第十一話その三 ハンカチーフ
【ヘンタイヌ男爵を頼り、移送される奴隷オークの一団】
『──カーッペ!』
柄の悪い帝国軍兵士に唾を吐きかけられ言われる。
『オークの癖に……奴隷ですんでなお人に頼るとはな……!』
『帝国の奴隷制は寛大だぞ……それだけで多少命の保証を得たと言うのに』
『ま、作業中の“事故”で死ななければの話だがな!』
『『ハッハッハ!』』
『──おいやめろ。俺達も元はと言えば奴隷だろ。こうやって兵士となり、そして兵役を終えれば土地と自由と栄誉も得られ、そして市民権まで与えられる』
『はは! 下士官殿は社畜の鏡だな! 最後まで生きていればの話だろ』
『過去例は幾らでもある……!』
『しかし……うちらはまだワンチャンあっても、オークはどうなるかな?』
『…………』
『とにかく見張ってるぞ? 少しでも妙な真似してみろ……ぶっ殺すからなッ!』
しかし外が騒がしくなる。
『──敵襲! 敵襲!』
『『『──ッ!』』』
俺達は、通常人間の付ける手枷よりも厳重に縛られどうしようもなかった。喋る事も出来ない。ただひたすら一方的に言われっぱなしで沈黙を守るだけの奴隷となった俺達オークの一団。俺達はそれでも運が良かった。殆どのオークは“人間でさえ”まず生きて出て来る事は無いとされる過酷な鉱山労働を強いられた。
だが俺は運よく、珍しい物好きのとある元老議員に買われた。俺はまずその人柄を見てから、意を決して隠し持っていたヘンタイヌ男爵のハンカチを見せるとその元老議員は言った。
『ふんふん……そうか……他に仲間は居るか? 何人いる? 全員の名前を言え』
もしかしたら殺されるかもしれない。だが、どっちみち生きて帰れる見込みはないだろうと俺は賭けに出て全てを話した。するとその元老議員はリストを作り、リストにある生存する奴隷オークをすべてを高値で買収したのだ!
──そしてその元老議員は、ファンセイヌへ更に高値で売却した!
『キキキッ! 帝国の兵士は一掃しましたぜ! オークの旦那! しかしオークである旦那が奴隷になるなんて珍しい……。スパイでもしてたんですかえ?』
復讐に燃えるバターゴブリンの残党は、俺達を護送していた帝国軍兵士を奇襲し一掃した。そしてゴブリン達は俺達の手枷足枷猿ぐつわを外しながらそう言った。俺は猿ぐつわを外されるなり返答する。
『──そんな所だ』
『さすがわッ! キキキ! ──レディ・ボボンギャマッチョ様の本体が近くに来てますぜ! 合流して下せえ!』
『……ん~ふ。そうか……武器はあるか?』
『死んだ帝国軍兵士の使えばどうでしょう? では先に行ってまっせ! ウケケ!』
俺達を助けたゴブリン共は軽い足取りで本体へ向かった。そして十数名の帝国軍兵士が血を流し横たわっている。俺達はその手から武器を奪う。俺が武器を奪った兵士は、さっきの下士官だった。俺はそっと手で事切れた彼の目を閉じた……。そして他の兵士とは少し違う剣。その刀身には“最愛なる父の帰還を願って”と書かれていた……。
少しの間考えに更ける俺。そして物音がした。ふと、視線を向けると生存者が居て目が合う。そこにはさっき俺に唾を吐きかけた兵士が居た。まだ生きている。兵士は慌てた顔をするが負傷し動けないようだ。なるほどゴブリンの痺れ毒か。
『ウッ……ウグッ……!』
俺は“シー”と口の前に人差し指を立てる。まず、そいつの武器を奪ってから、かわりに下士官の剣をそいつの胸の上に置いた。戸惑うそいつ。そして俺は帝国軍の旗をそいつに被せて隠した……。解放された他のオーク達は俺に問う。
『“ハンカチーフ”……これからどうする……?』
俺は何の疑問も持たずして即答した。
『──まだ、俺達の反乱は終わっていない』
無事ジェンヌへ帰還したヘンタイヌ男爵。
『やったぁ~! 帰って来たぞぉ~!』
『だが! 俺達の冒険はここからが出発!』
『母上! 俺は立派な男になります!』
「──急いで想一郎殿に報告と許しを得なくては!」
しかし城はもぬけの殻であった。僅かに残された衛兵は焦って報告する。
『え、エロい・ド・変態男爵!? い、生きておられたのですか! しかし、大変です! 貴方様の城がオークに突如包囲され、紅森山全軍はそれを迎撃するため出陣致しました!』
「──なに!? わかった……。こうしては居れんッ!」




