第九話下 答えは地道な作業だった
【オンドレアお嬢様を守らねばならないエマ・リスモン】
案の定太刀打ち出来なかった私とお嬢様。
私はどうにか力を振り絞って捨て身の攻撃をするも、
「モブはすっこんでロッ!」
そう言われながら放りだされて、頭を打ち昏倒してしまう。景色は霞み、話し声はまるでパイプを通して聞こえてくる様……。うぅ……力が入らない……。
「覚えているッキ! 初戦に馬車で現れた時ビビビッて来た! お前は間違いなく重要人物! あの時お前さえ捕まえてればわざわざこんな所まで来る必要はなかった!」
「だ、だからなんなのよっ! このっ!」
オンドレア様は斧を投げるも弱弱しく、軽く弾かれてしまった様。
「この頭のバターが何なのかわかるか? わかるまいナ! お前ら人間にゴブリンの苦しみなどわかるわけもない!」
「し、知るわけないでしょ! 馬鹿なの!?」
「キキキッ! 何百、何千万年とオークに腕力で従わされ、日の目を見る事のない我らゴブリン。新天地はなく野外は貴様らばかり! このバターはな! 本来獲物の頭にのせる儀式用のバターだったのだ! しかし、それを自らの頭の上にのせる! この意味はッ! 決死の覚悟で王国を築く為だっキッ!」
ごめんなさい想一郎様。あんなに大切にして下さったのに……。貧困街に多額の資金を提供し、こんな私でも親身になってお世話してくれた人。私は恩返しがしたかった。
「だったらオークを倒せばいいじゃないの!」
「出来たらとっくにやっとるわ! キキキ──ッ! フフッ! フフフ! そうだ! そうだッ! まずは貴様を人質にするだろう? そして、そして! まずは金を要求した後足りないっつって、今度は領土をもらう! そう! それがいい! 領土! 安住の地! 何人も犯し難し神聖な地ッ! ゴブリンの桃源郷!」
「何をぶつぶつ言ってるのよ! 大体なんであの時のゴブリンの大将がここにいるのよっ!」
冒険者となって頑張って稼いで、お腹いっぱい孤児達にラーメンを食べさせてあげたかった……。
「うるさい! うるさいうるさい! 俺はテレポートできる! でも一族で来れなきゃ意味ない! だから突破する必要がある! あ、待てよ……ああ、しかし一族減った……マズイ! 増やさないと! そうか! お前メス! ちょうどいい! ゴブリンの子宮になってもらうぞッ! ヒャッハー!」
「「──ッ!」」
ウッキースマイルはオンドレア様を無理やり四つん這いにし!
「ちょっと!? ちょっとちょっと! まち! ──ウッキャァァァァ!」
「お前! ゴブリン女の様な鳴き方するな~ッ! 興奮する!」
くぅ! 力が入らない! お、オンドレア様!!
──ガキーンッ☆
「あ、ありゃりゃ!? 俺のが……俺のが折れた……? どゆこと……?」
「あらあらぁ~? 大したことないのね? ふふ、ふふふ! オ~ホッホッホ!」
「──ウギャァッ!? い、痛いぃぃぃぃいい!」
「──当然ですわ! 淑女たる者、当然の嗜みですわ! ジャーン!」
……え? オンドレア様はなんと大胆にも、スカートをたくし上げて見せる! すると、そこには! 見るも輝かしい黄昏色の貞操帯が!
「──因みにアダマンタイト合金製ですわっ! オ~ホッホッホ! まさに『何人も犯し難し神聖な地』ですわ! オ~ホッホッホ! 私は絶対諦めませんわよっ! この甲斐性なし中折れゴブリンがっ!」
──コッキーン☆
オンドレアお嬢様はウッキースマイルの股間を生で蹴り上げた!
「うぎゃぁぁぁあああ!! ちくしょぉぉぉおお! このっ! コノォォォォォオオオッ! 一発殴らせろぉぉおお!」
そう! そうだよね! オンドレアお嬢様! 私も諦めないっ!
ウッキースマイルがオンドレア様に殴りかかる! しかし!
──ドスッ!
「──ウッ!? ……は、はぁ?」
ウッキースマイルは脇腹を気にする。滴る暗い緑色の血。その脇腹には私の剣! 私はやっと何とか動けるようになった体に鞭打って、気合と根性で剣をウッキースマイルに突き立てた!
「なんじゃこりゃぁぁぁぁああ!?」
だけど浅かった! 私は思いっきり跳ね飛ばされる!
