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「ザイツ先生は、本当に素晴らしい方だよ。わたしもマティアスに負けないように頑張らないとね。」
「フィリックス先輩は、稀代の魔術師であるザイツ先生に勝るとも劣らない力をお持ちと聞いています。僕の方こそ、一緒に学ばせていただけるなんて光栄です。」
マティアスはフィリックスに対して、笑顔で受け答えしていたが、その心の内には様々な思いが渦巻いていた。
フィリックスのことは、学園に入る前からマティアスも耳にしていて、実は学園で出会うのを楽しみにしていたのだ。ザイツの再来と言われるほどの魔力、加えてその他の科目においても優秀だと聞き、機会があればぜひ話したいとも思っていた。
だから、今日はローゼリア王女のお茶会でフィリックスと会え、こうやって話しかけられてマティアスはとても嬉しかったのだ。気持ちの半分くらいは。
残りの半分は……奇妙な不自然感といえばいいのだろうか……。
偶然と言われればそうなのかもしれないことなのだが、それだけでは片付けられないような……何か腑に落ちないものをフィリックスに感じていたのだ。
フィリックスは、ザイツの再来と言われるほどの魔力と、その整った容姿で学園では有名だった。さらりとした銀色の髪、瑠璃の瞳。中等部では周りの人たちより頭ひとつ高い背丈というもあって、どこにいても目立つ存在のため、学園で会えば意識に残りやすい。
だから、マティアスがフィリックスとすれ違うたびに、目で追ってしまっていたからなのか判らないが……やたら多いのだ。フィリックスとすれ違うのが。最初はそういうものかと思っていたが、すれ違うだけでなくて、昼食を取る際の食堂で近くの席になることも多いように感じていた。
ローゼリアやリーシャに近づきたいのだろうか?と思ったが、フィリックスが積極的に話しかけてきたことは一度もなかったし、ものすごく近くに寄ってくることもなかった。だから、偶然なのかもしれないと思っていたのだが……。
あの時――リーシャが中庭で笛に魔力をのせて吹いてしまった時、マティアスは中庭で立ち尽くし、涙を流すフィリックスを見てしまった。あの時のフィリックスはリーシャを見ていたのではないだろうか?
聞けばフィリックスは、ザイツが魔術制御のための特別カリキュラムを指導した後の時間に、個別の魔術特訓を受けるのだという。だからあの日も、それで中庭にいたのかもしれない。
しかしあの時、フィリックスの視線の先にはリーシャがいた。リーシャはフィリックスを知らないはずだ。学園でフィリックスが近くにいても、目で追ったりすることもないし、話が出たこともない。しかし、フィリックスには……リーシャを見て涙を流すほどの何かがあるのだろうか。
フィリックスに、マティアスがあの時のことを尋ねてしまえば、涙を流していたフィリックスを見ていたことが知られてしまう。それはお互いにとって気まずいことのように思えた。それに、これ以上掘り下げるのは危険だとマティアスの勘が言っている。
マティアスは自分の勘を信じることにした。
リーシャのことになると、マティアスは少し冷静でいられなくなるところがあることを自覚している。リーシャを守るために、それは欠点だとわかっているのだが、どうしてもうまくコントロールすることができないのだ。
(誰だってはじめてリーシャに会う人たちは、リーシャに見とれて目が離せなくなるじゃないか。きっとフィリックス先輩もそうだったに違いない。)
そう自分に無理やり納得させて、ふうっと息を吐いたマティアスは、ようやく気を緩めてお茶会を楽しむことにしたのだった。
それぞれの緊張もほぐれ、会話を十分に愉しむようになった様子を見て、ローゼリア王女は庭園の散策を提案した。ちょうど今、春の球根花が見ごろをむかえていて、ルラの花も咲いていることを口にすると、リーシャが瞳を輝かせた。
庭園へと向かう道すがら、リーシャと楽しそうに話しているマティアスに、ローゼリア王女が声をかけた。
「ねえ、マティアス。そういえば……。」
ふたりが話し込んだのを見て、リーシャは一歩後ろへと下がった。マティアスはちらりとリーシャに目を向けたものの、リーシャがシモンの隣へと移りふたりが話し始めたのを見て、再びローゼリア王女と歩き出した。
リーシャとシモンに声がかけられたのは、それからすぐのことだった。フィリックスと一緒に来ていたアランは、シモンはお茶会でも隣同士で、意気投合していたようでふたりは楽しそうに話しはじめた。そんなふたりとじばらく一緒に歩いていたリーシャだったが、ふいに後ろから声がかけられた。
「リーシャ嬢は何の花が好きですか?」
はっと後ろを見ると、フィリックスがにこやかな笑顔で微笑みかけている。さらりとした銀色の髪が、日の光をあびてキラキラと輝いている。
(ヴィルの鱗みたいにキラキラ輝いて綺麗だわ……。)
リーシャが歩みを止めてフィリックスの髪に見とれていると、フィリックスはリーシャに近づき、隣で立ち止まった。小柄なリーシャはフィリックスの肩よりも小さく、隣に来られると大きく見上げなければ顔を見ることができない。隣に立ったフィリックスとリーシャの視線が合い、フィリックスの瑠璃の瞳がきらりと光った。
「お星さまみたい……。」
「え?」
ようやく、ようやくリーシャとフィリックスです♡
ここまで長かった……




