第十一話その九 うわぁぁああ!
【オーク軍を追い詰めた想一郎】
敵右翼騎兵を突破し後方へ展開した姫園。それに追随し側面に展開したジュリア。それにミラ隊が参加し包囲された敵右翼の戦列は、オークと言えども耐えられず崩壊した。あとは中央を抑えるだけとなった所で、あのボボンギャマッチョは……
「う、うぐっ……ぶ、武器を破壊するとは……!」
──遂に地面へ膝をついた!
彼女を完膚なきまでに叩きのめした俺の妹アリス。彼女は立つ事も出来なくなったボボンギャマッチョの前に仁王立ちする。そしてオンドレアはガーストラドスに跨りながら言った。
「オ~ホッホッホ! 無様ね! うんこビッチ! さぁ観念なさい! オ~ホッホッホ!」
戦況が不利になっただけでは本来オークは投降しない。それでも勇猛に死を選んだオークやバターゴブリンはちらほらいたが、しかし退路も抑えられた上、猿山のボスでもあったボボンギャマッチョがこうなっては、オーク達にもう戦う意思など無に等しかった。
遂にオーク軍は武器を捨て降伏の意図を見せる……。
「オ~ホッホッホ! 貴方の軍隊ももう終りね! 想一郎様を攻め、寝取ろうとした罪は万死に値するわ! さぁどうしてくれようかしら? オ~ホッホッホ!」
アリスにトドメを刺す動きはない。するとオンドレアはガーストラドスを降りてひとしきり高笑いをすると、全力でスパルタキックをお見舞いした。……だがここに地獄の門はおろか、蹴落とす崖もなく、そして彼女の蹴りにボボンギャマッチョはびくともしなかった……。
(何故蹴ったのか? 謎である……)
(プフフ……蹴落としたかったのでしょうけど)
「──アイタタ! ちょ、ちょっと! なんでビクともしないのよっ! バカー!」
「ぐっ……くそ……!」
と、そこへ、ヘンタイヌ男爵とヘンタイヌ男爵のハンカチを持つオークが現れる。
『男爵……ハンカチを頼って遂に来たぞ……』
「生きていた……! 生きていた! 愛戦士オークよ!」
ヘンタイヌ男爵はハンカチを持つオークと熱い涙の抱擁をした。俺は、俺はとにかくそれは漢同士の熱い友情のハグだと自分に言い聞かせた。おそらく……おそらく多分!
──だが、そんな努力もむなしく、男爵はそのオークと熱いキスをした……!
「「「────ッッ!!」」」
(な、何をしている!? 血迷ったか! 謎すぎる!)
(う、うわぁー! マジですかー? これ! キモすぎるー! プフフ!)
周囲をドン引きの災禍へ押しやった変態男爵……いやヘンタイヌ男爵は、今度はボボンギャマッチョを見る。まさか……オンドレアは焦って発言するが
「ちょ、ちょっと! 何する気!? これは私の獲物よ!」
「申し訳ございませんお嬢様。しかし私にはやらねばならぬ事がある故……」
「ちょっと!」
男爵はそういって立ち塞がるオンドレアを押しのけ、ボボンギャマッチョへ向かう……。なんだかこう……顔だけでもぎこちなく抵抗するボボンギャマッチョ。しかしそんな彼女に男爵は耳元で優しく愛を囁くと強張っていた彼女の力は徐々に失われ……
「おいおいおい! 想一郎まさか!?」
「な!? 何をしておるのじゃ!? ヘンタイヌ!」
「「「──ちょ、ちょっと!? うそでしょ~!?」」」
──ズキュゥゥゥゥゥゥンッッ!!
「「「──う、うわぁぁぁぁぁああああ!!」」」
──そしてボボンギャマッチョは頬を赤く染めた……!
あ、あ! こ、これは! やばい! 衝撃が走る! もちろんオーク軍にも走る! そしてハンカチオークはそれを見て勝ち誇った顔をすると、胸を張り、どこまでも行き渡る声で群衆へ言い放った!
