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「フィリックス、今日こそは魔術訓練(楽しい時間)を過ごそうと思っていたのだけれど……今日も顔色が悪いね。」

「「申し訳ありません……」」


 1週間後、魔術棟でザイツと再会したフィリックスは、わかりやすいほどにやつれていた。少し離れた場所に立つアランが、ふたりを見やった後、心苦しそうにザイツに頭を下げた。


「いや。気にしなくていい。少しアランから聞いていたしね。そうだね、じゃあ今日はまず話をしようか。」


 前回もフィリックスは気がつけば眠っていた――正確には眠らされていたため、ザイツによる特別授業を受けないまま帰宅していた。だから今日こそは、と思って魔術棟に来たものだが、この様子ではまた何もしないまま帰ることになりそうだ。ザイツから鍛えてもらうことを楽しみにしていただけに、フィリックスの落胆は大きかった。


 フィリックスとアランを椅子に座らせると、ザイツはフィリックスへ問いかける。


「それで、悪夢はいつから?」

「先週から毎晩見ています。」

「その前は見ていなかったの?」

「小さいころ――この国に来たばかりの頃は、よく見ていました。最近では、今年度が始まる前に一度。」

「小さいころ、か。……ああ、そうだったね。それで、今回の夢は?どんな夢か聞いても大丈夫かな?辛いようなら、話さなくても構わないけれど。」

「いえ。悪夢には間違いないのですが……。」


 ザイツの質問に答える形で、フィリックスは話を続ける。


「今年度が始まる前に見た夢は、苦しんでいる民たちの姿でした。

 今回は……はっきりとしたものを見ているわけではないのです。全てに霞がかかったような感じで、音がしたり、誰かが叫んだりしているのはわかるのですが、何の音なのか、何を言っているのかは聞き取れないのです。

 もちろん映像もぼやけていて、何が起こっているのかわからないのですが……それでも、何か切迫した状態で良くないことだけはわかるのです。そして、その中に引きずり込まれそうになって……そこで、いつも目が覚めます。」

「その夢は、もしかして……。」

「おそらく……国を逃れた時のことではないかと思うのですが……。」

「フィリックスにその時の記憶は?」

「まだ戻っていません。」


 ザイツは軽く目をとじて、組んだ腕の片方の指でトントンと肘を打つ。これは、ザイツが考える時によく見せる素振りだった。


「フィリックス、指輪を見せてもらってもいいかい?」


 長い沈黙の後、目を開いたザイツは、フィリックスに手を差し伸べた。



♪*♪*♪



 この、やわらかく光り輝くような指輪―――『光輪(こうりん)の指輪』と呼ばれる神器(じんき)は、代々フィリックスの家に伝わるもので、父クレメンスの手にはめられていたものだった。一見はグリッターの入った琥珀ように見えるし、フィリックス自身も父の手にはめられていた時には、それは神器ではなく、ただの琥珀の指輪だと思っていた。しかし、いざ自分の手にはまった指輪は、琥珀とは似て非なるものだった。

 まず、その重さが違う。琥珀は肩がこらないほど軽い宝石と言われるが、この指輪はまるでサファイアかルビーをつけているかのような重さを感じるのだ。それに、触ってみても、柔らかさを感じるところか、逆にはじき返されるような硬さがある。しかし、鉱物のような冷たさはない。


(それに……)


 一番の決め手は、おそらくこの指輪が神器としての働きをしていることに気づいたからだった。

 ローリア王国(この国)で目を覚ましたフィリックスが、父親の指にあったはずの暁光の指輪が自身の指にあることに気づき、「国に戻る!」と感情とともに魔力を暴走させたのだが、周囲や自分を傷つけることはなかったのだ。それまでフィリックスが身に着けていた神器がなかったにもかかわらず……。

 ただ不思議なのは、この指輪はフィリックスが魔術として魔力を使う限り、その魔力を吸収しないのだ。それに、昔フィリックスがつけていた神器や、知っている他の神器とも様相が違う。しかし、このような神器だからこそ、代々フィリックスの家に伝わってきたのだろうと思うのだったが……。


(ただ……あの方だけはこれが何なのかを解っているようだった)


 フィリックスはこの国へ命からがら辿り着き、目覚めた後に神殿で伝えられた言葉を思い出していた。


「その指輪はお主を助けるものとなるだろう。決してその身から離さぬように。焦るでない。今は己を磨くことに専念するのだ。」


 そう言って、風龍ヴィルフリートはフィリックスに優しいまなざしを向けてくれた。その言葉を支えに、これまでフィリックスはひたすら己を高めるために努力し続けたのだ。



♪*♪*♪



 指輪のはめた手をザイツが見つめている。


「何か変わったことは?」

「いえ、ないと思います。」


 と、突然ザイツがその指輪を掴み、引き抜こうとした。


「っっ!!」

「驚かせて悪いね。わたしが引き抜こうとしても取れないことを確認しただけだよ。じゃあ次。アラン、念のため結界張っていてくれ。」


 ザイツはそう言うと、フィリックスに演習場の中心に立つように指示をした。フィリックスがその場に移動すると、ザイツは何の説明もしないまま、炎の魔術を展開した。


読んでいただきありがとうございました。

 フィリックスの指輪は、その指輪をしている本人しか取ることができない―――という設定となっております。後ほどその記述は出てきます。

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