第十一話その二 普通に奇襲しとけよ
【オーク軍を探すディンゴ少将】
ガハハ! やった! 俺、遂に少将へ昇進したぞ! ガハハ!
と、笑っている場合ではない。帝国が意図的に通過させたのか本当に振り切られたのかはわからん。とにかくオーク軍がこっちへ向かっているとの話で必死こいて偵察する我が軍。しかし手掛かりは一向にない。
通常は北から荒廃街道を通ってくるはずだが形跡がない。帝国領からか? もしかしての王都側からか。とにかく四方を陸空それぞれの冒険者を雇って偵察するが、入ってくる情報は例の奴隷オークとそれを護送する帝国軍の報告ばかり。
俺達全軍は動くに動けず、ジェンヌ郊外で野営をする日々が続いた。もしかしてガセネタか!? 俺達の中でそんな不信感が募り始めたその時、突如として偵察報告がわんさか入って来た!
ジェンヌから東、海沿いに少し行くとヘンタイヌ男爵の小さな領地がある。その少し北で巨大な穴掘りワームの情報が入って来たのだ! とある冒険者達が陸空揃ってそのワームを倒した後、なんとその穴から大量にオークが湧き出してきたと言うのだ!
そしてボボンギャマッチョの姿を見たと言ってきた!
俺達は急いで進軍を開始! 敵軍を補足した! すると城主不在の城は既に包囲されておりピンチだった! しかし本気で落とす気はあったのか? 俺達に気付いたボボンギャマッチョはあっさり城の包囲を解き、我が軍と対峙したのである!
「穴掘りワームじゃと!?」
「あぶねぇ! あんなのが都市直下に現れたらヤバかったな!」
「なるほど。帝国軍の追跡を躱したのはアレがいたからか!」
冒険者達が倒した超巨大な穴掘りワーム。強烈な異臭を放つその遺体は俺達を震撼させた! オーク軍はあくまで野戦で決着を着けたいと考えたのか? わざわざあんな所に穴を掘ってくるなんて。使い方次第では決定的な奇襲を仕掛けられたはずなのに!
そしてボボンギャマッチョが先頭に立って罵声を浴びせてくる!
「想一郎! ここであったが百年目! 今日こそは貴様をボコボコにしてアタイのお婿さんにしてやる!」
『『『ウガァァァアアア!』』』
ボボンギャマッチョの罵声に呼応するオーク軍団! 見ればバターゴブリンの残党も僅かに参加している。すると今度はオンドレアお嬢様がどこからそんな声出せたのか? 負けじと罵声で言い返す!
「まぁ! 絶対にありえませんわ! 私の想一郎様は私専用のお婿さんなのよ! 筋肉ビッチ! むしろボコボコになるのは貴方! 3秒で壊滅させて差し上げますわぁ~! オ~ホッホッホ!」
『『『ウェーイ!』』』
我が軍も盛り上がる! が、想一郎は眉をひそめ複雑な表情だ!
「いったい何の言い争いだ!? 謎である!」
「いや~うちの領主さまは妙に人気ですからねープフフ」
それも妙だが、これも妙だ。敵は砲撃を恐れて一気に近接戦闘を仕掛けてくると思ったが、余裕の布陣。これは間違いない。何かある!
「なぜ彼奴等は砲撃を恐れない? ソフィア殿。そこもとはどう思うでござるか?」
「チッ! 醤油ゴリラ共め! トリックはなんだ!? だが今日こそ奴らを本当のテリヤキにして、将官に昇進してやる!」
昇進を保留されたソフィアはそれを根に持ち、いつになく双眼鏡を前のめりで覗き込んで敵陣を凝視した!
「落ち着くのじゃソフィア。想一郎。試しに魔力を温存して軽く砲撃してみるぞい?」
「そうだな……もしかしてあいつらは何かを用意しているんじゃないか? 一応念のため、ナウススは防壁魔法をいつでも展開できるにしといてくれ」
「のじゃ!」
「何かを用意? ガハハ! 醤油とんこつラーメンが食いたくなってきた!」
『砲撃レディ!』
「──ファイエル!」
ソフィアの指示で魔術師砲撃支援中隊は単発一斉射を敵陣へ撃ち込んだ! だが全ての砲弾は突然弾道を変え、すべてボボンギャマッチョへ吸い込まれていった!
「「「──何!」」」
──ドガガガガーン!
そして戦場の風が砲撃の煙を掻き消すと、ボボンギャマッチョは余裕の“フハハハ”ポーズ!
「見るがいい! アタイの新スキル! 『全てのタマタマは私の物』──ッ!」
「「「──な、なんて下品なッ!」」」
遠隔攻撃100%無効を利用した、身代わり自殺スキルだと!?
「フハハハ! 今度はアタイのターンだよ! ──放て!」
「「「──ッ!」」」
敵陣後方から何かが撃ち出された! 魔法か? 投石器か? いやあれはバターゴブリン!
『ギャギャァアア! 亡国の恨み、果たさせて貰うギャァァアアア!』
『『『ギャァァァアアアア!』』』
「──あれは一体!?」
あ! あれは!
「想一郎! あれは『カミカゼゴブリングライダー』だ!」
「「「──何!?」」」
「謎だ! 驚きの連続である!」
「プフフ。ほんと英霊に失礼な名前だよねー。──迎撃するよ! 撃てー!」
ロングボウ隊から放たれる無数の矢は迫るカミカゼゴブリングライダーを何機か撃墜しそうになったが、それもまたボボンギャマッチョに吸い込まれてしまった!
「あーそうだった……プフフ」
だがナウススが詠唱する!
「ふんぬ! 防壁魔法! 『ただの壁』──ッ!」
──ゴインッ!
『『『ギャァァ……!』』』
魔法の壁に激突して力なく墜落してゆくカミカゼゴブリングライダー……! 被害ゼロ! 余裕か? だがナウススは苦笑する。
「そう何度も詠唱は出来んのじゃ!」
『ディンゴ様! 次弾来ます!』
「くそ! 早い! マズイ!」
アトランティアを出たヘンタイヌ男爵は、ジェンヌに向かう途中、ヴァイキングとはまた違う海賊の艦隊と海戦へ発展した。
『ローシェ! 今日こそはぶっ潰す!』
しかし手馴れた様子で“ロロ姉さん”ことローシェ・デ・ロイテル提督は、横に並ぶ敵艦隊に対して単縦陣(縦一列)で突撃を開始(ネルソンタッチ戦術)、だが突然敵前で艦隊をターンさせると(東郷ターン戦術)、少し距離を開け、並列して暫く魔法による砲撃戦を繰り広げた。
暫く後、ロロ姉さんは突如、全艦一斉転陀を命令。陸の方へ艦隊を撤退させた。
両者大きな被害がないまま撤退するロロ姉さんに疑問を持つヘンタイヌ男爵。敵は全速で追跡してくる。しかし彼女には考えがあった。敵味方共に喫水の深さ(船が海へ沈み込んでいる深さ)を熟知した彼女は潮の満ち引きを利用して、なんと敵海賊艦隊を“全艦座礁”させてしまったのだ!
『うぉ~すげぇ……』
『神憑ってる……』
「敵は降伏しましたな……提督はどうするおつもりか」
「全艦拿捕して艦隊へ吸収する。──ヒック! 歯向かう奴は海へ放り投げる。──ヒック」
(酔っていてこれか……!)
『マンマ! 俺、この人についてゆくよ!』




