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第3部が始まりました。よろしくお願いいたします。
「はじめまして。リーシャ・ペイレールと申します。よろしくお願いいたします。」
ローゼリア王女主催のお茶会に参加した面々が、それぞれ挨拶を交わしていく。今年度の魔術制御のための特別カリキュラムを受けるリーシャ、マティアス、シモンに加えて、来週から週に1回、授業のサポートをしてくれるという上級生2名、フィリックスとアランが招待されていた。
このお茶会は、お互いの顔合わせを兼ねてという名目のもと、ザイツがローゼリアに頼んだものだった。もちろん、フィリックスとアランが授業のサポートに入ることは、ザイツの独断で決まっている……。
リーシャの記憶が戻っていないことは頭では理解していたフィリックスだったが、リーシャからの「はじめまして」が胸に突き刺さっていた。平静を装いながらも、金緑色の瞳から目を離せない。
「あら、フィリックス様。リーシャがあまりにも可愛らしいから、見とれていらっしゃるのね。」
ローゼリア王女から含みを持たせた視線を向けられ、フィリックスはローゼリア王女へと向き直った。
「どちらの花も近づきがたいほど美しく、とっさに言葉を紡ぐことができませんでした。どうぞお許しください。」
「まあ、わたくしのことまで褒めて下さるなんて。嬉しいわ。
“フィル様、リーシャばかり見ているから、マティの目がきつくなってきているわよ!”」
ローゼリアはフィリックスを席へと案内しつつ、扇子で口元を上手く隠して状況を伝える。
確かに。そう思ってフィリックスがマティアスへと視線を向ければ、マティアスと目が合った。注視しなければわからいくらいではあるが、警戒するような光が宿っている。
(可愛い妹を護る目ではない……のは、間違いないようだな。)
今はリーシャのことで刺激するのは得策ではないと、フィリックスは口角を上げマティアスの隣の席に座った。
「マティアス殿は、神器をつける程の魔力の持ち主にもかかわらず、入学前に制御を身に着けたとか。学園に入ってから行っても大変な精神力が必要だというのに、すばらしいことだね。」
「クライバー先輩、僕は後輩にあたりますので、気軽に接していただければ嬉しく思います。」
「では、遠慮なくマティアス、と呼んでもいいだろうか?ああ、わたしのことも名前で呼んで構わないから。」
頷くマティアスの瞳からは、わずかに浮かんでいた強い光すら消えている。この歳でこうも感情のコントロールができるとは。さすが学園入学前に、魔力制御のコントロールを終える精神力を持つだけはあるとフィリックスは思った。
「では、フィリックス先輩と呼ばせていただきます。
魔力の制御は、僕がどうしても入学前に身につけたかったので、無理を言って身につけさせてもらいました。僕はペイレール辺境伯領の次男という立場ですので、国に仕えるという選択肢もあります。幸い、ペイレール辺境伯領には老齢とはいっても、強靭な風龍殿が健勝でいてくださいますので、国に仕えるか次期辺境伯の兄の近くで補佐をするのかを、これから考えていきたいと思っています。いずれを選ぶにしても、僕は学園に在籍する5年間で、できる限りの魔術を身に着けたいのです。
ですから、稀代の魔術師と呼ばれるザイツ先生が指導して下さるという貴重な2年間、魔力を制御できている状態で学びたかったのです。」
マティアスが学園に入学する前に魔力制御の訓練を行ったのは、リーシャのためであることは間違いない。そして、それを風龍殿も辺境伯殿も望んでいたことに違いないと、事情を知る者なら疑いもしないこと。もちろん、フィリックスもその事情を知るひとりだが、マティアスはフィリックスが知っていることを知らない。
マティアス自身もザイツに学びたい思いはあるのだろうが、まるでそれが全てだと言わんばかりの澱みない返答にフィリックスは舌を巻いた。それに、落ち着いた口調は好ましささえ感じられる。
(12歳でこれか。楽しみだな。)
さきほどまでは意識してあげていた口角だったが、フィリックスに自然な笑みが浮かぶ。
神器をつける程の魔力に、入学前に魔力制御をできるようになった精神力、そしてそつのない会話。リーシャに対する思いは個人的に引っ掛かるものの、フィリックスはマティアスのことを好ましく感じたのだった。
「ザイツ先生は、本当に素晴らしい方だよ。わたしもマティアスに負けないように頑張らないとね。」
「フィリックス先輩は、稀代の魔術師であるザイツ先生に勝るとも劣らない力をお持ちと聞いています。僕の方こそ、一緒に学ばせていただけるなんて光栄です。」




