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108話「ファッ〇ってこういう時に使う言葉だよね?」

ざまぁ?への助走から足を踏み切った回です。

よろしくお願いします。

(そもそも交戦ポイントのど真ん中(・・・・)に爆発物をあらかじめ置いておくなんて、そう簡単にできることじゃないはずだ)


 そこにゴヴリンたちが潜んでいると知っていない限りは――つまり依頼からして罠だった。どうしてその周到さを戦い方に活かせないんだろう。

 そして爆発物を点火した状態で石化させるなんて、超常現象並みの凄まじさだ。


(勇者の血筋に相応しい活用方法が他にあるよね……?)


 心の中でぼやきつつ、僕は怪我の状態を確認した。

 背中が激しく痛む以外の問題はなさそうだ。血まみれだったはずだけど、そういった傷も見当たらない。

 ギルド長の計らいで治療系の術でもかけてもらえたんだろう――僕はそんなことを考えながら、革の防具一式に着替えると戦杖を手に取り、マイさんが眠っているベッドの脇に立った。


仲間(マイさん)を巻き込むなんて、あまりにも外道過ぎる……!)


 でも僕を殺さなかった。だから話し合いの余地はあるはずだ。まだやり直せる。殺人未遂も水に流して話し合おう――僕は1階に降りた。


『……』

「……あれ?」


 酒場風の1階は相変わらず冒険者(おとな)たちでひしめいていて騒がしい。けど、彼らは僕を見るや、水を打ったように静まり返った。さらに冷たい視線の集中砲火――


「…………まさか」


 なにかのラノベで読んだ覚えのある展開だ。

 嫌な予感が脳裏をよぎる――そこに気まずそうな顔のアリスさんが近寄ってきて耳打ちをした。


「癒希さんが……その、マイさんを見捨てて逃げようとしたという噂が立っていて……」

「これまたどこかで読んだことのある……」 


 改めて周囲を見回すと、冒険者たちは一糸乱れぬ動作で僕から目を逸らした。素晴らしい連携だ。

 そして訪れた凍り付くような沈黙。完全な孤立。除け者状態。僕はようやく気がついた。


(僕を殺さなかったのはこのためだ)


 爆発物で吹き飛ばし、さらにパーティーから追い出しただけじゃ飽き足らず――僕の視線は隅のテーブル。そこではガイさんがにたにたしていた。


(どん底に落としてせせら笑う……!)


 彼の性根がここまで腐っているなら、向き合ったところで意味がない。

 女神の怒り(シャイニング・レイジ)でこの御立派(・・・)な冒険者ギルドの耐震設計を検証がてら、彼らをぶっ飛ばしてしまいたい衝動にかられた。けど、他の冒険者たちが僕に敵意を抱いているから、彼らを巻き込んでしまうだろう。


(……それは単なる八つ当たりだ)


 みっともないにも程がある――僕はとぼとぼと冒険者ギルドを後にした。

「この世界でも人間の敵は人間か……」


 僕は凍えるように身を震わせながら呟いた。町の風が寒さを増したように感じる。

 そして希望でも転がっていないかと周囲を見回したけど、そんなものは転がっていない――僕は冷たい町をふらふらと歩き出した。と。


『あの子よ』

『へえ……』

「……」


 どうやら噂は町にまで広まった――広められたらしく、周囲を行く人々の視線が驚くほど冷たい。

 深い、とても深い嘆息が僕の口から零れ落ちた。ふと財布代わりの革袋を取り出すと、お金がほとんど入っていない――外道勇者に抜き取られたんだろう。


(ファッ〇ってこういう時に使う言葉だよね?)


 その言葉に詳しくはないけど、使いどころとしては合ってるはずだ。

 矢木咬先生もいないから、大声で叫び倒してみようかな――冗談はさておき、少しでも稼がないと宿どころか食事さえできない。けど、負傷している上にパーティーも組めないから依頼は危険だ。他の働き口を探そうにも、評判最悪の、しかも15歳(こども)の働き口なんかあるはずがない。僕は完全に詰んでいる。


(ティアラ神国に帰ろう……)


 英雄から急転直下の悪役だ。心がもたない。

 ここから再起する気合を見せろっていうのは子供にとってさすがに酷だろう。大司祭様に怒られてしまいそうだけど、良い勉強になった。人間の敵は人間。これを肝に銘じて生きていこう――でも。


(その前に治癒の輝き(ヒール)でマイさんを癒さないと)


 僕は冒険者ギルドに向かおうとした――その時。


『少しいいかな?』

『はぁい♪』


 身なりの貧しい男女――装備からして冒険者だろう――が声をかけてきた。

 どちらも20歳半ばくらい。彼らの表情は冷たくもないし、侮蔑に染まってもいない。


「オレはペネロペ。こっちはカリィだ」

「私たちは慈悲の館でお世話になってンのよ」

「……」


 慈悲の館。それはマイさんが言っていた単語だ。

 どうやら負傷などでパーティーから追い出された人たちが暮らす施設らしい。


 要は寄る辺のなくなった人たちが集まり、支え合って暮らしている。公的な支援は薄く、その生活は裕福とは言い難い――だから少しでも戦える人たちが稼いで、なんとかしのいでいる状態。

 冒険者は夢と希望に満ちた職業。その陰の部分と言えるだろう。


「僕の噂は聞いてますよね?」

「ああ。だが誰だって過ちを犯す。オレも、彼女(カリィ)もそうだった」

「つまりほら、私らとやり直しましょうって話よ。悪い話じゃないと思うンだけど?」

「……」


 仲間に栄光の頂から奈落(・・)の底まで、爆裂宙返り蹴りスーパー・サマーソルトキックで叩き落とされた直後だ。いきなり誘われても、正直なところ難しい。

 なにせ人間の敵は人間なんだから――


「ご覧の通り、オレたちには君が必要だ」

「ね? だからさ」


 ペネロペさんの瞳は酸でも浴びたみたいに白く濁っていて、カリィさんは右腕がない。僕よりも悲惨な目に遭ったんだろう。それでも仲間のために戦っている。そして。

 

(……ゲス女神は今の僕を見てにやにやしているに違いない)


 彼女に嫌そうな顔をさせてみるのも悪くない――いや、きっと楽しいだろう。やる気がめらめらと燃え上がるのを感じる。


「よろしくお願いします!」

「そうか!」

「やった!」


 僕はもう1度だけパーティーを組んでみることにした。


お疲れさまでした。

毎週日曜日の19時頃更新(の予定)です。

よろしくお願いします。

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