第十三話その七 父の仇(後編)
長くなってしまった……!
【ヘッドオンへと突入するミラ・ワーグナー】
こちらは十数騎しかいない。対する隠れていたリングドラッハ護衛のヘルバットはその倍は居た。見上げてる時は小さく見えたコウモリ軍団も、まじかで見れば人ほどの大きさを持つ化け物だ。
ヘルバットの攻撃方法は単純であった。人体に損傷を与える程握力の強い足と、剣の様に鋭い牙だ。奴らはそれで損傷させた傷から滴る血を渇望する。その為に奴らは全力で肉薄してくる。もはや体当たり攻撃と言ってよかった。
ソフィアが指から放つ魔術で先制攻撃すると、隙間の無い面状に迫るヘルバットの陣形は綻びを見せる。絨毯に跨る精鋭達はその隙を使って正面衝突を避け、縫うように絨毯を操り、さすがは歴戦錬磨の精鋭だ。きっちり躱し、忘れる事なくすれ違いざまに致命的な一撃をお見舞いする。
想一郎様は一騎、姫園は二騎、ソフィアは射撃を辞め躱すことに専念し、ジュリアは絨毯の上でバク宙をする。ジュリアは一体何がしたいのか。だが、私は未だに絨毯の扱いをマスターして居なかった。
私は正面衝突したのだ。
──ガンッ!
しかしバタバタと騒ぎ立てるヘルバットは、私に首根っこをつかまれ大暴れする。奴の牙は確かに私を捉えた。しかし、エナメル質に毛の生えた程度の牙で、私の鎧を貫けるわけがない。私の鎧は鉄薔薇の由来となっている名だたるフルプレートアーマー。
想一郎様の鋼抜真銀樋黄昏長剣や、姫園の卓袱台切等を作った名工、鋼抜鍛雷の傑作なのだ。
私は掴んだヘルバットの首をへし折り後方へ捨てる。敵護衛を突破した私達は一直線にリングドラッハ後方を追随する。ヘルバットは急旋回し必死に私達を追う。空飛ぶ絨毯は思う程足は速くなかった。だが、後続のマムルークもヘッドオンを切り抜けると、ヘルバットを待っていたのは地上からの対空砲火だった。
まるで巨大な複数の爆竹が、ヘルバットの至近で立て続けに炸裂する。
「フォッフォッフォ! AAに目覚めそうなのじゃ!」
なるほど、ナウスス様か。素晴らしいタイミングだ。そして大半のヘルバットはその爆裂の嵐に成す術もなく落ちて行った。
空飛ぶ絨毯は思う程早くはなくとも、リングドラッハは巨大な六肢の翼竜であり、その速度は更に鈍重なのですぐ追いつけるだろう。
(※前足後ろ脚と背中の翼で六肢あるドラゴンを“翼竜”と定義。また、後ろ足と腕に相当する翼をもつ鳥に似た形状のドラゴンを四肢の“飛竜”と定義)
まずソフィアが指から放つ魔法の弾丸でリングドラッハを立て続けに攻撃する。しかしその魔法の弾丸は、表面を覆う鱗を悪戯に撫でるだけで、その殆どが明後日の方向へ弾道を変えた跳弾となった。
そしてリングドラッハはソフィアを無視した。
「チッ! ドラゴンの鱗は鋼鉄並みと聞いてきたが、まさか私のマグナム魔法弾を弾くとは! アイツはミスリルで出来た空飛ぶレンガだなッ!」
ソフィアはそう悪態をついた。次に、想一郎様と姫園が追いつき名刀名槍で襲い掛かった。
流石は鋼抜鍛雷の傑作である。その鱗を斬り付けリングドラッハの体組織にダメージを負わせたようだ。僅かに悶えるリングドラッハ。しかし軽微であった。あの巨体だ。追いつきざまに切りかかる程度では引っかき傷を負わせるのが関の山と言う事か。
リングドラッハは巨体を急激に揺さぶり、脇で斬りかかる両者へ体当たりした。
「「──ぬあッ!」」
「お、お館様! これではッ!」
「くそっ! ──姫園一生! なら飛ぶのに必要な翼を損傷させて飛行能力を奪ってみよう!」
「御意に!」
二人はリングドラッハの翼の被膜を破ろうと戦い方を変えた。しかし羽ばたく翼を攻撃するのは容易ではなかった。そして私は奴の頭上から攻撃を仕掛けるべく高度を上げた。すると今度はジュリアが奴へ近づくと──
彼女は、リングドラッハの背中に飛び乗ってしまった!
「ワオ! 乗れちゃったっ!」
「「「──ッ!」」」
(何をしているッ!?)
