第一話Cの1 想一郎とオンドレア
『ドォリャァ!』
『ウッキー!』
『ガァ! 目に! 目にバターが!』
『ギョエー!』
『ドッワァ! 大丈夫か! このキッチンペーパーで拭くんだ!』
『すまねぇ! 助かる! ドリャァ!』
『グギャァ!』
『くそ! 今度は股の鎧がケツに食い込んで──ッ!』
────。
数人の騎士が全力疾走する超高級そうな馬車を必死に守り、狼に乗ったゴブリンがバターでベチョベチョになりながら果敢に喰らいついている。そして最後の一匹が馬車から放たれた矢で撃ち落されると、主人の失った狼は、
『アオンッアオンッ』
と鳴きながらその場を去った。
……そして馬車は、500メートル程ある両軍が対峙するド真ん中で、車輪が転げ落ち停車した。
…………。
我々は元より、対陣するゴブリンも無言になっている。すると馬車から顔を出していた少女らしきとはまた別に、新たに女性が屋根へよじ登りあたりを見渡した。
「ふぅー! 今ので最後ですわね? 中々しぶといゴブリンでしたわ! でも、褒めて差し上げますわよ! 父が大元帥であるネイ公爵の娘、このオンドレア様が褒めるのですから、とても光栄ですわね! ま、“死んでしまっては意味がない”でしょうけど!」
──バーン!
「オ~ホッホッホ!」
馬車の屋根の上で一人空気を読めずにドヤ顔で高笑いする女性……。しかし護衛の騎士達はすぐに現状を把握し唖然としている。
『お、お嬢様……これは少々、面倒になったかもしれませぬ……』
「あらぁ~? 何を心配なさっているのかしら? ゴブリンなら……あっ……!」
『『『ギョエギョエー!』』』
ゴブリン達は一斉に鬨の声を上げた! ここから見えるだけでもゴブリンの数はおよそ2,3000! 鳩羽鼠のナウススが俺に言う。
「想一郎……。これは厄介事になったかも知れぬぞ……」
だがディンゴは顔をしかめて言う。
「くっ……しかしここは戦場……」
しかし“のじゃ婆”は食い下がる。
「馬鹿な! あの馬車を見てわからんのじゃか!?」
ん? の、“のじゃか”?
「ああ~……あの超高級そうな馬車か? ん~アレを買う金で何人の冒険者をどれだけ雇える事か……」
「そうじゃない! あの超高級馬車はネイ公爵の馬車じゃ! あの紋章は間違いない!」
「だからなんだ? 戦場のど真ん中に来た馬鹿が悪い! 救いようがない……が。……くっ!」
(馬鹿とはいえ、人質に取られたら面倒だ……!)
ディンゴは納得した。俺はナウススに助言を請う。
「ナウスス」
「想一郎! 救わねば! ただでさえネイ公爵は厄介な奴じゃ! これは何らかの姦計かも知れぬが、VIPに何かあったら尚の事不味い! どんな“いちゃもん”付けられるか分からんぞ! 奴は今時居ないチンピラヤクザみたいな奴じゃからな!」
『『『ギャァァアァー!』』』
するとバターゴブリン軍が一斉に騒がしくなる! ディンゴが叫ぶ!
「おい! なんてこった! 想一郎! ゴブリン共が馬車へ向かって突撃を開始したぞ!」
「なっ!?」
ナウススは、これはヤバイという顔をした。
──俺は決断する!
「よし! ──エロワ・ド・ヘンタイヌ大佐! 突撃開始だ! あの馬車の方々を全力でお守りするぞ!」
──シャッキーン!
俺は愛剣を勢い良く抜き放ち叫ぶ!
「ウィー! マ・ロウト! 我が愛に誓って! ──第一騎兵連隊! 突撃開始!」
──パッパラパパパパァ~!
第一騎兵連隊:辺境騎士団の突撃準備のラッパが鳴り響く!
「──ディンゴ! ナウスス! 後は任せるぞ!」
「おうよ!」
「任せるのじゃ!」
「──第一騎兵連隊! 俺につづけぇぇぇ!」
俺は剣を頭上で回しながら第一騎兵連隊の先頭に立つと、陣右翼より馬車へ向かって迂回突撃を開始した!
「ダッソォォォォ!」
──ゴゴゴゴゴッ!
重騎兵の蹄が重く戦場に鳴り響く!
『ウギャァァア! あのメスを確保するんだぁぁあ!』
『『『ギャアギャア!』』』
『確保したら人質にして交渉を和平を有利に持ってくんじゃぁぁあ!』
『『『ギャアギャア!』』』
『もしくはムフフしまくれるぞぉぉぉおお!』
『『『ギャアギャア!』』』
『……お前らギャアギャアしかいえんのかぁぁぁああ!?』
『『『ギャアギャア!』』』
追記:
思えば「ダッソォー!」と言われてもわかりませんよね。
私はフランス語で「突撃!」という意味だと認識して使っております。




