第十三話その十四 何がそうさせる!?
──ぷすぷす
「うぅ~無念……」
センアハトゥ・エミグレーベンは高飛車に笑ったものの何をするわけでもなく、気付いたらドラゴンの炎により、賑わうアンデッドの城下町ごと燃やされてしまった。無念の退場である。
実行犯であるガーストラドスは、微かに戦場から漂ってきたガーリックゴブリンの臭いに反射的にブチ切れたのであった。そんな事に気付くほど鼻の良いわけではないオンドレア一行は、サングイア・フォン・ミューヘの元へ向かう。
因みに賑わうアンデッドの城下町は、演出であり、その後一斉にオンドレア一行を襲う予定であった。が、出番はなかった……!
【サングイア・フォン・ミューヘ】
センアハトゥがやられましたか……。そして父も……。しかしこれでいい。センアハトゥは私を愛するあまり、独善的に行動しすぎました。ファンクラブも滅茶苦茶にしちゃったし……。でも、どうにも可愛い姉妹の様な友だった。
まぁほっといても、どっかで皮膚移植でもして勝手に復活するでしょう。
それより父。私は悲しい。父が倒されたことに? いいえ。
純粋な、邪神による魔法生物兵器である父は、本当の意味では死ねません。この世を形成する観測された物質を“個”とし、それは星であったり人の形であったりするわけですが、父は倒され“波”となった。
“波”とは、いわば確率や概念、難しく言うなら観測されていない電子の挙動の様な者。
……父も、いずれは復活するでしょう。しかし何時になるのかは誰にも分からない。
しかし、私にとって重要なのは、そう言った者達には少し退場してもらう事なのです。
父はヴァンパイアである事に固執し、その領土を持つことに執着した。邪神によって与えられた本能に生きている。そこが悲しい。私を理解してくれなかった……。
父の悪魔的な気まぐれで、人とのハーフとして産まれた私には、正直戦争も領土も、ヴァンパイアと言う力にも、実の所そこまで執着はない。今、私を支配しているのは、
──想一郎様のファンだと言う事。
センアハトゥをそこまで憎めず、むしろ親近感を持つのは、その点。
類は友を呼ぶ。
──私もまた、独善的で身勝手な人物であったのだ。
告白するならば、私は想一郎様を愛している……!
しかし多くの障害がそれを許さない。だが、それが良い。燃える。……そして、私は彼と一緒になりたいとか結婚したいとか、そういうのとはまた違うこの感情。つまり、何はともあれ、とにかく“ファン”として、追いかけまわすのが楽しくて幸せで仕方ないのだ……!
だが人の命は短い。
エルフや私達の様な人種は、理論上不死だが、人は僅か百年にも満たない年月で老い、死んでしまう……。
とにかく時間が無い。
私はその為に、多くの人物に退場願った。
戦争ばかりでは何れ、彼の身に危険が及ぶかもしれない。──終わらさなければ。誰かさんの陰謀で無理やり婚約とか結婚とか、考えられない。──そんな事されたら一気に冷めてしまう。ご結婚なされるなら、それに相応しい人物でなければ……!
センアハトゥの仕掛けたアデーレ。彼女には野心の持ったネイの娘をあてがう。そして、父の力で婚約にこぎつけたオンドレアには、ネイの罪を背負って婚約を破棄させる。よしよし。誠の愛で、自分の努力で勝ち得ない限り、私はそうそう許しませんよ?
