発散させる時みたいな強さだ。不快で気持ちの悪い感覚。冷たい汗がどっと吹き出す――ペネロペさんとカリィさんも辛そうだ。
そんな僕たちの視線の先にいるのは邪悪な女魔術師だった。黒いフードとローブで顔は見えない。ピコンレオさんが言った通りだ。でも邪悪なという部分は正確じゃなかった。
「邪悪極まりない女魔術師……!」
掛け値なしの言葉が心の底から突いて出る。
それが模範解答よとでも言うように、フードから覗く唇が邪悪極まりない笑みを形作った――次の瞬間。
どどどどどど!
「カリィ!」
「わかってンのよ! 岩よ、撃ち払いなさい!」
黒い光弾がガトリングガンのように乱射され、それをカリィさんの精霊魔術が迎撃する――
どかん!
とても分かりやすい爆発音。迎撃は成功したに違いない。それなら今度はこっちの番だ!
「行きます! 援護を!」
「ばっちり援護しちゃうンだから!」
僕は気配を断ち、いまだ漂う爆煙に紛れて素早く駆けた。
魔術師なら接近戦に弱いなんてテンプレートを信じ切っているわけではないけど、石を投げて応戦するよりは戦杖を駆使した方が効率的だろう――けど。
「うふふふふ♡」
女魔術師はふわりと宙に浮くと、天井に向かって素早く逃れようと――カリィさんが素早く魔術を編み上げる。
でも誰よりも素早かったのは“疾風の”ペネロペさんだった。
ひゅん!
「あれ?」
「飛ぶならなぜ降りてきた?」
女魔術師のすぐ近くで皮肉気に言い放ちながら、短弓の弦を響かせる。
ざしゅ!
「あれえええええ!?」
次の瞬間、近距離で放たれた矢が黒いローブを貫いた。長い鋼線が結ばれているらしく、ペネロペさんは全体重を乗せてそれを引っ張り、僕も彼に続いて引っ張った。そして。
どさ!
「重力って意外と痛いのね!?」
女魔術師は訳の分からないことを叫びながら地面に引きずり倒された。距離は僕たちから少し離れている――
「また行きます! 聖なる盾!」
「畳みかけるぞ! カリィ!」
「明るい未来と新品のシーツのためにやっちゃうンだから!」
僕は輝く盾を構えて彼女との距離を詰め、後ろからペネロペさんが続いてくれた。カリィさんも後方で魔力を溜めている。対する邪悪極まりない女魔術師は倒れ伏したままだ。彼女は重力に伏したままローブを脱ぎ捨てる――
きゅぼ!
「うっそ!?」
「なに!?」
「ちょ――」
次の瞬間、暗黒が炸裂して僕たちは壁に叩きつけられてしまった。爆発自体は盾が防いでくれたけど、背中は痛い。
嫌な思い出がよみがえる――それを振り払うように勢いよく立ち上がれば、僕の両脇にはペネロペさんとカリィさん。前方には――
「うふふふふ♡ 勝ったとでも思った?」
白い髪と、黒い肌。背中には蝙蝠を連想させる羽、そしてうねうねと動く尻尾。
邪悪極まりないの上をいく悪――最悪で極悪な巨悪。悪のインフレの極致。大悪魔と呼べそうな“魔”がR17くらいの露出度お高めの衣装に身を包み、恥ずかしげもなく立っていた。
人智を軽くぶっちぎった魔力を全身から立ち昇らせて――控えめな胸をえっへん! と反らして言ってくる。
「小賢しい人間ども! そうね? えーっと……ぐっちゃぐちゃにしてあげちゃう♡」
「グロい親切はいりません! 聖なる盾!」
「そんなあなたに問答無用のぐっちゃぐちゃキーック!」
がしゃん!
「はああああああああ!?」
そして次の瞬間、守りの奇蹟はネーミングセンス皆無のキックによってぐっちゃぐちゃに粉砕され、僕たちはものの見事に蹴散らされた。
お疲れさまでした。
毎週土曜、または日曜日の19時頃更新(の予定)です。
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