私は思わず突っ込んでしまった! 眼前へ迫った魔術師砲撃中隊へ、あと少し飛行をしていたリングドラッハであったが、急に背中にジュリアが乗ったとなると、一気に大暴れを始める! 巨体を左右に振り、急旋回し、挙句には反転ロールしたり宙返りしたりした!
「──オォォォォォワァァァァア!!」
しかしジュリアは振り落とされる事は無かった! リングドラッハは背中の彼女を叩き落とすべく、竜尾を自らの背中に打ち付け彼女を襲う! だが彼女は見事にそれを紙一重で躱し続ける!
「う、うわぁ! 危ない! 危ないって!」
相手は敵だ。そんな事を言っても無駄。と言うか、何故乗った!? だが、そんな状況にも関わらず、リスクにチャンスを見出す癖のあるソフィアは、見事なチャレンジャー(クレイジー)であるジュリアへどうにか近づいて言う。
「ナイスだジュリア! お使いや傭兵まがいばかりするそこらの冒険者よりずっと冒険をしているぞ! ハハハ!」
「うわぁぁ! そんな事言ってないで助けてよ~!」
「よく聞けジュリア! ──おっと!」
リングドラッハの竜尾は近くに居るソフィアまで襲うが、ソフィアはそれを躱して会話を続ける。
「──そいつの鱗をめくってこのダイナマイトを忍ばせろ! 忍ばせたら、──そこから飛び降りろ!」
「はぁ!? 堕ちたら死んじゃうよ!」
「──大丈夫だ。フォースを信じろ……!」
「う、うわ~ん! フォースと共にぃ……!」
謎のやり取りをし、猛烈な空戦機動を行う中、ソフィアは何とかダイナマイトの束を彼女に渡すと、ジュリアはリングドラッハの鱗を捲って、そしてダイナマイトを束事押し込んだ。……そして遂にリングドラッハから振り落とされた。
「あぁぁぁぁれぇぇぇぇぇ~!!」
手足をじたばたさせ、自由落下するジュリア。想一郎様も姫園も察していた。無論私も。ソフィアはジュリアが離れるのを確認すると、宙返りするリングドラッハへ……魔法の弾丸を放った!
──バグゥゥゥゥゥゥンッッ!!
日食の僅かな光が、無機質な破片をチラチラと輝かせる。遂に弱点が露にるリングドラッハ。奴は強力な鱗を空中へ舞散らしたのだ! 姫園は叫び
「よし! お館様!」
「あの弱点へ攻撃を集中するぞ!」
想一郎様は指示を出す。だが、ブチ切れたリングドラッハには奥の手が存在して居た様だ。奴は大きく口を開くと
「──────ッッッッッ!!」
音のない咆哮……! それは、まるで空間を歪ませたかの様に、周囲の空気の屈折率を湾曲させ、見るからに音速で伝播して行く……!
私達はそれに飲まれた。一瞬であった……。
「こ、これは……?」
今まで人の意思を読み取り空を縦横無尽に飛んでいた空飛ぶ絨毯が、急に力を失いただの分厚い布製品となる。
──そう、空飛ぶ絨毯は、ただの絨毯となったのである。
今まで飛んでいた私達は、急に、ただ自由落下するだけとなった。
「「「──おわぁぁぁああ!?」」」
慌てふためく皆。私はちょうどリングドラッハの頭上に居た……。ならば……もはやすべき事はただ一つ。あの弱点を露にした奴の背中へ、このツヴァイハンダーを全力で刺し込む事だけだ……!
毒を食らわば皿までよッ!
──ザシンッッッ!
「──────ッッッ!」
再び音のない咆哮をするリングドラッハ。しかしこれは、奴の悲痛の叫びだと私は分かった。奴は長い首をくねらせ、背中に乗る私へ振り返り、静かに直視してきた……。仇か……もう良い。私は一矢報いた。それよりなぜジュリアの時はこうしなかったのかリングドラッハ……。
動じず私は煮えたぎるように怒り狂う目を見る。こいつは冷気ばかりではない、怒りの炎を喉の奥で輝かせた。
──ゴバァァァァアアアアア!
「「「ミラァァァァァアアアア!!」」」
──だが問題ない。
衝撃エネルギーは熱エネルギーへ、熱エネルギーは魔力へ変換され大気へ放出される。
──鋼抜鍛雷の作ったこの鎧の真価は、ここにある!
ツヴァイハンダーは焼き折れ、私は上空千メートルから落ちて行く。少しずつ高度を落としてゆくリングドラッハを見ながら……! 父よ! そして故郷よ! 私は本懐は達したッ!
