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ダンジョン辺境伯爵と公爵令嬢  作者: もやい
第二章
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第十三話その三 空の槍

【冷静に空中戦を眺めるフィリップ王太子殿下】


 話に聞いていた通り、凄まじい威力を見せた魔法による砲撃。


 実際に見てみれば、その有効性は目を見張るものがある。通常王宮や高級な爵位を持つものでさえ数人いれば良い貴重な魔術師を、あれだけ集めて運用する事が出来るのは、魔法大学や冒険者が多く集うジェンヌならではではないだろうか。その点において、地味ながら名を馳せる鳩羽鼠のナウススの存在は大きい。


 だが、今までに幾つかの戦闘でその有効性を示してきた。


 敵もそれを警戒して対策を講じているのは当然だろう。大多数の細々としたコウモリ軍団はその大半をあの爆発で力を失い落ちて行ったが、闇魔導士による魔法の障壁でガーゴイルの様な大き目の化け物はそれを耐えきったのだ。そして臆する事無く向かってくる。


 父ローランが指揮する近衛ペガサス航空騎士団は制空権を確保するべく迎撃へ向かう。


 白馬に巨大な羽毛の翼をもつペガサスは、空飛ぶ地上生物としては非常に快速で乗り心地がよく美しい。だが、それに跨って戦う事にはあまり向いていない。何故ならばその背中に生えた翼が邪魔となり空中での近接戦闘が難しいのだ。


 グリフォンやドラゴンと言った空飛ぶ本体が高い戦闘力を有して居れば大きな問題にはならないかもしれない。だが、ペガサスは言うならば空飛ぶ草食動物であり、その戦闘方法は蹄による蹴り程度しか持ち合わせない(人からすれば蹄による蹴りも馬鹿にならない威力ではあるが)。その為、騎士が戦闘の全てを行わなければならない。


 さらに騎士の国と言う伝統が戦闘の難しさに拍車をかける。


 保守的な騎士達は、飛び道具の使用を伝統的に制限してしまい、あくまで騎士らしく馬上槍で戦おうとするのだ。因みに腰にぶら下げた片手半剣(ハンドアンドハーフソード又はバスタードソードとも言う、片手でも両手でも扱える剣)は空中戦では滅多に使用されない。


 彼らは空中戦での馬上槍試合を有利にするため、盾は小型化して背中に背負い、長大化した馬上槍ランスを両手で扱うようになった。その長さは紅森山軍に新設されたマケドニア式ファランクスの槍、長さ6メートル以上にもなるサリッサの槍に匹敵する。そしてそれを特徴的にしているのは、穂先は鋭く細長いミスリル製の刃を備えている事だ。


 敵の翼を切り刻んで飛ぶ能力を奪う為に使用する。


 ミスリルは硬く柔軟性に富み錆びない、非常に優秀な金属ではあるのだが、武器としては軽すぎる。しかし、空中戦に於いてそれは逆に大きな利点となっている。


 これを空の槍、“ランス・ドゥ・シエル”と皆は呼ぶ。


 かつて父は、そんな槍を持つ近衛ペガサス航空騎士団を率いて魔族相手に空を制し名声を高めた。そして遂には英雄騎士王と呼ばれるようになった。が、蓋を開けてみれば反逆者アンドレの陰謀によってミューヘ公爵領へ誘引されたダウアスルとその娘サングイア。父は娘の事件が起きるまで当時積極的であった奴らと何度も戦う因縁の敵であった。


 ヴァンパイアに支配されてもなお美しかった大地は、父が臥せって徐々に魔の大地へと変貌を遂げてしまったという。それを取り戻すべく、自分の失った、そして失わせた時間を取り戻すべく父は、その近衛ペガサス航空騎士団を率いて真正面から中空突撃を敢行した。


 ペガサスの騎士達は敵の下へ潜り込もうとする。


 突撃の標的が下に居ると死角となり補足し辛く、さらに槍の刺さった敵と刺した騎士との間で槍の柄が、空中を突進するペガサスの障害となってダメージを負わせてしまう危険性があった。騎士にとって飛ぶ能力を有するペガサスを失う事は、即墜落死を意味する。その為、出来るだけ敵を頭上ですれ違うように下へ下へ潜り込もうとするのだ。


 だが敵はそれを知っている。


 空を飛んでいるのにも拘らず、お互い低空を譲らず急降下し合う。両軍が交錯する頃にはもはや地上すれすれであった。中には上下反転する者もいたが、命綱はあるとはいえ、非常に危険な行為に変わりなく、実行する者は稀であった。やっても旋回時の斜め姿勢からの攻撃であった。


 しかし、父はそれを行う稀な人であった。


 すれ違った魔物の翼は、父の振り切ったランス・ドゥ・シエルにより、中程から切断される。正面衝突する者、切り抜ける者。急降下の勢いも相まって、ヘッドオン(真正面での突撃し合い)での敗者はそのまま地面に叩きつけられ壮絶な墜落死を迎えた。


 下を取り合うなら最初っから地面を走ればよいのではないか?


