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 瞬く間にフィリックスが大きな炎で包まれ――たかと思うと、次の瞬間に指輪へと吸い込まれる。突然魔術を向けられたフィリックスは、その術の展開の速さに防御も間に合わない。とっさに結界を解いてフィリックスの許へ駆けつけようとしたアランも、ザイツに動くことを目で制されてしまう。

 それを平然とした顔で確認したザイツは、次々に水の魔術、氷の魔術、雷の魔術……と展開していく。アランの結界さえも揺らぐほどの強力な魔法を次々と叩きつけられ、さすがはこの国の筆頭魔術師のザイツだと感心したいところだが、あまりの術式展開の速さとその威力に、アランは呆然として眺めているだけだった。

 そして、その全ての魔術がフィリックスに届く前に指輪へと吸い取られた。


「うん。指輪が変質したわけではないね。」

「ザイツ先生っ!!」


 フィリックスが父から受け継いだ、ただひとつの形見の指輪を突然引き抜こうとしたばかりか、何も言わずに次々に魔術で攻撃したのだ。しかも、それを行ったのがフィリックスの事情を知るザイツであることに、フィリックスは苛立ちを隠さなかった。


「フィリックスから先生と言われるのも良いもんだね。

 あ……悪かった。悪かったから、そんな目で見ないでくれよ。そのかわり、この指輪が何なのか教える。だから、そうふくれるな。」

「ふくれていません!」

「そうか?つい何年か前まで、わたしと遊んだ後はいつも帰るのを嫌がって頬をふくらまして―――」

「遊んでもらったのは、王宮に滞在したわずかな期間だけです。それからもう7年も経っています!」

「もう、そんなに経つのか。あの後すぐ、わたしは公爵となり王宮を出たから、会う機会も少なくなっていたし、特に魔術庁の長官となってからは忙しくて。最後に会ったのは、いつだったかな?」

「学園に入学する前でしたから、もう2年以上前です。」

「そうか。どおりでフィリックスも大きくなっているはずだね。うん、いい男に成長している。」


 嬉しそうなザイツに、うまく誤魔化された感はぬぐえないが、気づけばフィリックスの怒気は軽くなっている。


 「アラン、悪いけれど――」

 「はい。わたしは外で見張りをしておきます。」


 これからザイツが話す指輪のことはアランごときが聞いてよいものではないのだろう。ザイツに最後まで言わせず、アランは一礼した後にその場を離れた。

 そして、ザイツはアランが扉から出るのを確認したのち、小さなつぶやきと共に結界を張りめぐらせた。


「ずいぶん、厳重ですね。」

「ああ。アランのことは信じているけれど、この前の不審な気配も気になってね。防音の結界を張らせてもらったよ。

 さて、フィリックスは、この指輪について、どのくらいのこと知っている?」

「僕が知っているのは、この指輪が父の手にはまっていたこと、代々引き継がれたものだということ。そしてこの指輪を抜くことができるのは指輪をしている本人だけだということです。

 僕自身の魔力暴走を抑えていましたので神器だと思っていましたが……魔力攻撃をも吸収することに驚いています。そんなことができるとは、さきほどのザイツ先生から攻撃されるまで知りませんでした。それなら魔術トーナメントだって、もっと楽に勝ち上がれましたね。」

「いやいや、フィリックスの相手になれたのは片手ほどもいなかったじゃないか。あれ以上強かったら、勝負として面白くない。それに、そんなことをしてしまえば、指輪の力が皆に知れてしまうよ。私は、皆に知られないようにわざと防御の魔術も使っているのだと思っていたが……とすると、父上から詳しいことは教えらないままだったのだね。」


 そう言うと、ザイツは話し始めた。ザイツから聞く話は、フィリックスにとってはじめて聞くものだった。





 人には魔力を持って生まれてくる。その魔力の多さは人によって異なるが、往々にして貴族は多く平民は少ない。そして、魔力を使って魔術を展開する。魔力は使えばなくなるが、体力が回復するように、休めば魔力も回復する。

 一方、精霊や妖精が自身のエネルギーをもとに、力として使うものを魔法と呼ぶ。これは自然のエネルギーが形となったものだから、精霊や妖精は自然からエネルギーを取り入れることができる限り使うことができる。そのため、精霊や妖精は自然豊かな場所を好んで住み着くし、彼らが住み着くことで、その地のエネルギー循環が活発になるため更に豊かになり、人々に恵みを与える。

 龍は、人や精霊をはるかに凌駕した存在となる。龍がどのような状態でその力を使っているかすら人間は知らない。神がその力を分け与え、使わした生き物だと言われているため、龍が使う力のことを神力と呼んでいる。

 そして、人が魔力を込めて作る道具を魔術具、精霊や妖精の力が込められたものを魔法具、龍の力が込められたものを神器(じんき)という。


「ここまでは、誰もが学び知っていることだよね。実は、龍が作るのは神器だけではないんだ。」

「神器だけではない?」

「ああ。神器でさえ、めったにお目にかかれるものではないし、国が管理して、国宝とされているものがほとんどだ。そして、これはどの国も限られた王族しか知らないはずだが、神鱗器《りんき》と呼ばれているものがある。」


人間…『魔力』を持つ。魔力を用いて『魔術』を使い、『魔術具』をつくる。

精霊・妖精…自然界から取り入れた力で、『魔法』を使い、『魔法具』をつくる。

龍…『神力』を使い、『神器』をつくる。ごくまれに『神鱗器りんき』をつくる。


というような世界となっております。


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