「──見たかッ! 世代交代はなされたッ! 我らが酋長レディ・ボボンギャマッチョは、ヘンタイヌ男爵によって今! 打ち倒された! 我らが掟によりこれに異論はあるまいッ! さぁ称えるのだ同胞よ! “新”酋長ヘンタイヌ万歳! ロード・ヘンタイヌ万歳! ──ウガァァァァァアアアアアア!!」
『『『──ウガァァァァァアアアアア!!』』』
「「「……あ……あ、え……?」」」
──ヘンタイヌ男爵はテリヤキオーク軍の残党を傘下に収めた……!!
☆
「……想一郎様……と、言う具合に旅してきたのです」
「な、なんじゃと!? そんな事があったのじゃ!?」
「ガハハ! こりゃすげぇや! 全く持って前代未聞だッ!」
俺達は、ヘンタイヌ男爵から長い旅と聖セイント骨ボーンについての情報を一通り聞いた。そして現在、戦闘の収拾もある程度に、ジェンヌの港でさらなる謎を解明するために出港しようとする男爵。
「ヘンタイヌ男爵……行ってしまうのか……すまん。俺の為に……」
「いえ、むしろ申し訳ございません想一郎様。これは単に私個人の愛の暴走故にございます」
(愛……)
「──それでは、想一郎様。そして皆々方。“妻”が待っている故、これにて……!」
ヘンタイヌ男爵は“ヘンタイヌ男爵夫人”となったボボンギャマッチョの待つ船へと乗り込んだ。どうにも頭の中で整理がつかない……が、敬礼し手を振り船出を祝い、旅の無事を祈る俺達は彼等を見送った……。テリヤキオーク軍の残党はヘンタイヌ男爵と共に、ロロ姉さんの拿捕した海賊船を修理改修した艦隊で水平線へと消えて行く……。ロロ姉さんもそれを見送り次の貿易へと忙しくした。
「で、想一郎。衝撃的な出来事だったが……あのゴブリン達はどうする?」
オーク軍が投降してしまったために降伏せざる負えなかったバターゴブリン軍の残党。ディンゴが真面目な顔で俺に彼らの処遇を訪ねる。帝国を模倣するならば全員……。しかしオンドレアが言う。
「ふ~ん……そうですわねぇ~……? あの面倒でニンニク臭いゴブリンに、自由を求めべちょべちょしながら放浪してたゴブリン共を引き取らせれば、もしかしたら良い取引が出来るかもしれませんわ? いかが? ──これぞ戦わずして勝つ! オ~ホッホッホ!」
「そうか……少し考えてみても良いかもな」
「ガハハ! そううまくいくか?」
「あのバター共は相当にわしらを恨んでおるからのう……」
『──想一郎様! 一大事です!』
「ん? どうした?」
『──ヴァンパイアであるサングイア・フォン・ミューヘが、我らがファンセイヌへ宣戦布告してきました!』
「「「──な、なんだって!?」」」
『現在サングイアはネイ公爵領へ進軍中! そして!』
「──そして!?」
『帝都アクティウム教皇領から発布! 『デアエ・ウルト』──ッ! 聖戦ですッッ!』
「「「────ッッ!!」」」
『お前が一等航海士、で俺は~……甲板戦闘員だ! で、お前は?』
『あ~俺か? 俺は船に乗り込む御婦人方の相手でもしようか? ハッハッハ!』
『バカ! 残念だったな! この船は野郎共ばかりだぜ!』
──ゴス、ゴス、ゴス。
『──ヨォ! “夫”の船はこれで正しいか?』
『『『──な、何故ここにボボンギャマッチョがッッ!?』』』
追記:
デウス・ウルト(神がそれを望まれる)の“デウス”では、男神一柱となってしまうそうです。なので多神教で主神が女神達であるタレダル教では女性複数形?の“デアエ”が適当かと思って使用しました。




