第十三話その十三 老い
「よし! 着陸態勢!」
「機長! 大変です! ギア(タイヤ)が出ません!」
「なっ何だって!?」
指向性EMP。白く輝くフィー・イシルディルから放たれたのは、強力な妨害魔法。魔術師達の間では当然対策されているとされるその魔術であったが、収束させている分、その想定を大きく上回る強力な物となっていた。
通常この魔術は、術者の周囲全体を包む様に広がる魔術であったが、フィー・イシルディルはただ一人、ダウアスルだけにこれを使う事が出来たのである。
力を失い、ボロボロ落ちる刃が地面に突き刺さる。
キリンゲンスケレットは、柄から生える右足の親指の骨だけを残して崩れ去った。柄から生えた、右足の親指の骨は虚しく、力なくしなり、それはまるで猫じゃらしの様で情けなかった。
「あぁぁぁぁぁ……」
それを見て落胆の声をうならせるダウアスル。呆気にとられる英雄騎士王ローラン。フィー・イシルディルはそれを見て笑顔になり、こういった。
「ずるは許しません! これで剣一本同士の平等な戦いになりますね!」
英雄騎士王ローランはその発言に、凛として涼しげな顔つきとなり、悟った様な声で言う。
「足の親指の骨は三本ある。つまりまだ刃は三本あると言う事だ。これではまだ不公平だ。だが、英雄騎士王と呼ばれるこの私である。その位の不公平は飲み込んでやろう」
ダウアスルの腰にぶら下げた対EMP対策のルーンはプスプスと煙を上げる。しかし、それを気に留めるまでもなくダウアスルは、猫じゃらしの様になったキリンゲンスケレットをブルブル震わせ叫んだ!
「ぐぬぅ! こうなっては! 三十六計逃げるに如かず! ──フンヌ!」
ダウアスルは変化の魔法を唱えたのか? コウモリ、それとも霧だろうか? それともテレポートの魔術を唱えたのだろうか? 『せいや~』と言った感じのポーズを取るが──
何も起きなかった。
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああ! これもダメなのかぁぁぁぁあああ!?」
妙に涼しげな顔で、子供を諭すように、英雄騎士王ローランは語る。
「諦めたら、そこで負けだぞ?」
「この野郎ぅぅぅぅ!」
ダウアスルはやけくそのジャンピング唐竹割斬りをする。もはや、柄だけが大層ご立派なキリンゲンスケレットは、その先端を猛々しくブルブル震わせ英雄騎士王ローランを襲った!
が、そんなわけがなかった!
「ぐはぁぁぁっ!?」
ダウアスルの胸を貫通するデュランダールの剣。……遂にダウアスルは、英雄騎士王ローランの手によって倒されたのであった!
「だが? 肉薄すればこの呪術も使えるであろう?」
「──ッ!?」
ダウアスルは、口から黒い血を流しながらローランの首を鷲掴みにし何やら術を唱え言い放つ!
「──引き籠りニート王! 貴様がニートしていた歳月はどのぐらいだ?」
「なっ!?」
「一人の娘が立派になるくらいだ。ざっと十数年! 貴様はそれだけニートだったのだ! ただのニートであったならば、グ、グフッ! 気付けば鏡に映る“おっちゃんおばはん”の自分の姿! 『うぎゃぁぁ!』って現実に打ちひしがれるだけだが、グフフ! 貴様は王だ! 国を統べるべき国王だ!」
「ぐっ! 何が言いたい!?」
「貴様のせいで一体何人が犠牲になった? グフフ……恨み、憎しみこの世にその怨念を残した?」
「うっ!」
「その魂の遺恨を、その口で喰らうがいい! 『フロールフルッハ』──ッッ!」
「──あ! いけません!」
流石のフィー・イシルディルでさえ間に合わなかった。ローランが悲しみに打ちひしがれ、飲んだくれて引き籠ったニート期間は確実にローランの体を蝕む……。禍々しい遺恨の呪術“フロールフルッハ”は急速にローランを“九十六歳のお爺ちゃん”の姿にしてしまったのであった……!
ダウアスルはニヤついて最後に言う。
「貴様の余命は幾ばくも無い。孫の顔も拝めないだろう! ざまぁ~みろ! だが、俺は邪神と同様、個から波となって何れは復活する……グフフッ! 地獄で待っているぞ! 英雄騎士王ローラン! フフハハ! フハハハハハハ!」
ダウアスルはボロボロとベージュ色の灰となって崩れ去った。そしてダウアスル支配下のアンデッドは機能を停止した。タレダレイダー軍は最後のアンデッド軍団を飲み込み荼毘に付し勝利したのである!
英雄騎士王ローランはその場で膝をつく。九十六歳のお爺ちゃんには三十キロもある鎧は重すぎた……。もやは彼に英雄騎士王としての面影は無くなってしまった、かに見えた……!
しかしコラーゲンが足りない震える膝に鞭を打ち、英雄騎士王ローランは再び立ち上がる!
「勝鬨を上げよ! ふがふがっ!」
『『『ウェーイ!』』』
彼は、むしろ未だ生ある事に感謝し、自ら罪を認め、老いてもなお英雄騎士王としての面影を残していたのであった!
ヘンタイヌ男爵は鎖国する日出国大和を東側へ迂回するべく、ムー大陸へ向かっていた。しかし、船旅定番のトラブルと言えば、嵐であり、それに襲われたのであった。
ロマンチックな船旅も、氷河にぶつかり沈む、不沈とされた豪華客船のケースはレアケースかと思われ……。
まぁ兎も角、厳密には嵐ではない。事の顛末は
『う、うわぁ~!? 巨大なウミヘビだ!』
『あ、あれはなんだ!? まさか!?』
『ママー! 東洋のドラゴンだッ!』
「「「────ッッ!!」」」
巨大な東洋のドラゴンは細長く、うねる度に巨大な津波を引き起こす! それは巨大なタイフーンを伴って、ヘンタイヌの艦隊を覗き込んだのだった! そして雷鳴が轟くような声で喋り出す!
「──父の名は、トゥナウス・レクデオ・ネプトゥニウス! その娘である我が名は、トゥーナ・レクデオ・ネプトゥニウス! 和名を鮪江と言う!」
『『『し、鮪江!?』』』
「──ま、まさかッ!!」
ヘンタイヌ男爵は気づいた! 彼女は水龍だと! 伝説とされる世界最古の超古代海底文明の女帝にして、タレダルの神々が海の支配者! 海神なのだと!
陸がまだ、植物さえなかった時代の話。最初に世界樹が聳え、そこに文明を築いたのは海底であったのだ!
“トゥナウス・レクデオ・ネプトゥニウス” 和名“鮪太郎・神王・海神”は、始祖のエルフを除いて、世界最長年齢である一億六千万歳で、その娘“トゥーナ・レクデオ・ネプトゥニウス”現海の皇帝であり海の神は、和名“鮪江・神王・海神”で、その年齢は一億四千万歳なのである! そんな海の神様は、ヘンタイヌ男爵達へ問いかける!
「──我は貴様たちを見ていた! そしてここが最後の関門とする! 我が質問に答えよ! 回答次第では漁礁とする(魚の住処にする。つまり撃沈する)! ──マグロで一番おいしい部位は、赤身か? それおとも大トロか!?」
「「「────ッッ!!?」」」




