第十三話その十五 オンドレアだけに
んんんんん! 小説を書くのって難しい……。まるで料理みたいだ……。作るのは手間暇かかって大変だけど、食うのは一瞬なんだよな……! しかも美味しいという保証もない! 下手すると不味いと敵愾心を集めかねないし! んんんん!
サングイア・フォン・ミューヘの野望は結局の所、気難しい話だった。
彼女は想一郎のファンと言う難しい立場を楽しんでいた。結婚したいわけでも子孫を残したいわけでもない。いや、本音はそこにあるかもしれない。だが、ヴァンパイアと言う立場がそれを許さないのを彼女は語らずとも心のどこかで強く意識せざる負えなかったのである。
この、どうしようもない愛の形は明確なようで曖昧なファンと言う形で体現される。このために、彼女はありとあらゆる策をめぐらしたのだった。
彼女の父は、ヴァンパイアにとっての領土安寧を願い、ファンセイヌでいずれアーキス王となる野望を持ったアンドレ・ド・ネイ公爵と結託した。そして結果、ファンセイヌと言う国だけに留まらず、かつて勇者と魔王が激戦を繰り広げた地、ミューヘという公爵領を巻き込んでめちゃめちゃにした。
正直そんなのはどうでも良かったサングイアであった。彼女はこの様子を皮肉を込めて『臣民と言う名の社蓄連中は、屠殺場に列を成す羊と化した……』等と嘲笑する。
だが、それに巻き込まれる形をとって、ファンセイヌに潜伏し、内情の探りを入れる事となった彼女。どうやらその時に想一郎のファンとなったようである。
切っ掛けは他愛もない事であった。
想一郎の側近を装って領主部屋の衛兵をしていた時、ディンゴやナウススとラーメンについて語らう想一郎に、強い憧れを彼女は感じたのが切っ掛けであったようだ。
彼女の気持ちは彼女になってみなければわからんだろう。
父はアレである。しかも自身は邪神に組するヴァンパイア……。周りにいるのはセンアハトゥの様な変人ばかりで、アンデッドらしく日の当たる良い思い出など殆どない彼女である。
純粋なヴァンパイアであるならばよかったかもしれない。
しかし、彼女の心を乱したのは片親が人間の女であったと言う事だ。彼女は幸か不幸か、中途半端に人の心を持っていたのである。
「ふ……ふふふ……。やはり強い……。半神アリス……」
謎の多い半神アリスは容赦なくサングイアをボコボコにする。サングイアは逃げる気は毛頭ないが、ロスタエルはウッキースマイルに使った術、指向性EMPの術を唱える。
この地がヴァンパイアの支配下である限り、想一郎の日常を脅かし続けてしまう。邪魔だ。だが、この地を浄化する為には、自身の存在も、
──邪魔である。
サングイアは野望の為、仕上げにとりかかる。
「でも、婚約破棄してやったわ……ざまぁ~ないわね……!」
「ムキー!」
オンドレアの気質を見切っていたサングイアは、適当言って挑発する。
「あ、あら……? 私を蹴落とす気? アデーレにしたように? 無駄よ……」
「謎である。貴様の様な術者がわからんのか? 残念だが、貴様には術をかけさせてもらっている。飛ぶこともテレポートも出来んだろう!」
無論サングイアは知っている。
「サングイア! 積年の恨み! 我が父の仇! 領民達の祈願を今こそ達成してやる!」
ルーカス・フォン・シュワルツファウ伯爵はどうでもいい。てか、結局の所、この男は大したことは何もしていない……。だが、想一郎をサキュパスから救った功績は、サングイアを笑顔にさせる。
「何がおかしい!」
父とネイ公爵が勝手にやった事。サングイアは良いとばっちりだが、彼女はなおも悪役を演じる。
「対アンデッド一族が、アンデッドにしてやられるとはな……! アハハハハッ!」
「おのれぇぇえ!」
「それに、オンドレア? 貴方の父の死に顔は、本当に無様でしたわ! アハハハハッ!」
「「「──な!?」」」
サングイアは目的の為なら手段を選ばない。彼女は実行犯ではないが、実行犯を演じてヘイトを集める! そして遂にオンドレアがガチギレした!
「もぉぉぉう! ぜぇぇぇぇぇったいッッ許しませんわ! この糞うんこファッキンバスタードアンデッドビッチ! 覚悟なさいッッッ!!
──オンドリャァァァァァアアアアアア!!」
サングイアは遂にヴァンパイア城の頂上より蹴落とされる。サングイアは目的達成に笑顔になる。ヴァンパイア侵攻に合わせて陰った太陽。だが、その日食が今度は日の光によって陰って行く……!
サングイア・フォン・ミューヘは遂に敗れたのだった……!
『大トロ』と答えて海の藻屑となった艦隊のとある船。あとから聞けば、ロロ姉さんが捕らえ従えた、海賊の親玉が指揮する船だった。海賊の親玉は、裏切りを画策し機会を伺っていたのだ!
実は、鮪江はこれを排除したのだった……! 遠回しな……。
だが、神としての圧倒的実力差を示すことに成功した鮪江に、畏敬の念をもってヘンタイヌ男爵達がそれに従う。
ムー大陸とはどんな所だったのか? 興味を持つも、目的の為に気持ちを押し殺した一行は、遂に鎖国する日出国大和の地を東岸より上陸する事に成功したのだった!
そして、目の前に堂々と聳えるのは“富士山”……ではなく“聖木:霊峰樹”と呼ばれる世界樹である!
『おおっ! ここにも世界樹が!』
『でも見ろ! 随分形が整っていて美しい!』
『おっかさん! こりゃあ、すごいだぁ~! 頂上には雪が冠ってるべよ~!』
白い冠を頂き、裾野には四季折々の花々が咲き乱れる。散った花弁は吹雪の様に舞い、心地よい風と共に一行の心を舞い上がらせる。その麓にあるのどかな茶畑の村は、目的地“聖木の里”と呼ばれる地であった。
その中にある、こんもりとした小高い丘の上に、質素に立つ寺、永劫禅寺があった。日出国大和を心で統べる江瑠左芙の帝が、古に建立したとされる有初正しいお寺である。
ここに、“聖セイント骨ボーン”を知る、永劫禅寺昜辰という和尚が居るのだと“めんこい女の子の姿になった”トゥーナ・レクデオ・ネプトゥニウスこと鮪江は言う……!
「オジジにネギトロを作ってもらわねばならん……!」
「「「──ッ!?」」」
驚きを隠せない一行だが、更に驚くべき事が起こる。それは、出迎えた者が……
「お~い! ヘンタイヌ! 久々じゃのう! ハッハッハ!」
「──ッッ!!」
「おや? ダーリン。知り合いかい?」
その人は、紅森山輝彦三世……
つまり想一郎の、失踪していた父だったのだッ!!