「キャァァァァア!」
「ングゥゥゥ! ハ……ハァ……痛い……ハァハァ! これは色々な意味で痛い……!」
「ふ、ふふ! ざまぁ~ないですわね!」
「ヌフゥゥゥゥウ! くそぉぉ! このぐらい回復魔法で何とかなるギギギ! 回復魔法! 『子牛ちゃんハァハァ』──ッ!」
しかし何も起こらなかった……。
「あ、あれれぇぇ!? 可笑しいぞ!? どういう事だっキィ!」
「──謎である。残念ながら貴様の魔力は封じさせて貰った!」
「プフフ……なんとか間に合ったー!」
(……て、言っていいのかな?)
「ロスタ! エリザベス! ちょっとっ! 遅すぎじゃないのっ!」
た、助かった!? なんか沢山人が来たぁ~! そしてウッキースマイルは焦りだす!
「こ、これはマズイ……こういう場合は『テレポート』……は、出来ないから……180度向きを変えて」
ウッキースマイルは振り返るも
「今度は逃がさないよっ!」
「──げぇアリス」
「盾フック!」
──バチゴーン!
「ギャァァァァァァアアア!」
ウッキースマイルは壁を突き抜けて、隣の部屋に吹き飛ばされたっ! な、なんて規格外な威力! あ、あの人が、想一郎様の妹君……アリス様!?
「エマ! オンドレア! 無事か~!?」
あ! 想一郎様! それとディンゴ様? ナウスス様?
「くそぉ! ウッキースマイルの野郎! どうやって!?」
「ぬぬぬ! これはあまりにも想定外なのじゃった!」
(プフフ……てか隣の部屋、地獄の門ですねー……)
(なんと都合の良い……謎である)
そしてアリス様はウッキースマイルを盾アッパーで宙へ浮かせると、空中コンボでボコボコにシバキ倒し崖へ追いやった! 強すぎる!
「ぐ、ぐふぅ……俺だけに与えられた技能……テレポート……なぜ使えない! ぐふっ……単独で来たのは間違いだったか……! ……しかし、しかし収穫はあった……キィ!」
想一郎様オンドレア様、そしてナウスス様は言う。
「さぁ観念しろ! ウッキースマイル! 年貢の納め時だ!」
「よくもっ! よくも私にその汚らしい手で触ったわねっ! 絶対に許さないわよ!」
「しかし、貴様対策で新開発した魔封じ魔法『イマジンブレイカーさん』をまさかこうも早く使う事になるとはなのぅ……これで貴様はもう、いかなる魔法さえもつかえんのじゃろう……」
「ぐぬぅ! そ、そういう事だったのか……! くそっ! くき、くきき! だが、だが我がゴブリン王国の夢……幻想は遂に打ち砕かれようとも! 我が同胞は……すでに叶えていた!」
「な、なに!? どういう事だ!?」
「キキッ! 想一郎ぉぉ! ──輝彦に宜しくな!」
「「「────ッ!?」」」
そしてウッキースマイルは何かを悟ったのか、息も絶え絶えでありながら立ちあがり、そしてゆっくりと、頭にバターを乗せると……なんと、自ら地獄の門へ身を投げ出したっ!
「「「────な!?」」」
「さらばぁぁぁぁぁああ! 想一郎ぉぉぉおおおおお!」
落ちて行くウッキースマイル……! ロスタエルさんはすかさず言う!
「誰か一人でも連れてテレポート出来るのなら、何往復もすればよかったろうに……まったく謎である……」
「「「──あっ!」」」
「──ウギャァァァァァアア!! その手があったぁぁぁぁ────……!!」
──ボッ!
ウッキースマイルは地獄の門へ姿を消した……。
「想一郎様ぁ~! ハグしてハグ~!」
「──エマ! 大丈夫か!」
「え? ちょっ!?」
「エマの意識がない! ナウススッ!」
「回復魔法! 『音速スピードオペ』──ッ!」
「ちょっちょっと!? 私は!?」
「オンドレアは後だ! 全然ピンピンしてるじゃないか!」
(確かにプフフ)
(謎である)
「な、なによっ! その女の事ばかり~! も~! ……ま、まぁ、一矢報いた気合と根性は、そ、その……認めますけど~? だ、だから何なのよっ! 婚約してるのに~! ん~! この、浮気者~! ムキーっ!」
「違う! オンドレア! この子は……この子はもしかしたら……!」
「え?」
「──国王陛下の娘かもしれないんだッッ!!」
「「「えぇぇ────ッッ!!!?」」」




