第十話中 ソフィアの悩み
【リベンジに燃えるソフィア大佐】
やってくれるじゃないか!
私だけでなく、多くの仲間のプライドをズタズタにしてくれた奴の名前は正式には決まっていない。身体的特徴は……デカい? パワフル? いや違う。ではなんだ? 大軍? 壊滅的な魔法を駆使する? いやそう言う訳でもない。所謂……その、つまり……
──チキン(鶏)だ。
歴戦錬磨で大ベテランの精鋭が集まる先行攻略組に、地上でさんざん魔法を駆使して暴れまわった我が魔術師支援大隊でさえも、とにかく完膚なきまでに最深部のボス部屋から私達を追いやったのは何と、たった一匹の
──チキン(鶏)だ。
奴はすべての攻撃を躱す。まるで質量のある分身を残すかのような身のこなし、今まで食用にされたチキン全ての魂に応えるべく、何度でも復活してくる不死身のニワトリ!
なんと数十人が負傷し、十数人が殺られ、数百人が撤退した……!
まるで影の様に迫り、予測のつかない方向からまさかの啄み攻撃。仲間の叫び声にふり返ればもうそこに奴はいない……! ラッキーショットで手応えありとしても、そこに残るのは土のついた謎の手羽先。では広い部屋ならと、光源魔法を唱えまくって部屋中央に固まって全方位を警戒する。しかし気付いたら誰かの肩の上で奴はこう叫ぶのだ!
──コッケコッコーッ!
隊は恐慌に陥った……! 散開してチキンをガンフィンガーアタックで攻撃するも全ては術中。誤射、同士討ちの無茶苦茶な混乱状態。一緒に逃げた仲間が背後で叫び声を上げたかと思い振り向けば、チキン。
『──ギャァァァァア!』
もはや指揮統制は不可能。完全に破壊された指揮系統は、無事に帰還を祈るだけのお祈りタイムと成り果ててしまった……。
『もうだめだぁ……俺はビーガンになる……ビーガンになれば許してくれるかも……』
『完全菜食主義……だと? くそ! だったら死んだ方がマシだ!』
『ま、まて! 動体センサーに反応がっ!』
『なに!?』
──カチッカチッカチッ……。
『こ、こっちへ来るッ!』
──コッコッコッコッコッ……コケ──ッッ!
『『『──ギャァァァァアアア!』』』
生還した者たちはみな、焼き付けられた恐怖に眼がマグロの様だ。そこに生気はなく、希望と共に光を奪われたかの様な瞳だ……! くそ! 一体どうしろって言うんだ!
『死神だ……あいつはまるで死神だ!』
『ああそうだ! 俺達が今まで食ってきた鶏の数だけ強くなる死神チキンだ!』
『死神チキン……! 奴は……奴はグリムリーパーチキン!』
『『『──グリムリーパーチキン!』』』
『『『う、うわぁぁぁぁああ!!』』』
これはもうだめだ!
「──落ち着け! 一旦立て直す! 撤退だッ!」
☆☆☆
「──と、言う訳です想一郎様」
「「「グリムリーパーチキン……!」」」
(プフフッ……)
(なんともはや……謎である……!)
「あらあらぁ? で、どうしてボス部屋のドアから煙が出てるのかしら?」
今作戦からエロワ・ド・ヘンタイヌ男爵の不在の穴埋めとして第一騎兵連隊を指揮する事になったオンドレアお嬢様。あくまで仮なので指揮権はあってない様なもの。とは言え既に板についておられる……。
「奴とて生き物です。酸素が無ければ生きられないはずです。そこでボス部屋から出てこない習性を利用して、可燃物をボス部屋の外からありったけ放り込んで蓋をして、三日三晩燃やしてみました……」
(プフフ……えげつねー!)
(なかなか合理的である)
だがしかし、部下が蓋を開けてみると、その奥から恐怖の鳴き声が……
──コーケコッコー!
「「「──ッ!」」」
「チッ……やはりだめか……!」
「ガハハ! ちょっと待て! カンガルーヘッドにやらせてみよう」
笑顔でディンゴ准将がアリス様に催促する。
「え? うんわかったっ!」
アリス様はカンガルーヘッドの角笛を吹きならす。
──ブゥゥゥゥゥゥウウウオオオオオ!
『ディンゴォォォォォォオオオオオオ!』
やられてしまっても暫く置けば復活するこの召喚方法は、安全を考慮するとかなり有効なはずだ。カンガルーヘッドはアリス様の指示通り、ボス部屋へ姿を消す。そして戦闘の効果音が響き渡る。
──ドカバキドカバキッドッカンドッカンッちゅどーん!
激しい戦闘の地響きは、ボス部屋の外でも天井の埃を舞散らす。
──ゴゴゴゴゴゴゴ!
『オウンゴォォォォォォォルゥゥゥゥ!』
「「「──あ!」」」
『ディンゴォォォォォォ────…………』
アリス様は言った。
「やられちったっ!」
そしてディンゴ准将は呟く。
「あいつの獣神化は当分ないな……」
「──もう私、行ってくるねっ!」
ああ、やはりアリス様がやってしまうのか……。
──ポコーンッ!
ボス部屋から飛んでくるチキン(鶏)。奴の恐怖を知る者達は一斉に距離を取る!
『『『…………ッ!』』』
だが恐れ知らずの姫園一生はそれを拾い上げ羽毛をむしり出すと言った。
「ジュリア! 調理頼む!」
「あいよっ!」
(プフフ。私達の出番なしですねー)
(ん~料理人が居ると魔力を使わなくて楽だな……)
『『『えっ? あ、えっ? ……ウェーイ!』』』
呆気にとられるのもつかの間、兵士達は歓声を上げた! 奴との戦いで、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を起こしてた兵士たちの目に、再びかつての活力が蘇った! そしてアリス様が戻ってきて言った!
「ねぇねぇ! ボス部屋の奥にでっかい扉があるよっ!」
「「「──っ!」」」
ヘンタイヌ男爵は、エリノール大森林のウッドエルフ達に暫く匿われた。だが、常に緊張の連続であった。野生生物以外がうっかり野生生物を傷つけた場合、暴行罪。うっかり殺生してしまった場合、殺人罪で処刑されるのである。蟻であっても……!
──所謂、生類憐みの令である。
それは過激派環境保護主義社会の国ならではであった。エリノール大森林は南北に穏健派と過激派と分かれていたが、そんなのどうでも良く、ヘンタイヌ男爵はそこを更に西へ離脱した。するとそこはもう人間世界。ウェスランド七王国であった。
「ふぅ……愛があればなんとかなるのだ……!」
『あ~もうここまでくれば助かったも同然だ!』
『か~ちゃんに会える!』
『バ、バカ! 余計なフラグ立てるなっ!』
『『『──俺達は、北マグナビス暴走部族連合!』』』
『『『────ッッ!?』』』
──男爵達は、ヴァイキング達に連れ去られた!




