第十二話その六 ダバダバダ~
あぁ! 頭パンクしそう!
【フィリップ王太子殿下】
──ジュリアは天然か。白だな。
「君は自由だ」
「えっ!? やったー! ちゃお~!」
「うむ」
僕はフィリップだ。引き籠りニート王ローランと現アクティム帝国皇帝の第二皇女(故)の息子で、ファンセイヌ王国王太子だ。いずれこの国を統治する事になるだろう。
今は様々な罪や陰謀を企てた容疑者達が拘束される一風変わった高級独房を練り歩き取り調べをしている。一体だれが考えたのか、王宮の一角にはやたら豪華な個室独房が存在する。高級な容疑者や捕虜は一通りこの中にそれぞれ居て、僕は父の命と個人的好奇心から取り調べをしている。
僕は幸運だ。物心着いた頃には父は既に引き籠りニート王であったが、そのおかげで小さい頃から諜報戦の重要性に気付き、勝手に父の資産を使って国内外にスパイ網を形成するに至った。
(※どうしてそれが諜報戦の重要性に繋がるのは作者でもわかりません。この子は神童なのです)
父は姉上が暗殺されたと信じて引き籠ってしまった。だが知れば知るほど姉上は暗殺されていなく、むしろ保護されたのだと現在に至る。
エマ・リスモン。元の名をエルネスティーヌ。
因みに拉致して無理やり脱がし、局部に近い王家の遺伝を覗き見たと言うのは、王家を悪く言うフェイクニュースの印象操作だ。噂を流したのはネイ家の息のかかった身内の貴族であった。大丈夫。既に尋問し吐かせた後、粛清してある。
問題ない。姉上にはちゃんと事情を話して同意を得た後に、適切な女性がそれを確認している。
「姉上。次は彼女だがどう思う?」
「あはは……どうって……」
心ここにあらず、か。姉上は残してきた孤児院の子供達が気がかりなのだろうか? しかもいきなり孤児院出の冒険者から王女様になられたのだから何をどうしてよいか分からない様子。だが礼儀作法は多少知っていた様だ。聞けば紅森山ダンジョン辺境伯より少し教わったのだとか。
ふーん。
で、今取り調べてる女はエリザベス・アーチャー。疑いようもない。いや、疑うべき女だが、これはあくまで儀礼的なものだ。
──彼女は僕のスパイなのだ。
「大儀」
「えー? もういいのー?」
「引き続きよろしく頼む」
「はいはい……」
エリザベスは鍵を開けた独房から出ようともせず、ベットに再び横たわる。そんな彼女は色々と情報を集めてくれた立役者だ。お蔭でこうして姉上も見つけられた。だが、彼女の諜報力にも限界があるようだ。確信に迫る情報は彼女からではなくジェンヌでイタ飯屋を経営する裏社会のドン・ナポリターノ自身からであったのだ。
彼女にはまだ役割がある。なのでここに放置する。
で、次はロザリー。彼女はずっと黙秘を貫いているが、散々裏で陰謀を企てた父であるネイ公爵の影響下にありながらも自身のもつ正義信念を貫いた様だ。いくら探っても悪意のある罪は見つけられなかった。だがもうしばらくここに居て貰おう。
僕はロザリーの独房を素通りする。次はオンドレア。
「ムキー! ムキキー!」
──ガシャガシャ!
