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すみません……

2023年3月26日に加筆修正しました。


「いつか、リーシャ嬢がフィルのことも思い出すといいな。」

「そうだね。……それで、その後は?」  


 フィリックスはアランの言葉に頷き、期待するように顔をほころばせた後、その表情を引き締めた。


「入れ違いに、フィルの父上であるクレメンス国王と近衛騎士団長であるオレの父上が来て、クーデターを起こした者たちが、ついに王宮へとなだれ込んだと知らされたんだ。

 王宮の中からも造反者が多く出て、陛下と父上は影ひとりと共に秘密の通路に入り込み、ここまで逃げてきたようだった。

 時は一刻を争うと、俺たちは急ぎ転移の間へと移動したんだ。転移の間では、オスカーおじさんが結界を張って造反者たちのの侵入を防いでた。


 本当は、ローリア王国へ―――できれば王宮に近いところへ転移させるつもりだったらしい。

 そのために、リーシャの父上であるグレン侯爵が、旧知の中の風龍ヴィルフリート殿を通して頼んでくれる手はずになっていたけれど、グレン侯爵はさっき発ったばかりだった。グレン侯爵がどんなに急いでくれたとしても、風龍ヴィルフリート殿やペイレール辺境伯を通して、ローリア国王の裁可が下りるには時間は時間がかかるだろう。それに、ローリア国王が受け入れてくれるどうかもわからない。しかしそれを待っていたら、確実に全員が死んでしまうという状況だった。


 だから、ひとまず王都の北にあるグレン侯爵領に転移して、カル山脈を越えてローリア王国へと入るルートを取ることになった。追手が来たとしても、まさかカル山脈を越えて行くとは思わないだろうと。それに、グレン伯爵領からカル山脈を越えれば、そこは風龍ヴィルフリート殿がいるというペイレール辺境伯領だ。

 ローリア国王が受け入れてくれるとは限らないけれど、この国に残れば必ず命を狙われ亡き者にされる。先に発ったグレン伯爵が風龍殿や辺境伯に話してくれていることに期待するしかなかったんだ。


 転移の魔術陣を発動させるためには王族の魔力が必要だったし、移動できるのはふたりまでだろう。だから、まずはオスカーおじさんと俺が最初に。次はフィルと影ひとり。その後は俺の父上、そして最後にクレメンス国王陛下と影ということになったんだ。

 でも、陛下が転移の魔術陣を発動させるために力を込めようとした時、扉が破られて造反した騎士と魔術師が中に入って来てしまった。父上と影のひとりが、それを食い止めるために前に立ち、陛下が急ぎ魔術陣へと魔力を込めて発動させた。

 すぐさま、俺とオスカーおじさんが魔術陣で転移した。

 そしてその後、影が気を失ったフィルを抱きかかえて転移して来たよ。陛下と父上、もうひとりの影は来ることができなくなったと聞いた。それで、俺は3人が帰らぬ人となったことを知ったんだ。そして、フィルがその最後を見てしまったこともね……。


 いや。陛下や父上は、あの時後から来ると言っていたけれど……最初から、ふたりは最後まで残るつもりだったんだと思う。だから、転移させる前に、陛下と父上が叫んだんだろうな。『生きろ!』『生きて抜いて幸せになれ!』って。あれが遺言だとわかって、ふたりはそう言ったんだと思う。」