 いや、これはあくまで制空権の確保である。両者切り抜けた後は高度様々で、その制空権を確保すべく旋回戦へと突入するのである。これが本番であり、両者は優位となる敵死角から襲い掛かろうと決死の駆け引きが始まるのだ。

 齢八歳にしてこの文章である。ギャグも無ければ台詞さえもゼロである。しかしヘンタイヌ男爵はそんなこと知りようもなかった。


 彼はモンスーンで航行不能となった船を修理する為、最寄りの陸地へ向かう。すると出会ったのは人間ではなくハイエルフ達であった。いつも通り上から目線で鼻につくが、結局なんだかんだ助けてくれるハイエルフであった。


 その地はカイアオストと言う。大昔の第一次大航海時代(6600万年前)に入植したハイエルフ一族の子孫達で作られた小さな入植地である(6600万年前の話なのに未だ入植地と言うのか?)。


「ん? なんだこれは」


 ヘンタイヌ男爵はその浜辺で、妙な手のひらサイズのツボを拾う。そして興味を持ってそれを開けてしまう。すると瞬間炎に包まれた赤黒い翼の生えた筋肉マッチョの魔人が姿を現したのである!


「──我はイフリート! 貴様ら人間共の猿が、神々にお供えする世界樹の実を食べてしまったせいで、我はエデンを追放された! 挙句に興味本位でその壺に入ってみたら、蓋を閉められてしまった! あああぁぁぁぁぁぁああ!! むちゃくちゃイライラする! お前ら全員焼き殺してやるぅぅぅぅううう!!」


『『『──ッ!?』』』


 驚く船員、驚愕するカイアオストのハイエルフ。ハイエルフによれば彼はルシファーと並んで、天界から蹴落とされたとされたこの地域の堕天使だったのだ! しかしボボンギャマッチョは妙に冷静だった。


「はぁ!? お前みたいな巨体がその壺に入っていたわけないだろう? この嘘吐きめ! 馬鹿か? アタイみたいな馬鹿でもそれくらい分かるねぇ~フハハハ!」


「何だとッ!? このくそオークッ! 純度の高い魔鉱石欲しさに魔鉱石人を虐殺し、邪神によって醜い姿にされた頭の悪いくそダークエルフの子孫が良く言ってくれるわッ!」


「はん? そんなの知ったこっちゃないね! お前は遠い先祖が何かしたからって一々その子孫代々まで罪をあがなえと言うのか? 馬鹿じゃないのか!? 笑える! ただ回収しきれなかった不良債権を無理やり言いくるめて回収しようとする闇金みたいな言い草だね! ならその借金、遺産放棄でサヨナラバイバイだね! ハハハ! どうせ腹いせに無関係な人間に当たり散らしてるのだろう? ウザいからやめろやアホッ! 第一、お前がその手のひらサイズの壺に入っていたなんて絶対にアタイは認めないからね! 堕天使イフリートだぁ? それも嘘なんじゃないのかねぇ~? フハハハハ!」


「ぬぬぬぅぅぅぅぅぉぉおおおおああああああ!! 何だとぉぉぉぉおおおお!! ならその壺に入って見せてやるッ! 我が魔術の前にそんな事、何の造作もないのだぁぁぁぁッ! ──ふんぬッ!」


 ──カポッ。


 ボボンギャマッチョはイフリートが壺に入った瞬間蓋を静かに閉めた。そしてフハハポーズでドヤ顔になった。


「こいつ、ホントに馬鹿なのかねぇ~?」


「──アアアアァァァァァ!!? しまったぁぁぁぁああ!!」


「おいそこの。蓋を溶接してしまいなさいッ!」

『へ、へいっ!』


「──やぁぁぁぁめぇぇぇぇろぉぉぉぉ!!」


『お、おおう……なんだったんだ……』

『しかし大した魔術だ……出る事は出来ないが……』


『ママー! 寧ろオークの先祖がエルフだったなんて驚きだよ!』

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