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109話「こういった仲裁はお手のものです」

ざまぁ?への助走から足を踏み切り、滞空中の回です。

よろしくお願いします。

 ペネロペさんは“疾風(はやて)”のふたつ名をもつほどの弓使いだったけど、遺跡探索中に罠を発動させてしまい、視力のほとんどを失ってしまった。そのため、今は近くのものしか狙い撃つことができない。


 カリィさんにも似たような経験があって、右腕を失ってしまった。

 彼女が使う精霊魔術は両手で(いん)を組む必要があるから本来の力を発揮できない――そして2人はパーティーを追放されてしまったらしい。

 僕は2人に連れられて慈悲の館に向かい、ひと晩だけお世話になった。

 その翌朝――つまり今。僕は少し離れた所から慈悲の館を眺めている。街はずれの大きな施設。木造の4階建てだ。


 崩れ去ってはいないけど、それに向けてのカウントダウンは間違いなく始まっている。そんな外観。

 体格のいい人たちが手慣れた様子で補修や修理をしているし、近くの畑では何人かが土を耕している。思っていたよりも活気がある。その光景は清貧と呼べなくもない。


 彼らが元冒険者(・・・・)だと、ひと目でわかる傷跡を背負ってさえいなければ――いつの間にか、拳を握り込んでいた。


(僕の救いの風(ハイ・ウインド)なら、彼らの過去(きず)なかったこと(・・・・・)にできるのに……)

 でもそれはやってはいけないことだ。


『奇蹟は奇跡として存在しなくてはならない』


 自分で言った言葉に思わず嘆息してしまった。

 治癒の奇蹟を乱発すれば、それを巡って大陸が乱れかねない――大司祭様の顔まで思い浮かんできて頭痛がする。と。


「待たせたな、癒希」

「ごめーん! 待った?」


 ペネロペさんとカリィさんが合流してきた。

 僕が軽く手を振り返すと、ペネロペさんはやれやれといった表情をカリィさんに向ける。


化けの皮(・・・・)を被るのに時間がかかり過ぎだ」

「お化粧! 片手でするのは大変なンだからね!?」

「僕もさっき来たところですから」

「癒希ったら、なンて模範的なのかしら♪ あンたも見習いなさいよ!?」

(くち)にも化けの皮を被せた方がいい」

「なンですってええええ!?」

「えっと、僕の苦笑いで収めません?」

「君はとても模範的だな」

「……姉がいたので、こういった仲裁はお手のものです」


 苦笑いを返すと、彼の後ろでカリィさんがやれやれと嘆息した。もうケンカを続ける気はなさそうだ。仲裁作戦は大成功。だったら――


「さあ、行きましょう」

 僕はやり直しの1歩目を踏み出した。

 そういうわけで僕たちは冒険者ギルドの前にいる。

 扉を開けようと手を触れる――先日のこともあって、かなり重く感じられた。けど。


(今日は独りじゃない……!)


 僕は意を決して扉を思い切り押し開けた。

 そして冷たい視線の集中砲火に備える――


「……えっと」


 酒場風のフロアはいつも以上に大人たちでごった返していた。みんな立っていて、さらにざわざわしている。

 彼らの困惑の視線が集中した先にいるのは――ギルド長。ピコンレオさんだ。受付の手前に設置された演壇に立っている。


 少し前に会った時とはまったく別次元のぎらぎらとした(まなこ)。それがぎょろりと光る。

 マイさんや冒険者たちが彼を恐れる理由がわかった気がする。それはさておき。


「静粛にいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 怒声じみた一喝がミサイルのように炸裂し、酒場は爆心地のごとく静まり返った。

 冒険者のみんなは口を強く噤んだだけでなく、背筋までぴんと伸ばして直立不動の体勢だ。ペネロペさんとカリィさんも。

 精密誘導ミサイルが飛んで来る前に僕もみんなの真似をしておこう――ピコンレオ様々(・・)は重々しい口調で続けた。


「昨晩! この町付近の奈落が恐ろしい気配に包まれたとの報告があった! さらに――!」


 邪悪な魔術師も目撃されたらしい。フードとローブで顔は見えなかったけど、性別は女性。

 原因は彼女に違いない――そういうわけで、全冒険者で彼女の捕縛または討伐にあたるようにという御命令(・・・)だ。


 提示された報酬も莫大。ちなみにこの依頼が解決されるまで他の依頼は掲示しない――火急の依頼だってあるだろうに、やることが極端というか強引だ。


(場所は僕がレムナントを殲滅した奈落か。もしかして……)


 不死身の怪物(レムナント)たちの殲滅を鼻高々に報告(じまん)してしまったのかもしれない。


『あの奈落はもう安全だ。ピクニックにでも行くかね?』


 そんなことを言った後で、あの奈落が恐ろしい気配に包まれたとなれば、盛大に煽り返されてしまうだろう。


『行っても構わないが、君はこれから忙しそうだ』


 権力者同士の煽り合いの方が奈落よりも恐ろしい。

 そしてピコンレオさんは鼻息も荒く去っていく――やっぱりそういう理由だと思う。


 それはさておき、誰も受付に向かう様子がない。

 報酬と自分の命を天秤で測るのが冒険者という職業なんだろうけど、今回の依頼は誰がどう考えてもぶっちぎり(・・・・・)に危険だ。天秤は自分の命(・・・・)に大きく傾いているに違いない。誰もがこの依頼をぶっち(・・・)する理由探しに必死なはずだ。けど。


(有力な情報だけでもかなりの高額報酬……)


 慈悲の館を耐震、耐火建築にリフォームして、さらにプールと噴水を設置しても、丼ぶり満杯(・・)のお釣りがくる金額だ。


 なにかあっても奇蹟(チート)を使えば逃げるくらいはできるはず――面目躍如に必死なわけじゃない。

 ガイさんが悔しがる顔をジュースでも飲みながら拝みたいなんて思っていません。あの人の遠吠えとか負け惜しみをスマホに録音して町中に流して回るなんて、とんでもない。


「あううぅ……」


 もちろん受付で肩身が狭そうにしているアリスさんが可哀想というわけでも――いや、それはあるかもしれない。そういうわけで。


「……受けましょう」

「君がそう言ってくれるなら」

「一攫千金っていい響きだもンね」


 僕たちは慈悲の館で暮らすみんなのためにその依頼を受領した――直後、周囲から注がれる冷たい視線の集中砲火。

 失敗しろ(・・・・)。そんな砲弾がどかどかと飛んでくる。他パーティーの協力は得られそうもない。


(まあ、予想通りだけど……ちょっと不安かな)


 ダンジョンRPGならパーティーは6人がセオリーだ。

 編成も僧侶、狩人、魔術師。せめて盗賊が欲しいところだけど、マイさんは治療中だから仕方がない――僕たちは3人で冒険に向かうことにした。


お疲れさまでした。

次回更新は26年03月08日日曜日の予定です。

よろしくお願いします。

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