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「では、今日はここまで。」


 魔術制御のための特別カリキュラムの初日の授業で、指導教官のザイツが修了を告げた時、リーシャとローゼリア王女、シモンの3人はため息とともにその場に座り込んだ。


「もう無理……。」

「精神力をごっそり持っていかれた感じだわ……。」

「マティはどうして平気なの……?」


「マティウスは、ほぼ制御ができているね。ヴィルフリート殿の元でよく頑張ったんだね。本来なら学生はこれで終了しても十分なのだけれど、マティアスは魔力も多いし、せっかくだから週に1回は来てもらって訓練しようか。」

「はい、ザイツ先生。」


 顔色悪く座り込む3人と違い、楽しかったと言わんばかりに溌溂と答えるマティアスに、リーシャたちは羨ましそうに目を向けた。





 魔力制御を行う上で、まず大変なことは自分自身の魔力と向き合うことだ。それまで魔術具や神器によって抑えられていた自分自身の魔力を感じること。そしてその状態に慣らすこと。


 もちろん、魔術具や神器によって自身の持つ魔力の全てを押さえているわけではなく、通常の人が持ちうるほどの魔力は残っている。しかし、魔術具や神器を使って魔力を押さえる必要がある者の魔力、その所持する魔力の量は桁違いなのだ。感情と共に魔力が暴走し、周囲や自分自身を傷つけてしまう恐れがある者たち。最悪の場合は周囲や自身を死に至らしめる程の魔力。命すら簡単に消してしまえるほどの魔力が自分の中にあることに慣れることは容易いことではない。


 まずは、恐怖が襲ってくる。

 全神経を尖らせて、体に眠る魔力の量を感じ取り、魔力の流れをコントロールする。魔力の量や使い方のセンスにもよるが、大抵1~2か月もすれば本来の自分の持つ魔力への恐怖も薄れてくる。

 恐怖が薄れてきた頃合いを見計らって、自身に結界を張る練習を行う。充分な結界が張れるようになると、魔力を持つ子どもがだれでも使える初歩的な魔術を使って魔力を放出させていく。


 しかし、ここで再び恐怖を覚えるのだった。



♪*♪*♪



 魔力制御のための特別カリキュラムを受ける4人が、充分な結界を張れるようになったのは、学園に入学して3か月が過ぎたころのこと。その日、シモン以外は自分自身に結界を張るよう、ザイツに指示された。


「「きゃ―――――っ!!!」」

「えっ?ええ―――――っ!?」


 ローゼリア王女とリーシャの悲鳴が響き渡る。

 ふたりの目の前に真っ赤な炎が迫り、それか部屋中に広がったのだ。マティアスは顔色一つ変えずに、ローゼリア王女とリーシャの弛んだ結界の上に自身の結界を展開する。


 そして、もうひとつの声は、ランプを灯す魔術を唱えたシモンだ。

 こちらも、この状態を予想していたザイツの結界により、護られていた。


「お、お、叔父様……な、何ですの、これ?」


 これにはさすがのローゼリア王女も驚きを隠せなかったようだ。


「ローゼリアの素の顔が、学園で見れるとは思わなかったね。まあ、このカリキュラムの時しか見せないだろうから、問題はないけれど。」

「叔父様、これで驚かない方がおかしいですわ!」

「おや、もう元に戻ってきたかな。さすがだよ、ローゼリア。

 でも、学園(ここ)では叔父様はなしだ。わたしは君たちの先生だからね。」


 驚きで口調が乱れたローゼリア王女だったが、あっという間に気持ちを立て直したのはさすがだった。そして、敬称を咎めながらも、嬉しそうに口もとを上げるザイツ。


 一方。


「マ……マ……。」

「リーシャ、大丈夫?」

「マ…マ、ティ………。」


 ローゼリア王女との初対面以降、マティアスに甘える様子を見せなかったリーシャだったが、今回ばかりはそれも忘れてしまうほどの驚きだったらしい。涙目でマティアスを見つめ、先ほどから口をハクハクと開いては閉じ……を繰り返している。


「怖かったよね。」

「………。」


 リーシャはマティアスから目を離さないまま、コクコクと頷く。


「大丈夫。大丈夫だから。はじめてだったから、驚いただけだよ。慣れたらリーシャの結界でも充分だから。それに、何かあっても僕が守るって言ったよね。」


 マティアスは、久しぶりに自分に甘えてきたリーシャをそうっと腕を回して包み込む。背中をポンポンと叩くと、動揺していたリーシャの気持ちが落ち着いてきたのを感じ取った。


「ありがとう……マティ。もう、大丈夫。」


 そう口にすると、リーシャの方からマティウスの腕を離れた。「大丈夫」だと口にされれば、マティウスはリーシャを離すより他はない。腕から消えていったぬくもりが切なくて、その追いかけたくなる。


(以前のリーシャなら、泣いてしがみ付いていて、自分からは離れなかったのに……・。)


 学園に来てからのリーシャの変化に、喜ぶべきことなのかもしれないと頭では思うものの、たったの数か月程度ではマティアスの心は未だに追いつけずにいるのだった。


「あ、あの……ごめんなさいっ!!」


 ローゼリア王女とリーシャの気持ちが落ち着いたのを待っていたかのように声を上げたのは、魔術を唱えたシモンだ。固く握りしめた両手は、まだ震えている。


「大丈夫だ、シモン。こうなるだろうということは予想していたから。だから君が魔術を唱えた後、わたしはすぐに君に結界を張ったし、マティアスもわかっていたから、冷静にローゼリアとリーシャに結界を張っただろう?」

「予想……ですか?」


「ああ。このカリキュラムを受けたことのある者なら、こうなることはわかっているからね。ちなみに、わたしもシモンと同じことを経験している。あの時のことを思い出すと、未だに戦慄するね……。」

「僕も、ヴィルフリートからやられてる。」


 遠い目をしたザイツと、苦笑いするマティアス。それを見て、ようやくシモンは握りしめていた手から力を抜き、ほっとした表情を見せた。


「もしかして、叔父様が魔術棟をぶっ飛ばしたっていうのは……。」

「ローゼリア……、ぶっ飛ばすなんて言葉を外で使ってはいけないよ。それに、何度も言うけれど、今は叔父様ではなく先生と呼ぶように、ね。」


 表面上は平静を取り戻しているローゼリアだったが、よほど衝撃が大きかったのだろう、未だ言葉は乱れたままになっている。そんなローゼリアにザイツは一応といったように注意するが、その口元は悪戯っ子のように弧を描いていた。

 

 リーシャといえば……ローゼリアの口から信じられない言葉を聞いて、思わず口を開いた。


「ええっ!?ぶっ飛ばしたのですか?」

「リーシャまで、そんな言葉を……。まあ、吹き飛ばしたのは事実だね。」


 リーシャは目を丸くして驚いた。


読んでいただきありがとうございます。

「魔力制御のための特別カリキュラム」始まりました!省略して短く……と思うものの全く閃かず……

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