「あらん、僕は……父上たちの最後の瞬間を見てしまったと?」

「ああ……」

「でも僕は……。今アランに聞いても、その時のことを思い出すことができないっ!」


 フィリックスの眉が寄せられ、唇を噛みしめている。

 実のところ、アランはどこまでフィリックスに伝えるべきかを迷っていた。フィリックスが何故、気を失ってしまったのか。その経緯を話すべきなのか……と。


「追手は?」

「うん。あの魔法陣は王族しか発動できない。だから、俺たちがどこの領地へと転移したかまでは掴めなかったようだ。追手は来なかった。」

「僕は気を失ったまま?」

「ああ。影がフィルを担いだままカル山脈を抜けた。」

「魔獣は?」

「オスカーおじさんと影のふたりが戦って、俺たちを守ってくれたよ。」

「そうか……。僕は……何もできなかったんだな。」

「フィル?俺たちはまだ7歳だったんだ。仕方がなかったんだ!」

「それでも……僕は王太子という立場だったのにっ!守られてばかりで何の役にも立てなくて……僕はいったい……くそっ!」


 握りしめた拳で、フィリックスは太ももを何度も叩く。

 フィリックスの感情とともにあふれ出す魔力が、蜃気楼のように結界の中の空気を揺らし、その手にはめられた指輪へと吸い込まれていった。


「フィル……」


 魔力があふれ出すほどに感情を露わするフィリックスを見るのは、もう何年ぶりだろうか。あの時は……と、アランはその時のことを思い出した。

 そして、その時以来、感情と魔力を完璧にコントロールしていたフィリックスが、魔力をあふれさせるほどに感情を乱している。

 アランはフィリックスに近寄り、振り下ろされる拳を受けとめた。



♪*♪*♪



 フィリックスの父親であるクレメンス国王が即位したのは25歳の時だった。フィリックスが2歳の時である。

 先王が突然の病に倒たため、予期せぬ即位だったこともあり、すぐさまフィリックスが王太子に任じられることはなかったが、それでも3年後の5歳の時には王太子の指名を受けた。父親のクレメンスが王太子に指名されたのが15歳の時だったことを考えれば早すぎる指名だった。

 しかし、その時の王家は5歳の子どもを王太子に指名し、少しでも生き残れる可能性を上げなければならないほどの覇権争いが、先王の死と共に巻き起こっていたのだ。


 フィリックスは聡い子どもだったから、5歳で王太子になった時、既に自分を取り巻く状況の危うさを理解していた。7歳であの国から逃げた後、父親の指にあったはずの暁光の指輪が自身の指にあることに気づいた途端、何が起こったのかを悟ったようだ。「王太子として、国に戻る!」と言って、感情とともに魔力を暴走させたフィリックスを諫めたのは、その地に住む風龍ヴィルフリートだった。


「その指輪はお主を助けるものとなるだろう。決してその身から離さぬように。焦るでない。今は己を磨くことに専念するのだ。」


 それからのフィリックスは、ただひたすらに自分を鍛え上げた。それは横で見るアランが痛々しく思うほどの努力だった。

 そして、ザイツの再来とまで言われるほどの魔術の使い手となり、剣技だってアランにはかなわないものの、かなりの強さまで鍛え上げている。そして、魔術や剣術だけでなく、学園で履修する学問においてもトップの座を譲らず、総合首席という立場を維持している。

 それにも拘らず、フィリックスは言うのだ。

 僕はレザンツ王国の王太子だった人間だ。これくらい当然のことなのに、必死に努力しなければいけない僕が優れているなんて、とても言えるわけない―――と。



♪*♪*♪



「アラン、離してくれっ!」


 振り上げる拳を掴まれたフィリックスは、強い口調で言い放つ。しかし、アランは冷静な表情のまま、フィリックスに問いかけた。


「嫌だね。フィル、俺たちは何のために生き延びたんだ?」

「……何のため?そうだね。無力だった僕たちが生き残ってしまった。だから、僕はこの国で可能な限りの力をつけてきたんだ。」

「何のために?」

「何のため……って。それはっ!それ…は……。」


 フィリックスの戸惑いとともに、ようやくあふれ出していた魔力が落ち着きを見せる。

 フィリックスがどんなにこの国で努力をしてきたのかは、隣で見てきたアランが一番知っている。そして、その努力が劣等感や罪悪感からきているものだということも……。

 こんなに努力を重ね、結果をだしているというのに、未だにフィリックスは自分を責め続けている。


(これ以上のことをフィリックスに話すのは、まだ早い……か。)


 やはり今日フィリックスに話すのはここまでにしておこうとアランは思った。これ以上の話は、今のフィリックスを更に追い詰めてしまうことになるだろう。

 だから、ただ守られただけの立場を悔やむ様子のフィリックスに、アランは言ったのだ。


「俺だって同じだ。転移の間でだって、カル山脈を越える時だって、何もできなかったよ。だから、この国に来てから必死に頑張ったんだ。それは、フィルだって一緒だろ。

 そして、それは陛下と父上が最後に言った『生き抜いて幸せになる』ためだろう。」


 アランは、この国に来てから何度もフィリックスに言い続けた。

 『生きろ!』『生き抜いて幸せになれ!』

 フィリックスとアランの父が最後に願ったことだから。


 あの緊迫した状況で、ふたりは我が子が生きて幸せになることだけを望んでくれた。だから、それに応えなければならない。たとえ、フィリックスが罪悪感で心からそう思えないのだとしても、アランは言い続けなければならないと思っていた。


「フィル、俺たちは生き抜いて幸せにならなければならないんだ。」



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