厳重に施錠された独房のドアを無駄に揺さぶる女。
「お、落ち着いて下さいオンドレア様」
知り合う姉上がそれをなだめる。彼女はネイ公爵の次女……。そしてこの人は馬鹿だ……。余罪は沢山あり様々な実行犯の疑いがある。だが、当時幼い私の姉上に対する暗殺未遂の件に関してだけは白。何故ならば彼女は当時まだ幼く、犯行のあった日時には、近くの森へゴブリン退治だとか言って出向き、当時紅森山家当主だった輝彦三世とその息子、想一郎二世によって救われている。
「アンドレ・ド・ネイ公爵の次女オンドレア。君にはこの斧をお返ししよう。確か、婚約破壊丸とか言うフランシスカ(斧)だったな。ここに立てかけておくぞ」
僕は独房から見える様に、そして手が届かない場所にこの斧を立てかけた。父は英雄騎士王に戻られたと言われているが、僕にとっては引き籠りニート王だ。お互い毒親を持つ身。せめてもの情けだ。と、言うのは嘘だ。ダンジョンで姉上を危険にさらした罪はしっかり味わってもらう。
──この斧はむしろ見せしめだ。
「あらあらぁ~!? それは私の宝物ですわ! 無くしてたと思ってたのにっ!」
「森で助けてもらった時、想一郎に貰ったこの斧が宝物か……」
(なるほど恋煩いの原因だな。で、ヴァンパイア領から流れてきた物品なのだが……)
「当然ですわぁ~! で、私は全てにおいて潔白ですわ王太子殿下!」
「その点においては今の所、否定させてもらう。仮に君が純真無垢であっても、君の父は相当な陰謀家だ。君は父の影響下で多くの罪を犯している疑いがある」
「え!? そうなぁ~! あんまりですわ! 王太子殿下ぁ~!」
「それと君の父であるネイ公爵の罪は確実だ。次いでで非常に悪いのだが、君はその次女である為、この国の要職であるダンジョン辺境伯との婚姻は不適切と判断された。
──よって“婚約破棄”を強制する」
「──ガァァァァビィィィィィィィィィンンンンンッッッ!!!?」
彼女の心情に痛恨の稲妻が走ったかの様に見えた。髪の毛が一気に白くなる勢いだ。
「フィリップ王太子殿下? そんなにサラッと言うなんて……」
「姉上、そんな余所余所しい。フィリップと呼んで下さい」
こいつは取り敢えずそこで暫く打ち拉がれて居ると良い。ある種のショック療法だ。まだ役目がある。で、最後はアンドレ・ド・ネイ公爵か……。高級独房等論外だ。姉上を適当な理由を言って何てこと無い別件を頼むと、僕はゴキブリだらけのジメジメとした薄暗い地下独房へ向かった。……そして禍々しいオーラを放っているこいつ。すべてはこの逆賊のせいで……。
(おぉぉぉぉのぉぉぉぉれぇぇぇぇッッ!)
逆族の拘束には少々犠牲が伴った。が、作戦通り現在ここに閉じ込める事に成功した。逆賊の罪は確実だ。複数の物的証拠も確保しており裁判でも有罪が確定している。逆賊謀反人であり多くの許しがたい余罪、そして姉上に手を出したこの逆賊を、英雄騎士王に戻られた僕の父は決して許さないだろう。無論僕もだ。……間違いなく斬首である。
だが、こんな内輪揉め中の好機にも拘らず動きを見せないサングイア・フォン・ミューヘ。……もしや。
なら……
大裂海南のシッシア大陸を迂回しようとするヘンタイヌ男爵。リアルではアフリカ南を迂回する航路の先端は喜望峰と呼ばれているが、この世界での喜望峰は、ハイエルフの冒険家によって“シッシアの絶望峰”と呼ばれていた。リザードマンに野生の獣人達、そして人間と対立的な巨人族の領域と長く続くこの辺りでは、物資の補給を行うのが困難で、しかも海流も天候も荒れに荒れまくっている場合が殆どだったのだ。
では男爵は酷い目にあったのか?
大丈夫であった。
というのも迂回を決心してからすぐに、シッダール軍閥と対立する、アレクースのサラ・ア・ディール軍閥と接触したからだった。この軍閥は、まるでエジプトを拠点にしているような一大国で、ミイラだらけの墳墓群を領有している。
王位を名乗る軍閥長は落ち着きながらも猛々しく言う。
「海路を封鎖するシッダール軍閥には我慢ならない。穀物と乳香の海上貿易を邪魔している。近いうちに大艦隊を率いて海の藻屑となるだろう……!」
「ではその時通行を」
「──だが条件がある」
「……それは?」
「墳墓に行ってある秘宝を取ってきてほしい……!」
「──なんとッ!」
「ウガァァァァァアアアアア!! 腕が鳴るねぇ!!」
『うぉ! トゥームレイダー!』
『トレジャーハンター!?』
『ママー! ミイラに追い掛け回される墓泥棒の絵図らしか思い浮かばないよぅ……!』