私は大の字になって何処までも続く昼の星空を見る。そして自然に身を任せ、目をつぶった……。
「──おいおい、転生にはまだ早いぞミラ」
「とべねぇ~絨毯はただの絨毯だねっ!」
「…………」
私は空を飛んでいる。力を失ったはずの絨毯で。この声はソフィアとジュリアか……。
「……なぜこの絨毯は飛んでいる?」
私の質問にソフィアは顔を痛みで歪める。
「あちちち……その質問だが、魔術師には愚問だな」
そしてソフィアは、被っていたカウボーイハットを取ると、プスプスと煙を出す石の様な物を見せてきた。
「あつつ……まさかアイツがあんな強力なEMPを使うとはな。だが、忘れちゃいけない。私は魔術師だ。そう言うジャミング関係は無論、対策済みなわけであってだな! ハッハッハ!」
「はぁ……私より想一郎様を優先すべきではないか」
「──それも問題ない! どうやら我らが国王陛下は、制空権を確保したらしい!」
「やったねっ!」
「──おーい! 生きてるか~?」
「やっほ~! 生きてるよ~!」
「制空権を確保する者として、皆の者よ! 申し訳ない! しかし、ヒーローは遅れた頃にやってくるのだ!」
そういう国王陛下の跨るペガサスに、同乗し安否確認する想一郎様の姿が……。ふぅ……姫園も助け出されていた様だ。
「ペガサスに跨る侍と言うのも、コラボとしては悪くはないのではないか? どうだ某、譲ってはくれまいか?」
『お、俺のペガサスは渡さないぞッ!』
「冗談だ! ハッハッハ!」
私は本懐を達したと言ったが、思えばまだ本懐を達したとは言えない。何故ならば、まだ強大な敵が残っているからだ!
☆
『おい! あのドラゴン! 山の向こうに落ちて行くぞ!』
──ズシーン!
『『『ウェーイ!』』』
「よっしゃやりやがったぞ! これで制空権はこっちのもんだ! ガハハ!」
『──あぁぁぁぁぁぁっ! EMP対策忘れてたぁぁぁ!』
「んんんん~……魔術を心得る者としてEMP対策を忘れるとは度し難いのじゃ。これじゃ金貨六万枚は渡せないのじゃ」
『いやいや! 契約は既にッ!』
「そうじゃのぅ……金貨千枚くらいかのぅ……」
『いやいやいやいやっ! じゃあ四万で手を打ちましょう!』
「はぁ~やれやれ。じゃあ二千でどうじゃ?」
『まっ待ってください! に、二千はちょっと……普通二万でしょ!』
「はぁ……これは……大規模リコールかのぅ? リコールとあっては、全商売相手に大損害じゃのぅ……」
『わ! わ! わかりました! じゃあ三千ですっっっ!』
「──宜しくなのじゃ!」
『くぅぅぅぅ……!』
南から照り付ける太陽が、“南壁”という字をギラギラ輝かせる。ヘンタイヌ男爵が次に訪れたのは東洋のドワーフの地である。一見岸壁しかなさそうな場所に、突如として現れる、ひび割れの様な都市。ここは岸壁横穴の国、ナントゥオン。ベトナム風のドワーフ国家である。
ドワーフとエルフは喧嘩する程仲が良いという言葉が似合うが、ドワーフにとってのオークの存在は、ガチで憎しみであり、入港を拒否されるのは間違いなかった。
しかし、人の背丈から三分の二か、半分ほどしかないドワーフから見て、三メーター二十四もあるボボンギャマッチョは、どちらかと言うと巨人扱いであった。その為、他のオーク達を船に置いておけば、入港許可が下りそうだったのである。
ボボンギャマッチョは余計な事を言わない様に体操座りして黙っていた。
(んふ~……)
『だが、だがだ! とは言えだ! 今は東南と戦争中だ! ただでは入港させんぞ!』
「長居するつもりはない。ただ、物資の補給がしたいだけだ」
『それだってどうかな! スパイの可能性は拭えないね!』
聞けばこの国、どうやらヘンタイヌが訪れた国の最初の方の国、ドワーフ連邦の同志ドワーリンの煽りを受けて、東南は共産主義、南西は資本主義と分裂して戦う内戦中の国であったようだ。
『うわ! 内戦中なのかよこの国』
『こういうケースは大抵泥沼化してるんだよなぁ……』
『でもメー(ベトナム語でも母はメー)。南と言うのは両者譲らないんだね!』
『おうよ! 当然だ! どちらが真の南に相応しいか喧嘩してるのさ! よしわかった! そこの変態っぽい奴。お前が頭領だな? スパイは大抵飲めばゲロっちまう! 俺と酒飲み対決して勝てば通してやろう! グワハハハハ!』
皮肉な事に、ヘンタイヌ男爵はドワーフ連邦と同じく、酒飲み対決で切り抜ける事になったようだ。
「望む所である……!」