しかし誤算はあった。想一郎様に相応しいのは、実はファンセイヌ王族であったエマ・リスモンであったが、彼女は現在、不埒にも、異国の王子様に夢中らしい。これは困った……。色恋と言うのは制御が難しい。
再考せねば……。
呪われし荒野のオークやゴブリンは壊滅したと言ってよい。帝国が旧領復興として占領するだろう。そしてこのヴァンパイア領もこれから滅亡し、浄化されれば、ダンジョン辺境伯領と隣接する外的危険因子は取り除かれる。
ダンジョンも危険だ。想一郎様の父、輝彦様の失踪は残念でならない。そしてそれは、想一郎様の失踪の可能性もはらんでおり、気が気でない。なので出来るだけ味方は多い方が良いだろう。そして、冒険者達にはしっかりしてもらわねば。
アンドレ・ド・ネイに私の父、これもダメ。内的危険因子として想一郎様の邪魔となる。なので、申し訳ないけど出し抜いて、退場してもらった。ついでに野心旺盛なファンセイヌ国内の危険因子達にも巻き添えを装って退場してもらった。
──全て計画通り。
しかし、アンドレ・ド・ネイ。彼は滑稽な野心家であった。本気で二、三城落として見せたら、迎撃に来るどころか、自領を燃やして逃げ出してしまった。一体それで何人の人が犠牲になった事か。仮に彼が自領を取り戻したとしても、その後が続かなかっただろう……。まぁともあれ、邪魔者は居なくなった。
そして想一郎様は、何れ“大公”となられる。
その為には、秘密裏にファンクラブを再建し、陰ながら想一郎様を盛り上げなくてはならない!
…………来たか。
さて、この顛末の仕上げにとりかかろう。
「──さぁ追い詰めたわよ! このウンコ糞ビッチ! 覚悟なさいっ!」
ヘンタイヌ男爵は、答えが見つけられず困っていた。
──当然である!
マグロのどの部位が一番うまいかなど、人の好みだろうッ!
同船するモブ達は心の内でそう叫んでいた。
だが、ひしひしと伝わる海神のマグロ愛に、愛に生きると自負するヘンタイヌ男爵は真摯に向き合わなくてはならない。
これは謎かけか? そう考えたヘンタイヌ男爵は今迄にあった事を真面目に考え思案を巡らせる。そんななか、愚かにも我慢ならずに、艦隊を形成する別の船の艦長が答えてしまう。
『大トロに決まっている! あの脂身は最高の旨味だ!』
トゥーナ・レクデオ・ネプトゥニウスこと鮪江はそれに答える。
「──確かに! あの、口の中でとろけ、旨味が広がって行く感じは、食した者にこれでもかと至福をもたらす! ──だが、ちが~う!」
──ザッバーンッッ!
『『『うわぁぁぁぁぁあああ!!』』』
鮪江は高波を作り、その船を横転させ、尾で叩きのめして沈没させてしまった!
──驚愕し戦慄する艦隊!
となれば、残された答えは赤身か!?
一瞬答えかけてしまうヘンタイヌ男爵であったが、冷静であった。
鮪江様は超ご高齢である点を踏まえ、赤身と答えたらどうなるだろう? 恐らく、
「確かに! あのさっぱりした赤身は、老いた胃に優しく、良質な海産タンパク源を体に提供してくれる! だが、ちが~う!」
──ざっば~ん!
そう想像したヘンタイヌ男爵は身震いし、やはり、どうすればと困惑した。
(選択肢は二つではない? ではなんだ!?)
ヘンタイヌ男爵は、魚を生で食べる文化がない為、本当に困ってしまった。
「魚は食わないからアタイにもわからんね~……」
ボボンギャマッチョも内陸のオークである為、出番がなさそうだ。
そこでなんと、軽率にもマザコンのモブが、自分の意見を述べてしまう!
「ママー! 僕はネギトロが良い!」
「「「──ッ!?」」」
鮪江の正答は、“中トロ”であったが(マジで好みだった!)、その発言に考え込んでしまう。
「──ぬぅぅぅぅううう!? 我は貴様のママではないぞ! この愚か者めッ! しかし、しかし……ネギ、トロ……とな……!? ネ……ネギ!? ──ネギだとッ!?」
ヘンタイヌ男爵は諦めかけた。
(もしや……! これまでかッ!)
しかし鮪江は、タイフーンを吹き飛ばし、パッと空を快晴にすると、透き通るような声で言った!
「──それ、食べてみたいぃぃッ! よし! よかろう! 永劫禅寺昜辰様の元へ案内する! ──ついて参れッ!」
「「「──おおおぉぉぉぉぉ!!」」」
艦隊は起死回生! 生を実感しながら歓喜した!
『ママーやったよママー! 俺、神の試練を乗り切ったよ!』




