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風笛の鎮魂歌~緑銀の笛の音が響き渡るとき~  作者: 森川トレア
第1章 リーシャの家族と真実
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「リーシャを守るためだよ。」


 あっさりとマティアスが口にすれば、父ユリウスがそれを補足する。


「本当はもっと少なくても良いのだが、あまり少ないと何かあったときに自分で身を護れないからね。マティアスくらいの魔力あれば、大概のことが起こっても身は守れるだろう。ああ、リーシャとわたしたちの血が繋がっていないことは内緒のままだよ。」


 父ユリウスが物騒なことを口にしたと思うのは気のせいかだろうか?とリーシャは小首を傾げた。たかが……と言ってよいのかはわからないが、学園に行くだけなのだ。リーシャが王都へ行くのがはじめてだとはいえ、外出する際もひとりではないはず。それなのに、大概のことが起きることを前提に話がなされているように感じる。


 納得できていないリーシャの様子に、仕方がないなぁとばかりにルーカスが更に説明を加えた。


「リーシャは、王の信頼も厚く高貴な血も流れているペイレール辺境伯の娘として見られるんだよ。それだけでも、嫁に欲しいという貴族たちは掃いて捨てる程いる。

 それに、こんなに可愛いくて、更に膨大な魔力があるとなれば……わかるだろう?喉から手が出るほど欲しがられるということ。

 学校に行っている間は、自分たちの息子や娘を使って、何とか繋がりを持とうとするだろうね。皆が礼節を守ってくれればいいけれど、中には卑劣な手段をとってくる輩も出てくるはずだよ。もちろん、僕たちがそんな不埒な家の者たちには近寄らせないけれどね。」


 ようやく理解したリーシャだったが、今度は学園とはそんな物騒なところなのだろうかと不安になってくる。卑劣な手段とはいったい……リーシャの不安が顔に出ていたらしい。

 エミリアが「大丈夫よ」と言って、リーシャを力強く励ましてくれる。


「ルーカスは最悪の“もしも”を言っているだけよ。まあ、最初にきっちり抑えれば、その後は大丈夫だから!」


 しかし、その言葉の裏を考えれば、エミリア自身も最初にきっちり抑える前は大変だったということなのだろうか。幼いころより、ソルベイグ公爵の嫡男と婚約をしていたエミリアでさえ大変だったのだから、婚約者もいないリーシャはいったいどうなってしまうのだろう。

 リーシャの顔から不安の色が消えないのを見て、マティアスが口を開いた。


「大丈夫だよ。俺がリーシャの傍で守るから。」


 マティアスがリーシャに、にっこりと微笑む。当然のように言うマティアスを見て、リーシャは、はっとした。マティアスが1年前からヴィルフリートの下で魔力を解放させる鍛錬を積んでいたのは……。ただ、魔力量が多いからだとリーシャは思っていたのだが、これまでの話を聞く限り、自分の為なのではないだろうかということに思い至る。


(みんなが、わたしのために……。)


 リーシャの生みの親が既に亡くなっていることを聞いた時、リーシャは自分をひとりぼっちだと思ったが……。なんと烏滸がましい考えだったのだろうと、その思いを恥じた。

 末っ子だから……。皆が甘やかして可愛がってくれるから……。当然のように受け止めていた愛情の裏側には、これほどにも皆がリーシャのために心を尽くし、護ろうとする思いがあふれていた。

 リーシャは「ごめんなさい」という言葉が口をついて出てきそうになるのを堪えた。ここにいる誰もが、そんな言葉を望んではいない。だから、情けない気持ちと嬉しい気持ちがごちゃ混ぜになって溢れそうになる涙を堪えて、リーシャは一番の笑顔を浮かべた。


「ありがとう。わたしも頑張るわ。」




♪*♪*♪




「リーシャ、そろそろ行こうか。」


 父が、リーシャに声をかけた。

 真実を知り、家族の想いを知った昨日のことを思い出しながら、リーシャはヴィルフリートにしばしの別れを告げる。今回は、マティウスとリーシャが入学するため、父ユリウスと母マリエも一緒に向かうことになっている。


「夏には、また帰ってくるわ。」


 涙の残る顔で微笑み、ヴィルフリートに笑顔を向ける。リーシャはすっかり支度の整った馬車に乗り込み、見送りの人たちに大きく手を振ったのだった。


 第1章終わりました。第2章も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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